夜うさ

□夜は月に包まれて
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ーーーふと目が覚めた。
部屋の中は、ベッドライトがうっすら灯っていて薄暗い…
時刻はまだ夜中の1時…
鮮やかなエメラルドの瞳を、もう一度瞼の奥に仕舞おうとするけれど、嫌な記憶がフラッシュバックし始める。

,,,プリンセスが消えていく。
たった一人の大切な人。
その人の為だけに、生きて、戦ってきた。
やっと逢えたのに,,,手も足も出せなくて、助けられなかった。
ただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。
プリンセスの仇を討つため、周りの意見も訊かず、適中に乗り込み、そしてまた…大事な人達を失う。
消えていく人達の悲痛な叫びが…今でも鮮明に頭の中で叫んでる。
不安が心を支配していく,,,
朝…目が覚めたらまた居なくなっているんじゃないか…
また大切な人を探す為に、声を張り上げて歌っていたあの頃に、逆戻りしてるんじゃないかって…

夜が怖い,,,全てを闇に包む夜が,,,
闇は全てを奪う
大事な物も,,,大切な人も,,,
心も闇に覆われて,,,孤独になる。
独りは嫌いじゃない,,,むしろ好き。
だけど…夜の独りは好きじゃない。
嫌な事が蘇る,,,次々と大切な仲間が自分の目の前から消えていく。
寝ても覚めても、そんな不安が脳裏に焼き付いて離れない。
どんどん蘇る記憶に、前髪をグシャとさせて、顔を歪める。
もう…みんな元に戻ったのに…プリンセスも僕たちの側に戻ってきてくれたのに…
手が震える…震える手を押さえるが、両手が震えていて自分ではどうする事も出来ない。
怖い…思い出したくない…もう…やめてくれ…いやだ…これ以上…闇に捕らわれたくない!!

「夜天くん…?」
「っっ!!!」
震える僕の手をとり、闇に埋もれてしまいそうな僕を現実に連れ戻してくれたのは…月野うさぎ
そういえば…昨日僕の家に泊まりに来ていたんだった。
ソファで寝ようとしていた僕の腕を彼女に引っ張られ、一緒にベッドで眠りについたのだ。
不安げな表情を僕に向けている彼女。
なんでそんな顔をしているの?
「夜天くん…泣いてるの?」
泣いてると彼女に言われ、僕は自分の顔を触ってみるとしっとり湿っている。
恐怖に怯え泣いてる事に気づかなかった。
僕の手を握ってる温かい彼女の手を握りしめると、不思議と手の震えが止まった。
「夜天くん?」
僕は滅多にスキンシップをとらないから、握り返された行動に彼女は目を丸くしている。
出会ったばかりの頃突き放していた彼女が、今は僕の隣で寝ているなんて…昔の僕に言っても信じてもらえないだろうな。
最初は彼女の事が嫌いだったんだから。

夜が…闇が嫌いな僕が…何故月も嫌いだったのか,,,
それは…僕の本当の気持ちを見透かされそうだったから,,,
月のプリンセスは戦いが嫌い。
誰かが犠牲になるのも許さない。
奇麗事ばかり並べて、全てを信じようとするその態度が胡散臭い。
そんなあまっちょろい思考しか持たない彼女に僕は腹が立った。
ーーでもそれは、戦いから逃げ出したい気持ちを隠し通すため……
そう,,僕も君と同じ気持ちだった…
戦いたくない…戦いからは…争いからは…何も生まれない,,,
ただ大事なものだけが…失われていくだけ,,,
ーーだけど…戦士として生まれた僕は、戦わなければならなかった。
逃げてはいけない。どんな時も心を乱さず、戦って生きなければ、大切な人を守れない。
そんな気持ちをいつも持っていて、誰かに甘えたり、気持ちを許したりしてこなかった,,,
星野と大気以外他は信用出来ない。
ずっとそう思っていた。
君に逢うまでは・・・
君の光を間近で感じて、感情が表に出てしまいそうなくらい戦いが怖いと思った…戦いから逃げ出したくなった…優しい君の光にすがりたかった…
でもそんな事出きる筈がなくて、僕は君を突き放した,,,
それでも君は僕を見捨てなかった。
側に居てくれた。
君のおかげで大事なものも…大切な人達も戻ってきてくれた,,,
それなのに…この記憶は僕から離れようとしてくれない。

