夜うさ
□雨宿り
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ザァ――・・・
急にどひゃぶりの雨が空から降り注ぐ・・・。
まるで、全てを洗い流すように・・・。
今日仕事が休みで良かった。
こんな日は家を出ないのが一番。
窓の外を見つめ雨が降るのをじーっと見続ける。
夜「ハァ――・・・・」
雨が降っていると、なんとなく暗い気持ちになってしまう。
じめじめするし、だから雨は嫌いだ。
ピンポーン!
夜「・・・。」
誰かが家のインターフォンを鳴らす。
出るのもめんどうだし、シカトしようと思った。
変わらず降り続ける雨を眺めていると、またピンポーン!と鳴った。
まぁ…暫くすれば諦めるだろう。
ピンポーン!
夜「・・・。」
ピンポーン!
夜「・・・。」
ピポピポピンポーン!
夜「ーーったく!」
あまりにもしつこく鳴り響くインターフォンに痺れを切らした僕は渋々立ち上り、玄関モニターを覗く。
夜「っ!!」
玄関モニターに映っていたのは長い黄金色の髪を濡らした月野うさぎだった。
夜「ーー何の用?」
マンションの自動ドアを開け、玄関の扉を開けるとびしょ濡れの彼女が立っていた。
う「いやぁ、暇だったから散歩してたの。そしたら急に雨に降られちゃってぇ(笑)…っでそう言えばこの辺夜天くん家近かったなぁって…。お邪魔だった?」
夜「別に…入ったら。」
うさぎをリビングへ行かせると、うさぎにタオルを渡す。
僕からタオルを受けとった彼女は濡れた髪と服を拭いた。
う「夜天くん何してたの?星野と大気さんは?」
夜「ーー何もしてないよ。二人は仕事」
相変わらず賑やかい…。
余程寒いのか…小刻みに肩が震えている。
仕方ない…風邪引かれても困るし…。
僕はキッチンへ行きマグカップにココアを淹れた。
「…ん」っと素っ気なく渡すと、ニコニコしながら「ありがとう♪」と言って冷えた手をマグカップで温めていた。
来てから立ちっぱなしの彼女をソファに座らせた。
彼女はフゥフゥとココアを冷ましながら美味しそうに飲んでいる。
自分も飲みたくなってもうひとつココアを淹れて、向かいのソファに座って飲む。
シーンとした空気が気不味いのか、彼女は僕の方にチラチラと視線を送っている。
夜「ーー何?」
う「へっ?」
夜「チラチラ見てるから…」
う「え、いや…何でもないよ;」
夜「…そっ」
ココアを飲み終えた彼女はどうしたらいいのか分からず視線をキョロキョロ泳がせていた。
僕は素知らぬ顔をして残ったココアを流し入れた。
空になった2つのマグカップをキッチンに持っていき洗っているとリビングから…
ぐぅ〜〜・・・
う「あっ!//////」
彼女のお腹が盛大な音を鳴らす。
僕の顔をチラッと見て視線が合うと「あははは」と照れ笑いして俯いた。
ハァー・・・、世話のやける。
確か冷蔵庫に肉まんがあったはず。
冷蔵庫を開けると一番上の段に肉まんがあった。
袋からひとつ取り出して、レンジで温めてやる。
夜「ほらっ…」
う「いいの?」
夜「お腹空いてんでしょ…」
う「ありがとう♪……美味しい♪」
ほんと、何しに来たんだか…。
向かいのソファに行くのも面倒だ…僕はそのまま彼女の隣に座った。
大口を開けて食べる姿は色気の欠片もない…。
横目で見ていたら、僕の視線に気づいた彼女が開けていた大口を小さくさせてチマチマと肉まんを食べ始めた。
ーー今更遅いんだけど…。
食べ終えた彼女はもう一度僕に「ありがとね」っと言って満足そうにソファに凭れかかった。
窓の外を見るとまだ雨は止みそうもない。
う「ねぇ、傘ある?」
夜「……あるけど。」
う「貸してくれない?」
夜「まさか、この雨の中帰る気?」
う「うん、夜天くんせっかくの休みなんでしょ?これ以上お邪魔しちゃ悪いかなぁって;」
突然来て、ココアと肉まん食べて……
ーーほんと、何しに来たんだろ…。
それに、帰ると言ってる割りには立とうとしないし…。
また僕の顔をチラチラ見てるし…。
夜「ーー帰るの?」
僕の言った「帰る」って言葉にピクっと反応した。
目を泳がせてるだけで、僕の問いに答えようとしない。
はっきりしない彼女に僕はため息をついた。
僕「居たければ居ていいよ…。」
う「…っ!!」
望んでいた言葉にバッ‼と顔をあげて僕の顔を見ている。
居てもいいと言われるとは思ってなかった彼女は驚いた顔をしていて、ちょっと間抜け面で面白かった。
まぁ…このまま一人で居てもやることないし、家で二人きりも中々ないから居させてあげればいいか…。
う「ねぇ…」
夜「…何?」
う「あの…え…と////」
上目使いで照れながらもじもじする時は、僕に甘えたい時…。
