星うさ

□とろけるチョコレート
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仕事を終えてTV局を出たら、しんしんと曇り空から雪が降っていた。
そういえば大気が「今日は雪が降るらしいですよ」っとそんな事を言っていたかもしれない、と今更ながら思い出して星野はため息をつく。

傘は当然持ってきてはおらず、学校を早退して仕事に来ていた星野は制服姿という軽装備であった。
空を見上げ、雪が当分止みそうにないのを見た星野は酷くなる前にさっさと家に帰ってしまおうと早足で歩き出す。
吐く息は凍って白く、着ていた黒い制服はすぐに雪だらけになってしまった。
「さむっ‼」と星野は肩をすくめる。

だが、そんな寒い中でも星野の口元だけは弛んでいた。
何故なら今日は愛おしい彼女が家で待っているからである。

早退する前に彼女とこんなやり取りがあった。


う「ねぇ、星野?今日家に行ってもいい?」

星「今日は仕事早く終わるしいいけど。ま、俺的にはずっと居てくれてもいいけどな♪」

う「…バカ////…兎に角家で待ってるね。」

星「ああ、暖房器具何でも使っていいから、温かくしとけよ?」

う「うん♪」


ようやく最近になって彼女から「家に行ってもいい?」と言われる様になった事が何より嬉しかった。
今までは自分から照れてる彼女を半ば無理矢理誘っていたからだ。
前よりは緊張もなくなってきて、俺の隣で寛いでくれるようにもなった。

・・・たまに警戒心無さすぎて複雑だが…。


赤くなった両手を一回擦り合わせ、早く家に帰ろうと星野は歩調を早めながらうさぎの顔を浮かべ小さく笑うのだった。



星「ただいま」

頭や肩に降り積もった雪を払い落としながら家に入った星野は、すぐに返事が返ってこないことに小さく首を傾げた。
もう一度ただいまと声を掛けてみるもやはり返事はない。
明かりは着いているから居ないわけないしと、訝しく思いながらリビングをのぞき込めばそこにうさぎの姿はなかったが、どこからか穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
カバンをソファの上に置いて、もう一度耳を澄ませてみればそれはどうやらこたつの中から聞こえているようだった。

今までスリーライツ宅にこたつと言うものはなかった。
だが、ある日うさぎが「こたつがあったらもっと星野と密着できるのになぁ」と言った一言でその日にこたつがやって来た。


星「流石に暑くねぇのかなぁ;」

いつも途中で寝苦しくなって目を覚ますと言うのに、全く懲りないなっと星野は呆れる。
そっと近寄ってこたつをめくればあの特徴的なおだんご頭と警戒心がゼロの寝顔が見えた。
どうやら良い夢でも見ているらしく、その顔は締まりのない笑顔を浮かべている。
自分は雪の降る中寒い思いをして帰ってきたというのにいい気なものだと星野は苦笑した。っと言うより寛ぎ過ぎじゃないか・・・;

自分は仕事をしてきて寒い中悴んだ手をこ擦り合わせながら帰ってきたって言うのに、出迎える訳でもなく呑気に一人こたつで癒されてる彼女になんだか少々悔しいような、そんな気分になった星野はふとあるいたずらを思いついた。
自分の冷えて真っ赤になった両手を見て、にやりと悪い顔になる。

星「ほれ!」

う「ひゃあ!?」

ビクッ!と体を大きく震わせてうさぎの目が開いた。
ぱちぱちと目を瞬かせ呆然としているうさぎを見てしてやったりと星野は笑う。

星「おはよう、おだんご(笑)」

う「せ、星野?ってかいつまで触ってんのよ!」

「離して‼」と自分の両頬に添えられていた星野の手を振り払い、うさぎは逃げるようにそっぽを向いて体を丸めてしまった。
その体はふるふると震えていて、どうやらいたずらは効果絶大だったようである。


