あべこべ島の冒険
□後編
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「どうだ、器」
かんかん、たんたん。まるで誰かが歌い躍りながら暮らしているような陽気な音がシャッター越しに響く。ここがアラウンドの住み着く場所。いわゆる研究施設。
「ここは、私の研究施設もとい私の住み処」
手をぶわりとあげながら舞台に立っているかのような大袈裟な動作をするのは演技中も演技以外も変わらないのだ。例え、感情をなくした器が客であっても。
「そして、全てが、自動化された世界だ」
見ろ、と言わんばかりに指をさす。だれも能動的に見るものはいないけれど。入口をくぐれば、弓形の廊下が左右に。目の前にはぶわりと広がる五本の廊下。真ん中の廊下。右左にたくさんの鉄の扉で閉じられた部屋を示す。指を弾くとその一つが触れてもいないのに勝手に開く。
「ここでは、コックなどいらず」
水の音。機械の音。しゃっ、しゃっと小気味良く機械がフライパンを振るっている。ここはキッチンらしい。
「勝手に機械が飯を作る」
フライパンの上で踊るのは、米のようにも見えるし魚のようにも見えるし肉のようにも見える。しかし、船医にはどうでもいいことだったし、どうでもいいと考えることすらできなかった。
「さぁ、引き続き案内しよう」
感情を奪われ、玩具の人形のように扱われる船医には。
「この島を、くまなく」
歌うように呻きながら、まっすぐ歩かず右に向かう。弧に沿って五本目の廊下を歩く。風呂の部屋、しばらく歩き、洗濯部屋。しばらく歩き一番奥に、一番端の両扉がある。ここは、図書館。たくさんの本が、ずらりと大きな本棚に並ぶ。ぱたぱたと猿型の機械獣がはたきで埃を取り除いていた。
「そして、さぁ、知るがいい」
その中の一冊。赤くて立派な装丁の本をひとつつまむ。くるりと回って、座りながら。
「すべてを支配する、わたしの歴史を」
キーをすべて手に入れたアラウンドの続きの物語が、幕を開けた。
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