僕があまりベタベタするのが好きじゃないから、毎回甘えていいか聞いてくる。
別にそんな事聞かなくてもいいのに…。
君は特別な子なんだから…。
ちょいちょいと手招きすると彼女が遠慮がちに僕に寄りかかってきたから腕を回し抱き寄せてあげた。
緊張しているのか…体が硬直している。
夜「ーー本当は?」
う「え…?」
夜「ーーここに来た理由…雨宿りだけ?」
僕の問いに目を見開いてる彼女。
本当にただ、散歩してたら急に雨に降られて、近くに僕の家があったから寄っただけ…って事か…。
彼女にはそれ以外の理由はなかったんだね…。
ちょっと…他の理由もあるかと期待してみたけど、期待はずれ…。
彼女から視線をずらし外方を向いた。
すると彼女は僕の服を掴み、震えた声で話す。
う「ーー会いたかったの。」
夜「ーー誰に?」
う「…夜天くんに」
夜「……ふぅん。」
う「ふぅん。って…やっぱり来ない方が良かった?」
違う…そうじゃない。
ただ正直になるのが恥ずかしいだけ…。
…って言っても彼女にはちゃんと伝えなきゃ分からないか…。
ーーバカだし。
夜「来てくれて良かった…。」
う「本当?」
夜「ん…本当。僕も君に会いたかった。」
正直に言えば彼女の頬は赤みがかる。
視線が合えばどちらともなく、自然と唇が引き寄せられた。
唇が離れればさっきよりももっと顔を赤くした彼女が僕の目の前にいる。
視線を合わせるのが恥ずかしいのか、僕に抱きついて顔を隠す。
夜「ねぇ、あんまり引っ付かれると困るんだけど…。」
う「えっ?…あ、ごめんね。」
パッ!と離れた彼女はもっと触れ合っていたかったのか、表情が暗くなる。
分かんないかなぁ…。彼女には…。
夜「勘違いしないで…。」
う「勘違い…?」
夜「それ以上くっつかれたら何するか分からないよ?…僕だって男なんだからさ…。」
理解出来た彼女は顔から蒸気をモクモクさせて耳まで真っ赤にしていた。
その顔につい僕は、吹き出してしまった。
もう少しからかってやろうか…。
夜「うさぎ。」
う「はっはいっ!」
突然名前で呼ばれれば裏返った声で返事をする彼女。
トン、っと肩をついてソファに押し倒して彼女の上に覆い被さった。
夜「しよっか」
う「え゛っ!?//////」
夜「大丈夫、すぐ終わるよ」
う「え、ちょ…待って‼…こ、心の準備がその…それに、あたし汗かいてるからっ!//////」
夜「してもどうせ汗かくから気にしない。」
う「やっ、でも、あたしっ!」
コツン!と彼女のおでこにおでこをくっつけると、彼女の声が切れた。
夜「何焦ってんの?」
う「ふぇ?」
夜「僕が言ってるのはキスだよ?」
う「ぇっ!!//////」
夜「クスッ…うさぎって意外といやらしいんだ?」
う「だ、だって夜天くん押し倒すからっ!//////」
夜「あまりにも警戒心無いから、からかっただけ…。」
う「うぅっ…//////」
これで少しは反省してくれるといいんだけど…。
おでこを離しうさぎの上から退く。
僕の顔を見ながら恐る恐る起き上がる彼女。
う「あ、あの夜天くん?;」
夜「…何?」
う「え、と…しないの?////」
夜「ーーしたいの?」
そう聞くとゆっくりと頷いた。
夜「うさぎのスケベ」
う「えっ?…ち、違うっ!そっちのしたいじゃなくてぇ…;//////」
夜「プッ…ハハハハ、ごめん、君の顔が面白すぎて…」
う「もぉ、夜天くんの意地悪//////」
彼女はフグの様に、プクッと頬を膨らませて僕を睨み付ける。
そんな顔されても面白いだけなんだけど…。
まぁ…したいって言うなら、お望み通りしてあげようかな…。
夜「うさぎ」
名前を呼ぶと顔をあげたから、そのまま顎を支えてキスをした。
きっと突然されて、君はまた目を見開いてるんだろうな…。
唇を離した時には、ぎゅっと目を瞑っていて小動物みたいにぷるぷるしていた。
夜「クスッ…何か飲む?」
う「え、じゃあ…ココア」
夜「ん、分かった。」
僕はキッチンに足を運び、またマグカップにココアを注いで彼女に渡した。
う「夜天くんは飲まないの?」
夜「僕は寒くなったらうさぎに温めてもらうから」
う「〜〜!!……もぉ、すぐからかうんだから//////」
だって、面白いから…なんて言ったらまた頬を膨らませて怒るんだろうな…。
僕は彼女がココアを飲み終わるまで横で待っていた。
すると、急に腕に重みがかかった。
夜「ーーもうとっくに雨止んでるんだけど…;」
殆ど飲み終えたココアを両手で持ったまま彼女はスヤスヤと眠りについていた。
ーーほんと世話のやける。
手を出さない僕に感謝してよね…。
次雨宿りに来たときはどうなっても知らないから…。
END