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□それは歪んだ“愛”のカタチ
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ガチャ…


「っ…!」


真っ暗だった室内に差し込む一条の光。

けれども室内にいる少女は差し込むその光に過剰な反応を示し、開いたその先に素早く飛び出そうとした。


ガッ!!


「っぅ……!!」

「大人しくしてたかと聞くはずだったが…聞くまでもないな」

「や、め……っ…! 苦しッ…」

「苦しい方が好きなんだろうが」

「ッ!!」


そんなワケがないと。

ふざけるなと男を、ジンを睨みつけるなまえはしかし、それを受けた男の手が振り上げられた事に気付いて息を飲んだ。


バシッ!!


「うっ…!」


頬を張られ、脳が揺さぶられるような衝撃から思わず倒れ込もうとしたら、今度はその体ごと掴まれてベットへと放られた。


「……っ! な、にが!!一体何がしたいって言うのよっ!!」


自分が愚かな事くらい、こうなった以上それはもうどうしようもないくらいに理解していた。

けれど…けれども、だ!


「FBIである私を痛めつけてっ、嫐って。それなのにどうして何も吐かせようとしない?!!吐かせようともしないのに何で殺しもしなーーーっアァッ!!」


片手だというのに強い力で気道を絞められ、なまえは苦しさから足をばたつかせた。

気道を絞めているジンの手も跳ね除け、それが出来ないにしてもせめてその手を掻きむしってやろうとするも、


「くっ、そ…ッ!!!」


なまえの両手首は縄によってキツく拘束されていて、ジンがいない間に外そうと暴れ回ったせいで酷く傷付いたそれでは、少しの抵抗を示すことすらも難しかった。

けれども睨みつける眼光の鋭さは相当なもので、視線だけで殺せそうな程の殺気をジンへと放つなまえ。


「クッ。堪んねぇなぁ…その顔」

「やっ!!…んっ!!」


逸らそうとした顔はしかし、ジンが絞め付ける手に更に力を入れてきた為叶わず、なまえは口付けてくるジンの唇を必死に押し返そうとした。


「やっ、だ!!…やめッ…、」


ガリッ!!


「っ!!!!」


そのままジンの舌が口内へと侵入してきたから噛み付いてやろうとしたら、それに気付いたジンにより逆になまえの方が舌を噛まれる事となった。


「ハッ。 てめぇの考えてる事なんざお見通しなんだよ」

「いっ……っ…」


反抗しようとした事への逆襲か、はたまた絶対的な力の差を覚え込ませる為にかどうか。

あまりにも強い力で噛まれたせいでなまえの口内は、送り込まれたジンの唾液と自身の舌から流れ出る血とでいっぱいになった。

それなのに、


「んんッ!!」


あろうことかジンはなまえの口内から舌を引き出し、痛みに呻くその様を見下ろして残虐な笑みを浮かべてきたのだ。


FBIの中でもジンの残虐さは聞いていた。

聞いてたけどでもこんなっ、


「あっ……あぁっ……」



!!…怖い!!

怖い怖い怖いッ!!!!


「っ……」

「あ?…ククッ。泣いてやがんのか」


強制的に合わされた瞳と、引き出された舌を掴むジンの手の強さに震えが止まらなくて。

FBIとなって生きると決めた以上、危険も、死も。

常に隣合わせであり、どんな状況下に陥ったとしても決しておかしくはないのだと、泣き言を言っている暇などないのだと言い聞かせてきた。

ましてやそれが敵の手に落ちたのであれば尚更ーー


「うっ……あっ……」


それなのにこの状態といったらどうだ。

震えも涙も止まらず、悲鳴すらもその形を成せず。


「言葉も出ねぇか」


今のなまえが「死」よりも怖いのは、ジン相手にこのまま「生かされる」事だった。

FBIであり、さらにはその中でもそれなりの階級にいる身だというなまえに対し、けれどもこの男はそのなまえが持ちうる情報を吐かせようとしない。

それなのに殺す事もせず、ただひたすらに暗い部屋に閉じ込め、嬲り、狂気を湛えた笑顔で見下ろしてくる日々。それが一体もう何日続いている事か…


「もうっ……いやっ… 何を、……なん……」

「初めててめぇが俺に鉛玉をぶち込んだ日の事を覚えてるか?」

「…、?」


舌は開放されたものの、今度は顎を掴まれたせいで視線はジンに縫い付けられたまま。

けれども初めてジンに鉛玉を……?一体それがなんだって、


「あの日から俺はてめぇが忘れられなくなった」

「!!」


そのジンの言葉に目を見開くなまえ。

まさか……執着心の強い男だとは思っていたけど、その時の事をずっと根に持って…っ!


