星うさ
□あなたの声にときめいて
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う「……ふふ」
星「・・・?」
うさぎが小さく漏らした声に、星野がまた顔を上げた。
大気の作った詞にギターを抱えメロディを考えてる最中、うさぎは星野のベッドで寝転び携帯を眺めていた。
まぁいつもの携帯ゲームといったところか…。
ただ、いつもと違うところもあり、それが星野の気になっていることでもあった。
星「…なあ」
う「なぁに?」
星野の声に気づいたうさぎはイヤホンを片耳外す。
星「たいした用じゃないんだけど……、今日はどうしてイヤホンしてんの?」
う「えっ、あの、それは……その」
その問いに視線を反らして焦ってる。
ますます怪しい…。
いつもはイヤホンではなく音量を最小にしてゲームをしていたのに、なぜ今日に限ってイヤホンなのか。
仕事を始めた時から、実は気になってはいた。
最初はただ自分の邪魔にならないようにという配慮なのかとも思ったが、どうも違うようだ。
なぜなら、先ほどのように時折妙に艶っぽい声を漏らしたり赤面したり両足をもじもじしてみたり、星野からしてみれば普段以上に気を引かれる態度だったので、とても配慮しているとは言えなかったからだ。
星「なんのゲームしてんの?」
挙動不審すぎるうさぎの様子に、星野の胸にはさらなる疑念が湧き上がる。
ギターを立て掛け、星野はベッドに座るうさぎの方に近づいた。
う「せ、星野、仕事は?;」
星「ああ、後回しにする。誰かさんのおかげで、集中できなくなった。」
う「えっ!?;」
もはや星野の中ではうさぎの方が最優先事項になってしまったようだった。
星野はベッドに片膝を乗せて、今やいつでもうさぎに迫れる体勢だった。
う「あ、あの……星野?;」
迫り来る星野に後退りするも後ろはすぐ壁で、しかも星野の両手が壁についた為うさぎは逃げ場をなくした。
う「え、と…ご、ごめんね;」
星「どうして謝るの?」
このタイミングで星野にそんなことされると、プレイしていたゲームの影響もあり、妙に意識してしまう。
う「仕事の邪魔しちゃったみたいだから……;」
星「別に急ぎの仕事じゃないし…。それよりも、おだんごを悶えさせてたゲームの方が気になる。」
星野の双眸が、影になった表情の中で妖しい光を放つ。
両腕の中に閉じ込められているし、その眼差しから考えても、到底誤魔化せそうにない。
う「も、もだ……っ!;」
星「悶えてただろ? 顔赤くしたり妙なため息漏らしたり、足じたばたさせたり…。」
う「あたし、そんなんだったの?;」
ゲームに夢中で全然自覚がなかった。
同時に、そんな自分をしっかり見られていたことに恥ずかしさも感じた。
星「結構してたけど…。……ったく、横でそんなの見せられてる俺の気も知らないで、無防備過ぎて困るんだけど;」
星野が拗ねたように口をとがらせ視線を逸らすと、うさぎはくすりと笑った。
星「何笑ってんだよ?;」
う「えへへ、拗ねてる星野が可愛いなぁって思って♪」
星「っ!!//////……可愛くなんかねえよ////」
そう言い、うさぎの耳から外れてるイヤホンを自分の耳に素早くはめた。
そして、星野がすぐに両目を眇めた。
う「あ……ちょっ!星野っ!//////」
うさぎが慌てて手を伸ばし、イヤホンを取り返そうとするが、星野は軽い身のこなしでそれを避ける。
体格差に素早さも加わって、こうなるとうさぎにはとてもじゃないが奪い返せない。動揺のあまり、本体の電源を消すということも思い浮かばなかった。
イヤホンからは聞き慣れた声が聴こえてくる。
…っと言うより・・・
星「これ……俺?」
う「もう、やめてよぉ////」
星「…これ、あれか、先週配信された俺らの携帯ゲーム…。」
う「……うん////…ねぇ恥ずかしいから、もう返してっ!////」
うさぎが真っ赤な顔をして、星野から携帯とイヤホンを取り返した。
うさぎがやってたのはスリーライツの乙ゲー。
星「夜天が甘い台詞言ってる……;」
取られる前に聴こえてきた夜天の甘い台詞にげんなりしている様子。
星(…あぁ、もう…。)
頬を赤らめ、少しだけ潤んだ瞳で自分のことを見上げるうさぎを見ていたら、星野の中で何かが弾けた。