星(本物のうさぎみてぇだな(笑))
と星野がまた悪い顔になっていることにうさぎは気がついていない。
またうさぎの顔にピトッ!と手をあてると…

う「もう近寄らないでよぉ、寒くなるじゃない‼」

星「そう言われると近寄りたくなるんだよなぁ」

本当はあれだけで止めるつもりだったけど、とそう思いながらも星野もこたつに押し入る。
体全体が冷気を帯びてる星野が入ってきた事により一気に寒気を増した。
ブルッと身震いしたうさぎは隅へ逃げようとするが、星野に体を捕まえられ後ろから抱き込まれてしまった。

うさぎと密着できるならと元々二人ではいるのにもきついような小さなこたつを買ってきた星野。そんな狭い場所に逃げ場などない。
うさぎは往生際悪くじたばたと暴れたが、星野もがっちりと腰に回した手を弛めなかった。
やがて諦めたのだろう、がくりと項垂れてうさぎは動きを止める。

う「もう、冷たいよぉ」

星「雪の中を帰ってきたからな」

う「……星野、これあげる」


突然うさぎはこたつの上を指差しするとその先には、白い小さな紙袋が置いてあった。
星野は少し手を伸ばしてその紙袋を掴み、片手で中身を取り出すとリボンの付いた長方形の箱が入っており開けるとハート型のチョコが入っていた。

う「星野毎年いっぱいチョコ貰ってていらないかもしれないけど、どうしても渡したくて。でも学校じゃ女の子達のチョコ断ってたみたいだから…。」


「いらなかったら捨ててね」と背中越しに言う彼女を後ろからぎゅっと抱き締めた。

星「そんな事言うなよ。」

う「えっ…?」

星「いらなかったら捨てろだなんて、そんな残酷な事言うなよ。」

う「ご、ごめん…ね。」

星「俺はおだんごからのチョコしかいらねぇんだよ。」

う「〜〜っ!//////」

星「ありがと」

う「う、うん//////」

ーーそれにしても温かい体だ。
下手したらこのまま眠ってしまいそうになる。

星「極楽…。」

う「ねぇ、そろそろ暑くなってきたから離してよ////」

星「こたつに潜って寝てた奴がよく言うよ;」

う「それはそれ、これはこれよ!」

またじたばたし始めたうさぎを逃がさない様しっかり抱き締めた。
抱き締めながらもうさぎから貰ったチョコを頬張る。
往生際悪くまだばたばたしてるうさぎを見て、後ろでニヤリとまた悪い顔をした星野はチョコを一粒口の中に入れる。
そして、上半身を上げうさぎに覆い被さると顔を上に向けたうさぎの唇を奪った。
星野の熱で溶けたチョコがうさぎの口の中に入ってくる。
全部うさぎの中に行き渡ると星野が離れた。

その顔はしてやったりの勝ち誇った顔をしていた。
そんな星野を真っ赤な顔をしたうさぎはきっ!と睨み付ける。

少々やりすぎただろうか…;
機嫌損ねる前にうさぎの上から退きこたつから出ようとすると、ふいにうさぎが頭を押しつけてきた。

星「おだんご?」

う「出ちゃダメ‼////」

うさぎの表情は見えなかったが、耳が真っ赤になってるのは分かった。
ぎゅっと皺が出来そうなぐらい自分の制服を掴んでいるうさぎの姿に、星野の表情はじわじわ弛める。


星「…仰せのままに」

小さく笑いながらそう言って、星野が抱きしめる力を強くしたらうさぎもおずおずと抱き返してきた。

う「あ、あたしただ寒いだけだから‼変な事しないでよね!//////」


(さっきは暑いって言ってたくせに(笑))と思いつつもどうしようもなく愛おしく感じるのはこういうときだ…っと星野は思う。
ふと時計が目に入った星野はもうだいぶ良い時間だと言うことに気がついたけれど、それにはあえて目をつむることにした。
起きたら大気と夜天に何か言われるかもしれないけど…。

このまま二人で寝るのも悪くない。


俺にとって疲れた体を癒し温めてくれるのはこたつじゃなくて…うさぎだけ。



こうして二人は夢の中でもいちゃいちゃするのであった。

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