「赤井 秀一…」

「……え?」


けれども次にジンの口から出たのは意外な人物の名だった。

…いや、意外ではないのか。

赤井はFBIの中でも群を抜いて頭のキレる人物であり、狙撃手としてはかなりの腕前を持つ男だった。

組織からーー特にそのボスである“あのお方”お気に入りのベルモットからは「シルバーブレッド」とも呼ばれ、危険視されている男。


「てめぇは随分とヤツに似た撃ち方をする」

「っ!!」


ジンの鋭い眼光がなまえを真正面から射抜き、思わず呼吸が止まった。

銃の撃ち方が似ている…?

…そんなの当たり前だ。
なまえに銃の撃ち方だったり敵の捌き方、その他FBIにとっての全てを教えてくれたのは他でもない、彼なのだから。


「……ハッ! 恋愛ごっこの真似事で似せたのか?」


吐き出すようにしてなまえに問い掛けながらーー

ジンもまた、その日の事を思い出していた。

組織の中でも幹部クラスのジンの体に鉛玉を撃ち込める人物などそういない。

FBIの中でそれが出来る人物など…“赤井 秀一”くらいのものだと思っていた。だから油断した。


『ア、アニキ!!』


肩を撃ち抜かれたジンに慌てて駆け寄るウォッカ。

その背後を駆け抜けて取引場所の倉庫を出ていったのは見慣れた男の背ではなく、

“赤井 秀一”ではなくーーー


「みょうじ なまえ…」


呟いたその人物こそが自分が今組み敷いている女の名であり、“赤井 秀一”以外で自分の体に鉛玉を撃ち込むことが出来たもう一人の人物。


「あの日からてめぇを忘れた事なんざねェよ」


倉庫から走り抜ける際、一瞬見えた女の顔。

それはジンの中でまるで写真のように鮮明に焼き付き、一日たりとも忘れる事がなかった。


ーーあの女の首をこの手で強く絞めてやりたい。

絶望に打ちひしがれる顔で、

二度と戻ることの無い表世界に嘆いて、


…掠れた声で俺の名を呼び続ければいい、と。



「てめぇはもう一生、俺の元から逃げれねぇよ…」

「やっ……い……んっ!!」


対象に近付き過ぎ、捕えられた鳥は翼をもぎ取られるのだ。

もう二度と飛べないよう。

あるいはもう二度と……


その場所以外から去れないよう。


「や、めっ…! やめてお願ッ!! っ…!!」


あの日以来自分がこの女に執着するのが何でか、なんて。

FBIであるこの女に情報の一つを吐かせるでもなく、こうして毎日飽くことなく抱き続ける理由が何なのか、なんて。


「啼け」

「いっ…! ヤアアアァッ!!!!!」


そんなのとうに分かりきっている事だった。


「てめぇがオレの前に現れさえしなければーー
あるいはヤツと同じ銃の腕前さえ持っていなければ…」


こんなに執着する事も、焦がれる事もなかった。

ーーだが、もう遅い。


「やっ……あっ……っ!…ううっ!!」


溢れ出すこの想いが何なのか…

覚えがないわけではなかった。

ただそれを形にするにはどうやら自分のそれは世間一般に通ずるものではなく、歪んだ形である事も理解している。


「もういや… 許して…ここから出して……」


弱々しく抵抗にもならない抵抗を示す自分の下の女を、こんな形で傍に置いているのだとしても愛おしく思った。

そして愛おしいからこそ、


「いっ!!!」


傷付けて、壊して。

自分以外の誰の目にも触れさせたくないと思った。


「一生閉じ込め続けてやるよ」


この部屋に。そして、


それは歪んだ“愛”のカタチ.


(俺の中だけに.)

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