諧謔詩世界
□水面の花
1ページ/1ページ
月光に照らされている花を見た
水面から伸びる茎を見た
夜露に濡れる葉を見た
私はそこに
独りで生きる命を見た
水は冷たく暗い
夜は広く大きい
闇は深く底知れない
私はただ花を眺めていた
飽かず眺めていた
身体が冷えた
心も冷えた
何もかもが冷たい中で
花弁は柔らかく
凛として そこに生きていた
雨が降り 風が吹き
雨が雪に変わり 吹雪が来た
視界が白く染まる
思わず瞼を閉じた
身体が冷えた
心も冷えた
何もかもが冷たく凍えた
やがて朝の光と共に
吹雪は過ぎた
白く染まった視界が
光に満ちた
ゆっくりと瞼を開ける
そこに花は無く
水はただ光を反す
命は消えた
確かにそこに生きていた命が
たった一晩で
命は消えた
守られる事も望まないまま
一生を終えた
日光を反射する水を見た
水面から伸びるものは
今は無く
朝露に濡れるものもまた
今は無い
私はそこに全てを見た
全ての始まりと終わりを見た
生まれ
やがて死んでいくその様を
私は見た
私はまだ
ここに生きている
私は今も
ここに生きている
明日には
枯れているかもしれない
明日には
消えているかもしれない
ならば
私の望むことは最早ひとつ
月光に照らされたあの花を
あの柔らかな花弁を
もう一度この瞳に……
私はまだ
ここに
生きている