星うさ
□くすぐったいね
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あたしは学校終わり、カフェで雑誌を広げていた。今日発売されたばかりのスリーライツ特集が載ってるファション雑誌。
好きな人が沢山載ってるって嬉しい。
その雑誌を見ては、時計を見てそわそわしてしまう。
星野、早く来ないかなぁ。
――そういえば、デートひさしぶりだなぁ。
星野と付き合いはじめて1年くらい。
あたしたちは学年が変りクラスが別々になってしまった。だから同じ高校に通っていても、昼間は顔を合わせることなんてめったにない。
その上、芸能活動をしている彼は、いつも忙しく、休みなんてほとんどない。
でも、今日は仕事がすぐに終わるから会いたいと連絡がきた。
デートというには短いけど、ふたりきり、一緒に過ごせてうれしい。仕事してる星野もかっこいいし頑張ってほしいと思ってる。
それでももっと一緒に過ごしたいってわがままだなぁ、と思う。
――顔を合わせる時間が前より短いからかな…。
からん、とドアベルが鳴って、わたしの視線は自然とそちらに向かってしまう。
う「せい…あ、こっち」
星「おだんご、悪い、待った?」
あたしは『星野』と言いかけたのを止め軽く手を上げた。あたしに気付いた星野は、はあ、と息を吐く。走ってきたみたいだった。申し訳ないと思いつつ、走っても早く来たいと思ってくれているのは、うれしい。
星「打ち合わせが長引いて……プロデューサー、話が本当に長くてさ」
プロデューサーの愚痴をしながら星野はあたしの向かいに座った。
星「なんか頼んだ? 俺、腹減って……」
星野は運ばれてきた水を一気に飲み干した。
う「飲み物だけ。星野は何にする?」
星「そうだなぁ…」
メニューをふたりでのぞきこむ。付き合うまで知らなかったけど、星野は甘党だ。男の人が甘いもの好物なんて、かわいいと密かに思う。もちろん本人に言ったら拗ねるから言わないけど。
このお店は量もあっておいしくて、高校生のお財布事情には優しい。まぁ星野にとっては値段など気にならないだろうけど…。
学校と家ともほどよい場所にあって、ちょっとしたデートではよく立ち入る場所だった。
星「俺、パンケーキにする。おだんごは?」
う「あたしはチーズケーキかなぁ。でも、ショートケーキも美味しそう♪パンケーキも色々あるのかぁ…。」
星「全部頼んだら?(笑)」
う「そしたら晩御飯入らなくなるもん!」
メニューとにらめっこして、ふと顔をあげると、目が合った。ふ、っと微笑む星野の顔をちゃんと見られなくて、つい目をそらしてしまった。頬が熱くなる。
う「あ、やっぱり、ショートケーキにするね」
星「あぁ」
星野は気づかなかったみたいで、ほっと胸をなでおろした。
星野の前には3段重ねのパンケーキ。
前々から思っていたけど、星野達って食べ方が上品。キンモク星は食事のマナーが厳しかったみたいで、きれいに食べる。その食べ方を見ると、普段の星野とは違ってきちんとしたひとだなと思う。つい、食べる姿を眺めてしまう。見ててちっともあきない。
星野が気づいて、目が合う。少し不思議そうな顔をした彼は、パンケーキを一口サイズに切り分けると、フォークに差して差し出した。
星「あーん」
その意味することに気づいて、かあっと、頬が熱くなる。
う「え、な、何?////」
星「何って欲しかったんだろ?じーっと見て」
星野を見てたのをパンケーキが欲しいと勘違いされたのか…。
恥ずかしい…。でも星野はその手を下げようとはしない。 ゆっくりと口を開けると星野が口の中にパンケーキを入れてくれた。
う「うんっ」
星「おいしい?」
う「うん。美味しい♪」
満足そうに頷く彼に、ほんのすこしイタズラ心が沸いた。
う「はい!」
星「いいよ」
彼が照れたように顔を背ける。自分だけとか逃げようとか、ずるい。
う「だーめ。はい、あーん」
強引にケーキを一口、差し出すと星野は、かんねんしたように口を開けた。
店員さんがお皿を下げる頃には、日がだいぶ傾いていた。
星「時間、大丈夫か?」
う「うん。ママには連絡してあるから」
星「そっか。じゃ、少しゆっくりできるな。公園に寄ってから、帰ろうか」
う「うん」
今日のテストの出来を話したりしながら、ゆっくりと歩く。付き合いはじめの頃は、歩くスピードがうまくあわなくて並んで歩くのも大変だったなぁ、なんて、ふと思い出して、小さく笑う。星野が気づいて、ん、と顔をのぞきこまれた。
う「前に、ここ歩いたときのこと、思い出して。あのとき星野どんどん歩いて行っちゃったでしょ」
