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□16才の決意
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おれが主役の今日の『ユーリ陛下誕生パーティー』はもう中盤を過ぎダンスパーティへと変わってきた。

でもまあ、悪魔で主役はおれな訳で、通り掛かる人は皆おれに頭を下げていく。

初めはおれも『あっ、どーもどーも』なんつっていちいち返事していたが…
さすがにそれがずっと続くとなると持久戦になってくるわけで。

さっきまではギュンターにもヴォルフにも後ろで取りつかれていた。
傍から見ればこれは美形三人集に当たるわけだが…


おれから見れば美形二人集にしか見えないわけで…
異文化とはなかなか厄介だ。



【 16歳の決意 】




ホールの中心にはおれ宛の沢山のプレゼントが山積みなってる。


見た目、明らかに大きいもの。
受け取ったときにやたら重かったもの。
お金の使いすぎと思われるもの…


これらが国民の皆様の税金からでているものだとしたら…
どうしようと頭が痛い。


あれだけおれはプレゼントなんか要らないって言ったのに。
こうなるってなんとなくわかっていたから要らないっていったのに、
『そうは参りません!』と王佐言われて……


じゃあ、質素なものにしてくれっ!て言っておいたはずなのに…
言ったはずなのに…この有様。


あー思い返したらまたいたたまれなくなってきたぞ。
酒の匂いも濃くなってきたし、とりあえずここを離れよう…
と、一人になれる所を探しに人に頭を下げつつ人混みをかき分けて行った。

十貴族を初め大体の貴族の人には挨拶し終えたから今ならコンラッド辺りが何とかしてくれるだろう。
何とか人混みをすり抜けてバルコニーへと逃げ込み扉を閉めて風に当たる。



「あー…なんか、生き返った感じー」



こちらの季節も夏なのでやはり暑いけど日本に比べると夜は秋位の落ち着いた気温に下がる。

中は人ばっかりで暑すぎたし、この気温はとてもありがたい。
中でとってきた飲み物(でも実はワイン)を少し飲んで喉を潤す。
禁酒禁煙のおれが酒を飲む事になろうとは思っても見なかった。



「あー風が気持ちー。…そういえばあいつどこ行ったんだろ…」



おれが気を張っていちいち挨拶を返すのに愛想をつかしたんだろう。
ギュンターに解放されるより先にヴォルフラムは消えてしまった。

最初はトイレかとも思ったのだが、暫くしても戻ってこないし、
しょっちゅう耳元でへなちょこ!と言われてたから、いなくてもいいか…
なんてさっきまではそう思っていた…。



今はというと……



正直、一人も悪くないけど傍にいて欲しいと思う。
…あーきっと今、こっちに来たばっかのおれなら鳥肌立ってたはずだ…絶対。



「…はぁ」



ため息一つに身震い一つ。

冷えてきたかな…。
ガラス製の扉を見れば、仄かに白くて中が見えにくい。外温との差なんだろう。
華やかな音楽に、ぼやけながら動く人々が見える。いろんな音が響いている。

今日の主役だ。ギュンターがずっと言ってた。
おれが、新米魔王陛下のおれが…今日の主役なんだ。


まだ難しいかな…今までそんなこと思ったことないけど。
庶民出のおれに、この世界観だけはなかなか馴染みにくいようだ。


両腕で擦って身体を温めた。
そろそろギュンターあたりが騒ぎ出す頃だろう。戻ろうかと重い腰を動かし始めたら急に後ろから暖かい何かを掛けられた。

驚いて後ろを振り返るとそこには行方不明だったはずのヴォルフラムが…



「あれ、お前どっか消えてたんじゃ…」

「何を言う。お前が酒を飲み続けていたから代わりの飲み物を探していたんだ。
なのにお前ときたらぼくが戻って来たときには跡形もなく消えて…。
どれだけ探したと思っている!?まったくお前は『へなちょこきんぐ!』
だな!!」

「へ、へなちょこキングて…」



不満を捲くし立ててきたと思ったら、一体どこでそんな言葉を知ったんだろう…

ヴォルフラムはおれの隣に来ておれと同じように深いため息を吐いた。



「大丈夫か?」

「へ?」

「主賓がこんな場所で休むなど、へなちょこ以外の何者でもないが…。
…だが初めてならそれも、仕方あるまい。慣れない場で疲れたんじゃないか?」

「疲れてないって言ったら…嘘かな。でも、大丈夫だよ。サンキューな」

「…ふん。当たり前だ。これはお前のためのものなのだから。王がこのくらいで弱られては困る」

「お前、さっきと言ってること違いすぎ」



それでも、この婚約者はおれを気遣ってこの言葉を言うんだって最近分かり始めた。ヴォルフは決して、悪い奴じゃない。

掛けられた上着が冷えていたおれの体を優しく暖めた。
ヴォルフが風邪をひいたら困ると脱ごうとしたら、「着ていろ」と返された。
軍人は鍛え方が違うとか…。体格一緒の癖に、こういう時はなんか悔しくなる。
仕方なく、おれの肩にかかって温めてもらう。冷えても知らないからな。




