小説

□碧の歌声
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昔から家族というものは不思議な縁で結ばれていると思う。
それはこの世の何よりも強く、美しい。
それは親友であったとしても何にも変えられないものだ。
おそらく時間が産んだかけがえのないものなのだろう。

だから君との間にも縁が存在する、と信じている。

得体の知れない愛があると。

4月29日
車体が大きく揺れながらあぜ道を走っていく。
家を出てから5時間半が経とうとしていた。
大好きなアーティストの曲もそろそろ飽きてくる頃だ。

CDを変えようとすると不意に1番好きな曲に変わった。
冒頭のヴォーカルの優しい声が特徴のこの曲。
「ねぇ君はどこにいる?」
イヤフォン越しにそんな声が語りかけてくる。
ここにいるよ。

君が気づかないだけでしょう。

私は手を止めて窓の外を眺めた。
日本海だからなのだろうか。
いつもよりも穏やかな波が反復している。

もうすぐ着くはずなのに心は待ちきれなかった。
はやく会いたい。
君に。

海にも飽きてきた私はゆっくりと小さな世界に幕を下ろした。

今にも走り出しそうな君の笑顔。
輪郭の線は思い出せない程薄れている。
目も鼻も口も、鉛筆で何回も書き直したような線で繋がれている。


それからは何も思い出せない。
車体の揺れている感覚だけが残り、後はどんどん無くなっていった。
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