夜うさ

□君にだけ
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夜「ーーへぇ、いいんじゃない。」


夜天の部屋に顔を出すと大袈裟だろうと思うくらいに、夜天がリアクションをとった。
そんな反応をされたら、どうしたらいいのかわからなくなる。意味もなく視線を彷徨わせてから、うさぎは恐る恐る夜天の前へと足を運んだ。
じーっと頭の天辺から足の先までを見つめられて、居心地が悪い。というか、居たたまれなくなってきて、うさぎは熱くなる頬を隠すようにして、顔を手で覆った。


夜「顔隠さないでよ。もっとよく見せて…」

う「無理だよっ!夜天くんがじっと見つめるから……!」

夜「普通見たいでしょ?好きな子の可愛い姿。だから隠さないで」

う「無理 ! もう勘弁して!」


夜天が近付いてくる気配を察して、うさぎは体を抱き締めるように腕を交差してしゃがみこむ。


う「もう着替えていいでしょ?」

夜「だめ。僕全然見れてない……」

う「だってこんな……あっ」


半泣きで顔を上げた瞬間、うさぎは夜天に抱き上げられていた。
咄嗟に夜天の首に腕を回して、けれど慌てて離す。すると夜天がクスッと喉を鳴らして笑った。


夜「ーーそんなに恥ずかしい? すごく似合ってるのに。」

ポスっとベッドに腰掛けながら、けれど夜天はうさぎを離してくれない。
当然うさぎは夜天の腿に座る形になってしまう。
まじまじと至近距離にある夜天のエメラルドの瞳を見つめてしまってから、慌てて下を向く。
そして視界に入ったのは自分の剥き出しの足で、更に慌ててセーターを引っ張った。
 
今、うさぎが着ているのはメンズものの大きなセーターとショートパンツだ。
セーターは白くてもこもこしていて可愛らしい作り、デザイン的には女の子が着ても違和感はないのだが、如何せんサイズが大きすぎる。
夜天が着れば丁度いいか、下手すれば夜天でも大きい。そんな大きいセーターを着てしまえば、下に穿いているショートパンツは隠れて見えなくなって、まるでセーターだけしか着ていないように見えるのだ。
夜天が仕事を終え帰宅すると同時にうさぎの所へ来て、「これあげる、今着てみてよ」なんて真面目な顔で言うから、ついつい流されるように着てしまったけれど。


う「これあたしにじゃないでしょ!? 自分用か、星野じゃないの?」

夜「僕が星野に買うわけないでしょ。ちゃんと君にだよ。君に似合いそうだと思ってたら、いつの間にか買ってた。」

う「買ってくれるのはありがたいけど、サイズが全然違うよ…;」

夜「君よく食べるから大きいサイズがいいと思ってね、また大きいの買ってきてあげる」

う「普通のサイズで買ってよ;」

夜「いいから、いいから」

う「何がいいのよ;」


嫌々と夜天の腕から逃れようと腕を突っ張ってみても、うさぎの細やかな抵抗は簡単に押さえられてしまう。
それどころか、寧ろ夜天は楽しそうにそんなうさぎを見下ろしていて・・・。

夜「今度はシャツとか、トレーナー着てもらおうかな…。」

う「なんか言い方がやらしいよ///夜天くん、変なこと考えてるでしょ?///」

夜「そぉ?ま、僕も男だからね」

耳元に唇を寄せて、夜天はますますギュウッとうさぎを抱き締めてくる。
吐息が耳を擽ると体が震えてしまう。


夜「それにさぁ…うさぎ、前に、僕の服着てたでしょ? 僕の匂いに包まれたいって…。」

う「っ!!//////」

夜「僕も君の匂いに包まれたい。君の甘い匂いって、ほんと頭がクラクラするくらい僕にとっては刺激的なんだけど、…だぼだぼの服着た君、凄く可愛いよ。」


背筋がゾクリと震える程に、夜天の声音は優しくて温かくて、甘くて。彼がわざとこんな声を出しているとわかっているのに、震えを止められない。


う「それって、あたしだけに?」

夜「え?」

う「だぼだぼの服をあたし以外の女の子が着てても、夜天くんは可愛いって思う?」


何をくだらない事を訊いているんだろう…。架空の人物に嫉妬でもしてるのか…。夜天は人気アイドルで、夜天の周りにはきっと可愛い女の子がいっぱいいる。
女優と共演したり、一緒に写真撮影もあるだろう。もしその時、自分みたいに相手の女優さんが、だぼだぼの服を着て、なんて事があったら…。
そんなことを考えて、胸がモヤモヤしてしまうのも嫌だ。
キュッと夜天の胸元を握り締めて、うさぎは唇を噛み締めた。


夜「………。」

う「あ、あの……つまらないこ……っ、ん」


夜天の反応がないことがこわくなって、窺うように顔を上げたところで唇を塞がれた。いや、塞がれたなんて生易しいものじゃない。噛み付かれるような口付けが降ってきた。


う「ふ、んんっ……!」


唇が触れた瞬間、このまま全てが夜天に喰われてしまうのではないかと思った。突然の吐息すら奪うような激しい口付けに混乱する。
そうでなくても呼吸が乱れて苦しいのに。まるで水に溺れているかのような感覚。苦しいのに、全身を包まれているかのような安堵感。矛盾しているのに、もっと感じていたいなんて。

う 「…ふぁ……ん…」

夜「ーーいい顔だね」

 
うさぎの唇にまた軽くキスをすると、夜天はうっとりと目を細めた。
濡れた唇から、はぁはぁと荒い息を吐きながらうさぎはくてっと体を夜天に預けた。
夜天はうさぎの頭を優しく撫でながら、内緒話をするかのように耳元で囁いた。


夜「僕が可愛いと思うのは、今はもう君にだけだよ。ーーついでに欲情すんのも君にだけ。自分でもビックリするくらい、うさぎに夢中なんだよね…。」

う「……夜天くん」

夜「だから安心して。嫉妬してくれるのは嬉しいけど、…僕はうさぎが好き。大好きだから」

う「……うん。あたしも夜天くんが大好き。セーターも本当はすごく嬉しかったの。ありがとね」

夜「どーいたしまして」

微笑む夜天にうさぎは安心したように目を閉じて、彼の首筋に鼻を擦り付けた。世界で一番安心する場所。ここはうさぎだけのものなのだ。


夜「ーーねぇ、知ってる?」

う「え?」

夜「異性が服をプレゼントするのは、その服を脱がすためなんだって…。」

う「……な゛っ//////」

夜「安心して、今はやらないから。…ゆっくり二人きりの時間が出来た時に、ね?」


ニッコリと笑われてしまえば、毒気も抜かれてしまう。うさぎは再度体の力を抜いて、夜天にもたれ掛かった。
抵抗はするけれど、拒否はしないであろう未来の自分の姿が容易に想像出来た。結局は夜天には勝てないのだから。







END

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