夜うさ

□キスで始まる
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パンはきつね色にこんがりと焼けて…を少し通り越したが、香ばしい匂いをしている。
ミルクが多めになっちゃったコーヒー、ベチャとしたトマトが彩るサラダ、ベーコンエッグは半熟気味に…したかったけどやりすぎて固まった…。

ーーそんな朝食の準備が終わってあたしはベッドルームへ向かう。
まだお布団の中で夜天くんは丸まっていた。
あたしはそんな彼の肩を揺する。

う「夜天くん、起きてぇ。朝ごはん出来たよ〜。」

夜「んー……」

ゆるゆると瞼が開けられるけれど、眠たげに瞬きがされるだけでまた閉じてしまう。

う「今日は朝から収録だって言ってたでしょ?遅刻するよ?」

夜「うん……」


困ったなぁ…。
夜天くんはこんな風に、寝起きがよくないことがあるのだ。
ぺちぺちと頬っぺたを叩いてみるけれど瞼は閉じられたままだ。
はぁ、と一つため息。
このままではせっかくの朝食が冷めてしまう。

う「もー、本当に遅刻してもあたし知らないからね?」

そう言って夜天くんから離れようとすると腕を掴まれた。

夜「……うさぎがおはようのちゅーしてくれたら起きる」

う「な゛っ!!////朝から何言ってんのよ!しかも、起きてるじゃない!////」

夜「ーー起きてない。」

明らかな嘘に眉をひそめても夜天くんは知らんぷりを決め込む。
夜天くんからわがままを言われるのは、本当は嫌じゃない。
だってこんな風に甘えてくれる事なんて滅多にないし…。
仕方ないなあ、とさっき叩いてしまった頬っぺにキスを落とした。

う「こ、これでいいでしょ?////起きてよ////」

夜「今の無し!リテイク!!」

う「リテイ…ク?;」

夜「やり直しって事」

う「ちゅーはちゅーよ!さ、ご飯たべよ?」

にっこりと笑顔を返すと夜天は拗ねた顔をした。

あ…可愛いかも…。

夜「うさぎのいじわる。」

う「いじわるなんていつも夜天くんがする事でしょ!;」

あたしがふくれっ面で言うと夜天くんは更に拗ねた顔をする。
このまま拗ねさせてると本当に遅刻しかねない…。
いつもは夜天くんがするため息をまたあたしがする。


う「じゃあ、仕事行く前に…ね?」


こんな事言うなんて恥ずかしかったけど、仕事行かないと大気さんに怒られちゃうもんね。
ーーそしたら夜天くんは頬を赤らめてコクリと頷いた。
なんだか子どもみたいだなあとくすくす笑っているとパジャマを脱ぎ出したので急いで部屋を出た。
着替える時は一声掛けてもらいたいところだ。
あたしは朝食をすぐ食べられるようにしておこう。

暫くして着替え終わった夜天くんがやっと部屋から出てきた。
洗面所で顔洗ったり身嗜みを整え椅子に座る。


う「いっただきまーす♪」


夜天くんも小さく「いただきます」と言うとコーヒーを口にする。


夜「……甘;」

う「ごめんね、ミルク入れすぎちゃってぇ;」

夜「…まぁカフェオレ飲んでると思えば飲めるからいいけど…。」


少し失敗した朝食の感想をひとつひとつ聞いてみると・・・

パンは?って聞けば「サクサクしてて美味しい」って言ってくれて

サラダは?って聞けば「新鮮だね」って言ってくれて

ベーコンエッグはって聞けば「普通に美味しい」って言ってくれた。


あたしが料理下手なの知ってても決して不味いとは言わず、ちゃんと食べてくれる夜天くんにあたしはきゅんとした。


食器を洗っていると夜天くんはソファの上でまた瞼を閉じていた。
最近夜中まで仕事してるから無理もないが…。
洗い終えるとあたしは夜天くんの部屋からコートを持ってくる。


う「夜天くん、もう行かないと」

夜「……うん」


目を擦りながら立ちあがりコートを羽織る。
玄関までの廊下を二人で歩き夜天くんは靴を履いた。
そして夜天くんは振り返り目を閉じた。
「えっ?;」と言うと夜天くんは片目を開けて「早く」と催促しまた目を閉じてしまった。

目を閉じられて待たれると中々照れくさい。
それでも待ってるんだからとあたしは、いってらっしゃいのキスを彼に贈った。


夜天くんは満足そうに「ありがと」ってあたしに笑顔を向けて仕事に出掛けていく。



夜天くんが行った後あたしはへなへなとしゃがみこみ、胸の鼓動が治まるのを待った。



そしてその鼓動を感じながらあたしは、幸せだなぁ、と思う…。






END

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