う「…もう、星野に知られたくなかったのにっ!//////」
星「ごめんな。無理矢理やって悪かった」
そう言うと星野はうさぎの唇にキスをした。
う「っ!…ん」
ちゅっちゅっとついばむようなキスが繰り返され、星野の唇がうさぎのそれに優しく吸い付く。
まるで新鮮なさくらんぼにでもむしゃぶりつくように、星野はうさぎの唇を甘く貪った。
う「んんっ…はぁ……」
星野の手がもうひとつのイヤホンもうさぎの耳から外し、そのままうさぎの後頭部に手を回した。
さらに逃さないとでもいうように、もう片方の腕は華奢な背中を包む。
わずかに開いたうさぎの唇から星野の舌が入り込み口内をなでる。
う「んぅ……ふぁっ」
星野が絡めた舌を引っ込めると、うさぎの舌だけが残り、今度はその舌を星野は優しく何度も吸った。
身体には腕を回されているだけで、感じる場所には何も触れられていないのに、うさぎはお腹の奥がきゅっとしてくるのを感じた。
吐息が荒くなり、時折喘ぎ声のような息が漏れるのを我慢できなかった。
星(この声…俺がヤバくなる…;)
うさぎの唇を夢中で愛しながら、星野は頭の隅でそう思った。
星「……何?…気持ち良かった?」
唇を離し、近づけた顔はそのままで星野が言った。
う「ふぁ…せぇや…」
にやりと微笑む星野の力強い胸に、力の抜けたうさぎはすがりついて、無言で頷いた。
その通りであったとしても「気持ちいい」とは恥ずかしくて言えなかった。
う「…いきなり…キスするなんて…ズルいよ…」
星「ズルいってどういう意味?」
う「そのままの意味よっ……!」
星「まぁ、ほめ言葉として受け取っておくよ(笑)」
そう言うと星野は「はぁ」とため息をついて、そのまま顔をうさぎの肩に乗せて、星野はしばらく動かない。
う「……せぇや?どうしたの?///」
星「誰がおだんごを悶えさせてたのかと思って……みっともねえ嫉妬した////」
う「あ、あの… ごめんね…////」
うさぎが謝ると星野はぎゅっとうさぎを抱きしめた。
星「いや、おだんごは謝らなくていいんだ。…でも、嬉しかった。携帯ゲームの中でも俺を見ててくれて」
う「だって…せぇや好きだもん//////」
星「っ!!//////……そうやって可愛い事言うから、おだんごにそういう顔させられるのは俺だけでいたいって思っちまうんだよな////」
う「!!……バカ//////」
耳元で聞こえる艶っぽいその声に、うさぎは胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
そして、こんなにも自分の心を震わせる声の持ち主は、他にはいないのだと改めて実感してしまった。
たとえ星野がプロの声優じゃなくても、立派なアイドルでもあり…あたしの大事な人…。
この声が自分は一番好きなのだと……。
う「あの……せぇや…あたし、せぇやの声好きだよ////」
星「え……」
う「乙ゲーなんて興味なかったけどさっ、せぇやだったからやってみたの。そしたらどんどんせぇやの声に夢中になっちゃって////確かに目の前に本人居るんだからやる必要ないんだけど…せぇやこんな甘い台詞言ってくれないじゃない?…だけど実際言ってもらうなんて恥ずかしいし…////だからせぇやに内緒で始めたの//////」
星「おだんご…」
星野が驚いた表情でうさぎを見つめている。
うさぎは、俯いて指を弄りながら一生懸命続ける。
う「だ、大好きなせぇやの声だから…イヤホン着けて耳元でせぇやの声聴きたかったの//////」
星「ああ、もうっ…おだんご、今夜は寝かさないからな?」
頭をぐしゃぐしゃと掻くと星野は、もう一度うさぎを強く抱きしめた。
う「えっ!?//////」
耳元で星野の吐息が漏れたかと思うと、低く艶っぽい声が鼓膜を震わせる。
星「そんなに聞きたいなら俺の声聞かせてやるよ…。だから俺にも聞かせて…さっきみたいなうさぎの可愛くて甘い声も」
う「〜〜っ!//////」
恥ずかしさと嬉しさがこみ上げて、うさぎは星野にぎゅっと抱きついた。
そして、こくりと頷いた。
星「一晩中愛してやるから…」
うさぎからの可愛らしくささやかな返事に、こみあげる愛しさを感じ星野も微笑んだ。
大切な存在を抱きしめた両腕に、優しく力をこめる。
ふたりの静かで幸せな夜は、まだ終わりそうにない。
END