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□壊れた世界でも
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壊れた世界で息を止めようとした。


「シュ、ウ…」


分かってる。
きっと俺に救いなんてものはない。

生きてる限り…苦しみ続けるんだ。


「……っ、」


伸ばす手は何を求めてる?

俺は、何をーー


「誰をーーー」



「なまえッ!!」

「 っ!」


俺が視線を向けた先にはシュウがいて。

あぁ。なんで、


「来たんだよ…」

「ジョディから連絡があった。…任務が終わってすぐ、お前が急に苦しみだしたって」

「………」


別に苦しみだしたわけじゃない。

ただ、今回の任務相手のヤツが


「舌噛んで自害、したんだよね…」


バカみたいだと思うよな?

…俺だって思うよ。

俺が今この身を置いてるのはFBIで、ならターゲットである相手がさ、

捕まってFBIの手に落ちるくらいなら。

裁きを受けるよりは。


「死んだ方が楽だし、その決意も覚悟もあって、そうしただけだってのにな」

「…! なまえ!!」


いたたまれないような顔と声を向け、俺の体を強く強く抱き締めてくれるシュウの逞しい両腕。

生きている俺を抱き締めてくれる、生きている事を実感させてくれるシュウのその行為。


「なぁ、」


それをどこか他人の体のような感覚で受け止めながら俺は、ゆっくりとした動作で口を開いた。


ーーシュウは。

いつまでこうして俺を抱き締めてくれる?

いつ、俺から。


「ーーいなくなる?」

「何を、」


あぁ、そういえばこんなセリフ。
前にも一度言ったっけ?

ーー眠ったらいなくなるの?って。


「よく聞けなまえ」

「…?」


自嘲にも似た笑みを浮かべる俺の視線の先。

そこには何故だか真剣な顔をしたシュウがいた。

そして一語一句に力を込めるように、


「俺は、絶対に。お前の前からいなくなったりなんてしない。お前を置いていく事なんて、しない」

「 ! 」


ゆっくりと。

視線を逸らすことなく、俺の瞳を真っ向からのぞき込んで。


「シュウ、」

「お前はただ…俺を頼るだけでいい。泣きたいなら泣けばいいし、辛くなったら俺を殴りつけてでも吐き出せばいい」

「っ。 出来るワケないだろ、そんな事」

「フッ。そうか?お前ならそれくらい普通にしそうだがな」

「なっ!」


悪戯っぽく笑ったシュウは、けれども次の瞬間その瞳を柔らかく細めた。


「だからお前は、何の心配もしなくていい」

「んっ。」


優しく口付けられた先はおでこ。

それを見てあぁもう!本当にこの男はと頭を抱えたくなった。


「…シュウはほんと、俺の事よく知ってるよ」

「キスの事か?」

「そう」


だって今慰めの為に唇を奪われたりなんてしてたら、絶対。噛み付いてたと思う。

心と反対の体で、そんな慰めなんていらないって。

同情しないでって。

なのに、


「お前の事ならたいてい心得てる」

「………………」


こんな俺がFBIだなんて。

自分でも嘘だろと思うし、笑いだしたくなることも、ましてや逃げ出したくなる事だってしばしばで。

それなのにシュウは受け止めて、支えようとしてくれて。

そして、


「俺にはお前が必要だからな。だからお前の事ならなんでも心得るし、隣にいる」

「それは何とも…心強い事で」


そうやっていつも。
俺が欲しい言葉を一番にくれるんだ。

こんな、俺…なのに。


「唇以外だったらどこだって噛ませてやるが」

「は?」


突然何を言い出すのかとか、シュウでも唇噛まれんのはさすがに痛いのかとかなんとか思っていたら、


「唇を負傷したらお前に愛を囁いてやれないからな」

「は?!」

「だからそれ以外でよろしく頼む。
体ならいくら噛まれようが殴られようが受け止め続けてやれるからな。安心していい」

「どんだけバイオレンス希望なんだよ」


つーかシュウ一体俺の事どんなヤツだと思ってんの?と苦笑すれば、それに笑みを返してくれるシュウを見て思わず噴き出してしまった。


「ありがとな、シュウ」


シュウがいるから。
シュウがいるなら俺はきっと、

壊れた世界の中でもまだ息をして、歩んでいけそうだと思った。


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