Love Story

□第十一話
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最後の角を曲がって見えたのは、
ヴォルフラムに告げた図書館で…


そこまで来て重い気持ちがおれを襲う。



(着きたくない―…)

しかしそうはいかない。足を止めることはもう出来ないのだから。


(離し、たくない―……)


叶わない事だ。
おれが気持ちを取り戻しても、ヴォルフラムの心はまた別にある。


偶々居合わせたから、送ってくれただけ。


そう言い聞かせる。
実際、そうなのだし…


意識して足を踏み出さなければ、
落ちてしまいそうになる速度を一定に保つ事は難しかった。





第十一話





最後の階段を上り、二人で被っていた上着は役目を終える。



二人とも目線は図書館の入り口に向けたまま暫くつっ立っていた。


懐かかった暖かい時間が終わりを告げている。



「…着いた、な」

「あぁ」

「なんかさ、もっと長く時間が掛かるって思ってたけど…、意外と早かったや」

「あっという間だったな」

「うん……」



おれは目線をヴォルフラムに合わせて笑った…つもりだ。

上手く笑えてるかの自信がない。



ちゃんと笑えてたら、いいんだけど。



そうじゃないと見られてはいけない気持ちがヴォルフラムに見えてしまいそうで…



「じゃあ、ぼくは行く」

「ぁ、うん。ここまで送ってくれてありがとな。まじ、助かったよ」

「帰りには雨が上がればいいな」

「うん、ヴォルフラムも…気をつけて、帰って」

「…ユーリ、」

「さよなら、……ヴォルフラム」


別れはおれから告げた。
直ぐに自ら足を翻す。



ヴォルフラムに背を向けて、そしておれは図書館の中へ…




何か言いかけてはいたけど…

何だかそれは聞きたくないと思った。






いや、聞いてはいけないと思った。





一歩、一歩、踏み出そうとする足は重い。

何度も言い聞かせる様にして足を進める。




止めちゃだめた。

今足を止めちゃいけない…


そうしなければ誘惑に負けてしまう。


立ち止まったら今度は、




動けなくなってしまう…






そうして一人葛藤しながら暫く足を進めていたら、
後ろからぴちゃっ、ぴちゃっと足早に水を踏む音が聞こえて…


おれは、はっとして入り口の奥にある階段を駆け上った。




一階から二階の途中の踊場で足を止めて、体を窓の端に隠して外を覗く。

雨で視界が悪かったけど、ここからは図書館の外が見えるんだ。

でも外に人気はなく、遅かったのかと気持ちが沈みかけた、


その時…
見覚えある上着が視界を掠めた。



おれはもう夢中になってその姿を目に焼き付ける。

走る速度がさっきより少し速い。


(…やっぱり気を遣わせていたんだな)




窓越しにしか見えないもどかしさに駆られていたけど、


そのまま行くと思っていたヴォルフラムが突然立ち止まって………―

なんと、こちらを見上げた。


(ぅ、うゎっ…//)


危機一髪の所で窓から顔を隠したから
見られてはいない……と思う。

暫くしてそっと覗き直したその先には…




もう、誰も…いなかった。








嗚呼…おれは、
また独りになったんだ。

胸を鷲掴みながら壁を背にして崩れるようにしゃがみこむ。



空いてる手は頭を抱えて、

……それはまるで今の自分を僅かででも隠すかのように。



「何やってんだよ、おれ」








ややこしい事になってしまった。
留めようとしても想いが止まらない。


それ所か拍車をかけるように、


気持ちが想いがどんどんと溢れてくる。





あんまりだ。
ヴォルフラムには優姫もいる。
報われる事などないと解っている筈なのに…


「優、姫…」



その女性の名を呼んでますます苦しくなる。

優姫はおれとヴォルフラムの過去を知ってるのだろうか…


どちらにしても今のヴォルフラムの恋人は紛れもない優姫だ。

おれはヴォルフラムを奪う事も、
もう想いを寄せる事も、

……出来ない。




「…いい加減、治まってくれよ。…ッなぁ、治まれってッ!!」




止まらないんだ。


ヴォルフラムに再会した時から…



それだけじゃない。


あの心地いい声に名前を呼ばれた時から…


傍に温もりを感じた時、


どんな小さな事にも気遣ってくれる優しさも、



それから、それから…ッ






(お前の眼差しが、おれの瞳に映ったその瞬間から……―)





激しく音を立てては騒ぐおれの心臓が、

止まってくれない。





「…駄目だ」



解ってる。
駄目、駄目なんだ。

いけない事だ、


そうだろう…!?



鷲掴んだ手に力を篭めて何度も呟いた、呪文になる様に。




「そうだ。今度こそ、もう会っちゃ…いけない」






自分の声を押し殺して、呟いたそれは…



誰も居ない踊場の隅から静かに響き渡った。










また会おう…

とは、云わなかった。





再会を望むのではなく、



彼との離別を、

選ばなくてはならなかったから………――













続く

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