「それにしても凄い人だよな。大きな国っていっても貴族だけでこんなにいるなんておれ思わなかったよ」

「この国は他の国と比べ物にならないほど昔に創立しているからな。おまけに魔族は 長命だからこの人数では少ないくらいだろう」



そういいながら、水滴のついた冷たそうな水を差し出す。
少し冷えてきてたけど確かに自分のなかでちびちび飲んでた酒は回っていたようだったから、礼をいってそのグラスを受け取った。

すっと喉から流れていく水はすごく冷たい。
ずっと酒ばっかりで頭も重かったから、毒気が抜けるようにみるみる潤っていく。頭の中がすっきりとした。



「うわ、つめてー。お陰で頭ん中がすっきりしたみたいだ。ヴォルフ、サンキューな。」

「へなちょこめ、酒も満足に飲めないなんてそれでも本当に魔王なのか?」

「まぁそういうなって。だっておれまだ成人してないし。」

「何をいっている!!お前はもう成人したではないか!酒ぐらい飲めて当然だ!」

「いやさあ、地球じゃまだおれお子様だもん。20歳までは一応法律で禁酒禁煙なんだぜ?」

「でもお前はこちらの国の王だろう、此処はお前の国だ!何故そんなにあちらの国のことばかり優先する!!」

「だって今まで暮らしてたのは向こうだしさ。習慣も文化も思考も、
おれはまだあっちの国の方が自然だから。急に直せって言われても無理があるだろ? 
 まあ、今はだんだんこっちにも慣れてきてるけど、酒に関してはおれは20歳までは本格的に飲む気はな…」

「そんなことはもうどうだっていい!!」



急にヴォルフラムの息が上がってきた。
酒の話をしていたのにどうでもいいって…



「なんだよそれ…」

「そんなことどうだっていいんだ!!そんなことよりお前は…お前は……」



ヴォルフラムが珍しくいうのを躊躇って、口を開いたり閉じたりしている。
なかなか話しそうにないから気になっておれは自分から聞こうと話しかけた。



「何?ヴォルフラム?言ってくんねーとおれも答えられないじゃん」

「…なら、ちゃんと答えろ。お前は、この世界の住人だろう。魔族だ。
なによりこの国の長だ。お前は今日成人したのだから決めなければいけない。
聞いた事くらいあるだろう。魔族は16で将来を決める。
チキュウとやらは20歳で成人かしれないがこの国では16だ。
 お前の16の誕生日は今日なのだからお前は決断しなくてはならない。
確かに何をするかについては仕事上すでに魔王なんだから決める必要はない。
にしてもだ、今日はっきりすべきだろう!こちらの住人になるかそれとも………!!」



ヴォルフラムがそこまで一気に喋って急に息を詰まらせた。
こんなヴォルフラムは初めてだ。
どこか焦っている様で、どこか寂しげで…


こんな大切な話をしているのに、不覚にもおれ中は目の前のヴォルフでいっぱいになる。



「そのことなら俺も考えたよ」



おれの言葉にヴォルフラムは不安げな瞳を上げた。
そう、これはずっとおれの中でも迷いのあった事。
決まるまでおれの中で長い時間を要していた。

地球は…日本は俺の育ってきた国だ。

母親がいて
父親がいて
ギャルゲー好きだけどなんだかんだいって世話を焼いてくる兄貴がいて、
村田がいて、
おれの好きな野球があって…。

今までの慣れたいつもと変わらない生活。


忙しいけどおれはそんな生活が好きだった。いや、もちろん今だって。
向こうで今までと何も変わらない生活もいいと思う。




じゃあ、こっちは?

確かにこの国は今やおれにとってもう、かけがえのない存在になっている。

魔族も大切。
傍にいる仲間も大切。
それにおれが魔王だということに何の不安も抱かずに、こんなへなちょこ王についてきてくれる国民がおれは大好きだ。



守りたいものがある。


一緒に平和への道に付いてきて欲しい人々がいる。


…それに傍にいてほしい人が、誰よりも大切に想っている人がいる。

それを考えたらおれはこの国を離れるなんて考えられない。
地球での暮らしは好きだ。

大好きだ。

でも、おれはこの国をこのままにしておきたくはない。





ずっと共に。




この国が平和と言う新しい道を作っていって笑顔が絶えない世界に成れるように。



おれはこの国と生きていこうと思った。


まぁ、それとは別の想いもあるけど……
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