Love Story

□第十話
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降ってくる雨の勢いは変わらなくて、

走っている為、傘代わりの上着だけでは雨を稜ぐにはやはり大きさが足らない。


でも足を踏み出す度に跳ね返ってくる飛沫も、

塞ぎ切れず掛かる雨の雫も、


今はおれとヴォルフラムを繋ぎ止めてくれる、

大切な、大切なものだった。


降りしきる雨の中を、
おれ達は走り続ける。


今だけはヴォルフラムとおれの、
たった二人きり。



せめて目的地へ着いてしまうまでは…


(どうか、止まないで…)


そう思うのはいけない事だろうか…?






第十話








おれ達は、何度目の雨宿りになるだろう、ヴォルフラムが示したマンションの下までひた走った。

少し長めの階段があって、それも加わって息があがる。


隣じゃ肩も動いてない。
木の下に入って来た時は息が乱れてたのに…

今はならないってどういう事だ!?



首を傾げるおれの横で、
当の本人は濡れた自分の上着を叩いて、含んだ水分を飛ばしている。


その姿を横目にしながら、
おれは鞄から出したタオルで濡れた肩を拭き始めた…―

…のだが、余り上は濡れてないことに気付いてまた疑問が生まれる。

いや、濡れてるない事に変わはないんだけど…

「大丈夫か、ユーリ」


おれよりもずっと、
ヴォルフラムの方が濡れていたんだ。


「ユーリ。次は彼処にある店のテラスに入らせて貰おう」

「う、うん」


気遣ってくれてるんだろうな。


ヴォルフラムは何も言わないけど、気付き難い所でいつもさり気なく気を回してくれる。



最初はそれが判らなかったけど、一緒の時間を重ねていく中で…

おれはそんな一面を見つけては、有難う、って応えてたっけ。





タオルの面を返して。

おれは、おれよりずっと濡れた肩を軽く叩きながら水気を取り始めた。


「ユーリ、ぼくはいいから…」

「それはもうさっき聞いたっつの。同じ会話をしてどうするんだよ」

「…意地っ張りなんだな、お前は」

「今更そんな事を知ったのか?」



半ば本気で呆れて言葉を返した。
散々そんなおれの性格に遭遇してきた筈なのに…



意地っ張りで、

単純で、

じっとしてられなくて…



…それから、
自分自身の気持ちに嘘すら付けない程、


おれはバカ正直者なのに…



そんなおれを本当に理解してるのかどうか、

ヴォルフラムはただ苦笑いを浮かべて、

さてな、と笑っては上着をまた頭の上に被せたのだった。










足幅を揃えて走り続ける。

どうやらヴォルフラムはおれに合わせて少しスピードを落としてくれているらしい。


だからおれは出す足をヴォルフラムに揃えた。



悔しいけど…ヴォルフラムのお陰で息もあがり難くなって助かってる。



同じ速さで、歩幅で、

同じ足を出して…

同じタイミングで地面の水は跳ね返った。




お互い何も特に話はなかったけど、


代わりに、顔を見合わせては笑った。







それは酷く懐かしい時間だった……―






続く

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