星うさ

□仕返し?
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オレンジ色の光が街並みを照らし、遠くでは烏の鳴き声が響き渡っていた。
伸びる影を背に、大気と夜天は並んで歩を進める。


大「結構遅くなってしまいましたね…。」

夜「大気が、物一つ買うのに悩みすぎなんだよ…。だから車で行こうって言ったのに…。」

大「あそこのスーパーは車で行くと交通が不便なんです。駐車場も混みますし、タイムセールに間に合いませんからね。」

夜「ーー大気、僕たちそこそこ稼いでると思うんだけど…;」


そう言って、夜天は呆れた顔を大気に向けた。
夜天の両手には、大きめのビニール袋が一つずつある。
大気の手にも同じ大きさの袋が同じ数だけあり、その量だけでも買い物に掛かった時間を物語っていた。


大「いつ何があるか分かりませんからね、節約出きる所はしておかないと。」

夜「…まあ、別にいいけど…。」


そうやって話しながら歩いている内に、目的地の我が家へとたどり着いた。
大気はオートロックを解いて扉を開き、家の中へと入る。


大「ただいま戻りました。」


大気達がそのままリビングに向かうと、星野が「おかえり」と出迎えてくれた。
そしてソファーには、顔を赤くして怒っている様子のうさぎが座っていた。


大「…うさぎさん、なんか怒ってませんか?」

う「………」


大気はうさぎに尋ねるが、返ってくるのは鋭い視線。
たじろぐ大気をよそに状況をどことなく察した夜天は、星野に視線を向ける。
それに気付いた星野は誤魔化すように、目線をあさっての方向に逸らした。


夜「ーー大気、これ冷蔵庫に入れといて?」

大「いいですよ?星野、ちょっと手伝ってください。」


大気が星野を呼び、二人で買ったものを冷蔵庫に入れる作業に取り掛かる。
袋を手渡した夜天はソファーに近寄って、うさぎの隣に座りこんだ。

うさぎはただ黙って、僅かに赤く染まった顔を下に向けている。
そんな少女を見ながら、夜天が口を開いた。


夜「ーー何を何処までされたのかは、知らないし聞かないけど…嫌じゃなかったんでしょ?」

う「っ!?」


見透かしたような言葉に、うさぎは驚いた顔を夜天に向けた。
顔を向けられた夜天は、目の前の少女に微笑みながら言う。


夜「分かるよ。だって君、どこか嬉しそうだから」

う「………夜天くんの意地悪//////」


うさぎの顔に赤みが増すが、その表情に怒りの色は消え失せていた。
夜天はテーブルに置かれたリモコンを手に取り、TVを着けた。


夜「結構、仲良く出来た、て感じでもなさそうだね」

う「………うん」


夜天の言葉に、ドキッとし、苦笑いを浮かべながら、うさぎは目線を横にずらす。
その目には、かすかに疲労の色が見えた気がした。


夜(…星野の一方通行か…。)


う「…嫌じゃ、なかったんだよ?」


ふと、うさぎが静かに口を開いた。
夜天は視線をTVに向けたまま、その声に耳を傾ける。


う「むしろ…う、嬉しかったし、本気で怒ってる訳でもないの。ただ…」


夜「良いようにされたのが、悔しかった…とか?」


そう言葉を挟む夜天に、うさぎは再び顔を向けた。
TVを観ている夜天に、疑いの視線を向けながら言う。


う「………夜天くん、実は見てたとか言わないよね?」

夜「君も見たでしょ?僕が大気と帰ってきたの;でも、大体の事情は見えてきたかもね」


「君、分かりやすいから」と付け加え、夜天は笑った。
そう言われたうさぎは、納得のいかない表情をする。
夜天が暫く考え何かを思い付いたらしく、うさぎの耳元に口をやった。


夜「じゃあさ………」

う「うん…?」


夜天は後ろで作業をしている大気と星野には聞こえないように、小さな声でうさぎに語りかけた。
それを頷きながら聞いてたうさぎは、突然驚きの声を上げる。


う「ええぇーーーっ、むぐっ…!?」


夜「バカ!;声が大きい」


それの叫び声を、即座にうさぎの口を手で押さえて阻止する夜天。
うさぎの声を耳にしてこちらに目をやる大気達に、夜天は平常心を装い誤魔化した。

疑問の色を残しながらも、二人は作業を再開する。
それを確認して、うさぎの口から手を離した。


う「ぷはっ…や、夜天くん…それ、ホントにしなきゃダメ?」

夜「このくらいしないと、仕返しにならないと思うけど?」


戸惑ううさぎに対し、夜天は当然のように答えた。
言われた少女は頭を抱え何かを想像してか、赤くなったり青くなったりと表情をころころと変化させる。
そんな様子を見ていた夜天は、また小さく笑い声を漏らした。


夜「クスッ、もし何かあれば、僕が助けに入るし大丈夫だよ。……それとも僕が相手になろうか?」

う「ふぇ!?//////」

夜「どうするの?僕本気だよ?」

う「うぅ〜……」


うさぎは暫く考え、そして意を決したような顔で勢いよく立ち上がった。
そのまま足を進めて、星野の背後まで歩み寄る。

大気と作業をしていた星野が、その気配に気付いて後ろを振り向いた。
目の前の少女は仁王立ちでいて、表情はどこか強張っている様に見えた。


星「…おだんご?」

う「………来て」


うさぎは静かな声で、そう一言だけ言った。
星野は大気に顔を向けて、何か言いたげな目をする。


大「いいですよ。こっちはもう、一人で片付けられるので」

星「サンキュー、大気」


微笑みながらそう言った大気に、星野がお礼の言葉を返す。
星野は立ち上がって目の前のうさぎに言葉を掛けようとしたが、それはうさぎが星野の腕を掴む事で中断される。


星「ちょ、おだんご!?そんな引っ張っんなって!!;」


無言のうさぎに力強く腕を引っ張られながら、星野は強制的に自分の部屋へと連れていかれた。
二人の姿が見えなくなったのを確認して、夜天は小さく呟く。


夜「まったく…世話のやける」

大「ん?何か言いました?」


大気の問いに夜天は「別に」と一言だけ返し、夜天は大気の側まで歩み寄る。
作業の状況を確認しながら、夜天は大気に尋ねた。


夜「もう、終わるでしょ?珈琲飲む?」

大「ええ、お願いします。」


そう言われた夜天は食器棚からティーカップを取り出して、手際よく準備を進めていった。
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