僕は彼女の手を放し、体を起してベッドから降りると、カーテンを開けた。
外は暗闇に包まれている。
いつも闇を照らしてくれてる筈の君が、今日は見えない,,,
「だから…思い出したのかな,,,」
ぽつりと呟く僕の後ろから、起き上がってきた彼女が僕を抱き締める。
「あの時の事思い出しちゃったの?」
「…うん」
僕にそう訊いた彼女は、自分の存在を分からせる様にさっきより強く抱き締めてくる。
「夜天くんは独りじゃないよ?」
「…うん」
「みんなも、あたしも…夜天くんの側に居る。」
「…うん」
僕は彼女の温もりを感じたくて、彼女の気持ちを受けとりたくて、窓に背を向け彼女を抱き締めた。
もっと早く君と出逢えていたら…僕は素直に、気持ちを伝える事が出来ていたのかな?
もっと君を信じてあげる事が出来たのかな?
早く出逢っていたら君を…あんなに傷つける必要なんてなかった,,,
彼女を抱き締める腕に力がこもる。
「ねぇ…」
「なぁに?」
「僕のお願い…訊いてくれる?」
「うん」
側に居てくれるだけでありがたい事なのに、僕は彼女に我が儘を訊いてもらう。

いつでも僕を照らしていて,,,

僕を不安にさせないで,,,

僕の前から…消えないで,,,

そう彼女に伝えると、元々大きい瞳が更に見開いて驚いた顔をすると、すぐに彼女の顔が緩んだ。
「ふふ…」
「なんで笑うのさ?」
「夜天くんってあまえん坊さんなんだね♪」
あまえん坊…まさか君に言われるだなんて思ってもみなかった。
泣き虫で甘ったれな君に・・・
「…うるさい////」
照れて外方を向いた僕に彼女はこう呟く。

「ーー消えないよ。」

あなたが暗闇に包まれて、うずくまり泣いていたら、あたしがあなたを包み込んであげる。
あなたが暗闇の中、道に迷ってしまったら、あたしがあなたを照らしてあげる。
空に浮かぶ月もあたしも、あなたを照らし包み込んであげるから・・・
そう言った彼女は、そっと…僕に口づけをした。
口づけが終え彼女がニコッと微笑むと、僕の背後から光が射し込む。
振り返ると、さっきまで暗闇に呑み込まれていた月が顔を出し、僕を照らしている。
「ね、月もあたしも夜天くんの側に居るでしょ?」
彼女の方に顔を向けると、得意気な顔をして微笑んでいた。
そんな彼女が愛おしくて僕は、彼女のおでこ、鼻の頭、口にキスを落とす。
くすぐったそうに照れてる君が可愛くて、もう一度キスをした。
深めのキスをすると、上手く呼吸が出来ない彼女が苦しいと体で訴えてくる。
離れると蒼い瞳は涙で潤い、頬を赤く染めた顔で僕を見つめている。
「恥ずかしいよ…」
「さっきは自分からしたでしょ?」
「あれは、夜天くんが泣いてたから…」
「…ありがと」
「え…?」
「僕の側に居てくれて…」
「うん」

二人は月が見守る中、静かにキスをした。

君が僕を信じてくれたように…僕も君を信じてる。
…暗闇の中で泣いていても、迷っていても、きっと君が僕を見つけて、照らし…包み込んでくれると信じてる。
だから僕も、君の様に照らす事は出来なくても、君が泣いて迷ってしまったら、僕が見つけて輝かせてあげるよ。
この光が消えないように、僕が君を守るよ。


月キミを一番輝かせる事が出来るのは夜ボクだから,,,

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