星「そんなことあった?」
う「あったよ。早くて追いつくの大変だったんだから」
星「あー、それはあれだ…。」
最後まで言わず星野はわたしの手首をつかむ。そのまますべり落ちるように、指と指が絡まれ、ぎゅっと握られた。手が大きくて、温かくて、ドキドキするような、落ち着くような。
星「今は、そんなことないだろ?」
う「う、うん////」
自分から手を握ったくせに、照れたのか、星野は黙り込んでしまった。わたしも顔を上げられなくて、つい下を向いてしまう。
そっか…。星野はそれであたしより先に歩いていたんだね…。
照れた顔を見られたくなくて。
星野は、ため息のように長く息を吐いた。気になって、ちらりと顔をのぞくと、なんだか真剣な顔つきだった。
どうしたんだろう、と口を開きかけたとき、星野が立ち止まった。
星「おだんご」
名前を呼ばれて顔をあげると、星野の顔が近付いてくる。外だよ、と思ったけど、素直に目をつむった。
額に一瞬だけ、くちびるの感触がして、ふっ、と息が吐かれた、それを合図にして、あたしは瞼をあげた。
星野の首筋がうっすらと赤くなっていた。
う「誰かに見られたら大変だよ?////」
星「ひとがいないの、確認したから」
う「うん……」
近くに誰もいないのはわかるけど、つい声をひそめてしまう。心臓がうるさく鳴っている。壊れそうなくらいに。
う「今日の星野、いつもより、その……」
イチャイチャしたいの?、という言葉が恥ずかしくて口から出てこない。イチャイチャ、というのが恥ずかしい。星野は、あたしのことばを察したのか、小さく頷いた。
星「一緒に帰るの、ひさしぶりだし、な。――嫌だった?」
急に自信なさげに訊く星野に、胸の奥がきゅんと鳴る。
う「いやなわけ、ないよ」
星「そうか」
不安そうな顔から、表情が緩む。目を細めてくちびるの端を少し上げると、おとなっぽい不思議な表情になる。
握られた手に力がこもった。
星「俺、考えたんだけど」
う「何?」
星「クラス変わっちまって学校で一緒にいられる時間が少ないだろ」
う「…うん。」
外では人の目を気にしないといけないし。中々お互いの家に行ったりもできない。
星「俺は仕事忙しくて、それをおだんごは気にしてくれて、お互いよそよそしくなってて、必要以上に喋らないだろ?だ、だからさ、俺ら専用の部屋作ったんだけど…。」
う「え?」
星「そりゃ、こんなこと周りに言えばみんなからからかわれたりするだろうし、特にはるかさんあたりはきつくなると思うけど、そんなことより、オマエと……」
星野が口ごもったけど、言わんとすることはわかる。さっきのわたしと同じだ。イチャイチャしたい。
星「えーと、週末のおだんごが休みの日だけでいいんだ…。そ、そのおだんごがいいならだけど…おだんごがいやなら、その部屋は仕事部屋に使うし…。」
う「ううん。いいよ、嬉しい♪」
そうしたら、もっと一緒にいられる。夜に勉強したり、ゲームをしたり、いっぱいお喋りもイチャイチャも出きる。
星「よかった」
星野が目を細め、それから小さな声で続けた。
星「それでさ…二人で居るときは…うさぎって呼んでいいか?」
う「え?////」
星「なんかいつの間にか大気と夜天も、うさぎって呼んでて、うらやましかったから」
確かに、大気さんも夜天くんも名前で呼ぶけど、星野が気にしてるなんて考えもしなかった。
う「そうなんだ」
星野は小さく頷いた。
う「そ、そしたらあたしも、名前で呼んだ方がいい?」
星「いや、そしたら大気も夜天も同じ名前だから…;」
う「そっか;」
星「うさぎ」
少し小さな声で呼ばれると、なんだか、耳がそわっとした。名前を呼ばれただけなのに、今までと全然違う。
う「なんだか恥ずかしいね////」
星「あぁ////」
星野は耳朶まで真っ赤に染まっているのは、夕暮れのせいだけじゃない。つないだままの手を握りなおした。もう片方の腕が、背中に回された。距離がなくなった。顔が近づく。ギリギリまで目を閉じないで、星野の顔を見ていた。優しい顔。多分、一生、忘れられない。
くちびるとくちびるがふれて、あたしはようやく目を閉じた。
いつもより、ずっと長いキス。あたしは、星野の服にしがみついた。
とても長く感じられたけど、離れるとき、さびしくて、もっと、って、はじめて思った。
星「そんな顔されるともう一回したくなる…////」
星野が小さくつぶやく。あたしは、とん、と星野の胸に頭をつけて小さい声で言った。
う「いいよ…もっかい,,しよ?////」
そして二人は見つめ合いもう一度口づけを交わした。
END