Love Story

□I thought he was my only person.2
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(はぁ、つまんない。)

そう本音を吐き出せたのは、舞踏会の会場の中…では当然なく、会場のバルコニーの片隅でだった。





I thought he was my only person.2








『朝倉事業の跡取りとして研修が始まって二年は経ったし、そろそろ出る所にでて社会を知るように』


なんてお爺様のお言い付けに大人しく従う他なかったから、今夜は初めての社交界デビューとなっている。



朝倉事業は世界に準ずる。
だから今日の舞踏会も当然日本ではなく、ヨーロッパまで足を運んできた…が、とんだ期待外れだ。


(なによ。もーちょっといい男でもいるのかと思ったのにオヤジか相手持ちばっかじゃないの!)


こっちにやってくるのはせいぜい若くて二十代後半だがそんな年の差はごめんだ。
そう、わざわざ言い付けに大人しく従ったのはこの為でもあった。


(絶対どっかに一人くらいピチピチのイケメンがいると思っていたのに)


実際若い男性にはもう相手の女性が付いていたりと手遅れだ。



(何しにきたんだっけ)


元々の目的も吹っ飛んでる。
此処まで粘っているのはちゃんとした理由がある。

執着してるつもりはない。
つもりはないのに…


「『忘れられない人』…ね」


あの時、風で靡いたさらさらの髪、
光を吸収してたっぷりと輝いていた金の小麦の様なその美しさ。

凛とした出で立ち、
姿に合った美しい声。



ヴォルフラムと言ったあの人の姿が。
もう時間が経ったのに頭から消えてくれない。
まるで昨日見たかのように鮮明に今もこの記憶に残っている。


いい加減忘れるべきだ。
何度そう自分に言い聞かせてきたか。でも、今度こそ。


「そろそろ、戻らないと…」


重い体を整えてバルコニーの扉に戻った。



もうすぐ約束の時間になる。
舞踏会の中盤に来たら一度戻ってきなさいと、父親にきつく言われていたのだ。


まだ少し時間は早いけど何処にいるか分からないから探さないといけないし、なら見つかる頃には丁度良い時間になるだろう。

何かは話してくれなかったけど、もしかしたら業界紹介をまたさせられるのかもしれない。



……そう思ったらまたうんざりした。

来た早々同じ事をさせられて三人目から既に名前も忘れたというのに。
四人目からは顔も覚えてない。




こういうのがある度に挨拶回りが必須ならそのうち顔も名前も覚えるだろうとは思うけど。



「とうさま…とう様、父様、父様…っと」


ブツブツ異国語を呟いてれば誰も近づいて来ないだろうし…
英語ならまだしも他の言語はまだ始めたばかりだ。
いつもなら兎も角こんな気分の時に話しかけられても笑顔を保たせる自信がない。



それ位、
そんな壊れやすくなる位、
最近はとてもとても疲れていた。


ビジネス生活は激しさを増して学校に行くのが時々困難になった。勝手に決められたスケジュール。
したい事、皆キャンセルして、今だってこんな所にいる。




何の為?
自分の為??


「嘘ばっかり…」




息苦しい。













「あぁ、此処にいたんだね優姫」


それから父様を見つけたのは会場を半分回った位だった。


見事な金の髪の男性とお酒を嗜んでる。
綺麗な人も沢山いるけど、なんだか世界が違う気がした。
年齢的には三十代前後に見える。

でもそれ以上に、彼には年齢不相応な力がある様に感じた。
どんな力と言われても…困るけど。


(年の割に貫禄あります…って感じ?)


「初めまして朝倉嬢、私は……」

「優姫…優姫?どうしたんだ呆けて。早く御挨拶せんか」



しまった。その人の髪と同じ髪色だったと懐かしく感じてつい見つめてしまった。


「ぇっ…!?ぁ、失礼致しました。朝倉 優姫と申します」

「私の髪色が気に入りましたかな?」

「ぇ…あの、」

「いや、構わない。せっかく御紹介戴いたのだ。日本より来こられたのだと知れば、我が甥も好意を持たずにはいられまい」


まだ話している相手の髪が気になっている所だった…が、

今綺麗な発音の中に紛れて変な単語を幾つか聞いた気がする。
御紹介?我が甥も?好意…?
何の話よ。



「あの…父様?」






嫌な気がして覗き込めば…なんだこの、罰の悪そうな顔。






「あ―実はな義父さんに黙っているようにと言われていたんで……その、私としてもどう仕様もなかったんだ。すまない」



何が?







何だこの…
何かの前触れみたいな……



コツ、コツ、コツ、コツ…




そんな時だった。
誰もが歩き踊ってる筈の舞踏会の中で、たった一つだけ、

たった一つだけ、此方に向かってくる靴音が耳に入ってきた。



規則正しく鳴り続ける靴の響き。





コツ、コツ、コツ…








確実にそれは今だったと思う。

私の人生が動く瞬間。
それが例え欠片でも動くのだとしたらそれは確実に今だった筈だ…




コツ、コツ、…コツン―…。






「叔父上、お呼びでしょうか」









一度しか聴いたことがないのに忘れる事の出来なかった耳通りの良いその声。









そんな筈、ない。



「丁度良い処に来た我が甥よ。さあ、御挨拶するのだ」





叔父上と呼ばれた男性の後ろから同じ色の……眩しい程に輝く其の金髪が覗いている。



「朝倉殿、優姫嬢、御紹介致しましょう。此方が我らの次期頭首候補、そしてこの私、フォンビーレフェルト・ヴァルトラーナの甥に当たります……」





もう一度コツンという軍靴が音を奏でた時、





「フォンビーレフェルト・ヴォルフラムです」





この耳を突き抜け、
この目に飛び込んできたのは…








「…何で」




間違える筈もないあの人だった。














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