Love Story
□第四話
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美術館の後は映画館だった。また優姫を間に挟んだ状態でおれは何が悲しいのかこの二人に付き合わされている。
しかも…
(なんでよりによってラブロマンスなんだよ…)
そういうのは二人でみろよ…
隣の優姫が視界から消えたとこっそり覗いたら、優姫はまたヴォルフラムに腕を絡めピッタリと寄り添っていた。
よくもま―やるもんだよまったく…。
「…何見てんのよ」
呆気に取られて見てたおれに気付いたのかこっちを意地悪に睨んだ優姫は口パクでそう言った。
ご丁寧に空いた手でシッ、シッとおれの存在を振り払う様な仕草まで付けて…
第四話
その後は二人が現在所属しているという劇団へと向かった。
ヴォルフラムは剣舞の才が素晴らしいらしく劇の中でも主にそういったシーンでなかなかの人気を集めているという。
そして更に聞いた話によると、ヴォルフラムが所属している事を知って劇団に入団して来たのが優姫であったようだ。
こういう言い方をしたら本人に怒られそうだが…彼女の表裏ある性格は意外と演劇に向いていたらしく、講演数回を経て劇団のスターになっていた。
本当、恐れ入る…
劇団の仲間達に挨拶にいったおれ達だったがおれはとうとう居たたまれなくなってお暇する事にした。
こんなに長い時間付き添ったんだ。
充分だろう。
「優姫、おれ帰るよ」
「なんで?これから皆で食事に行こうって二人で話してたのよ?」
驚いた風をしながらおれが立っていたドアまで近づく。
ちなみにヴォルフラムは部屋の奥で初老の男性に話しかけられていた。
風格からして団長とかその辺だろ。
「こっからは二人の方がいいだろ?おれはもう帰るし…」
すると途端に目をキラキラさせた優姫が嬉しそうに口元を弛ませてこう言った。
「まー!!気を利かせてくれてるの??お邪魔虫は退散てわけね?」
あんたって本当にいい友達だわ――!!
おれの型に手をあててそう言う。
呆気にとられてすぐにはまともな言葉もでない。
そっちが呼んだくせにお邪魔虫て…!!
「悪いわね有利!」
「…………ん―ま―もうそれでいいんじゃないか「ビーレフェルトさん!!有利が帰るって!!」
……改めて女というのが恐ろしいと思っていた時だ。
男性に断りをいれたヴォルフラムがすぐにこちらに駆け寄った。
「何故だ、これから食事にいこうと話もしていたのに。…何か用事でもあるのか?」
「べ、別にそーいう訳じゃ…」
心配そうに覗き込んでくるヴォルフラムにおれはこちらを見ないで欲しいと思った。
勢いよく振り向いたヴォルフラムがなんだか残念そうに見えてしまって……でもそんな筈はないと自分で否定を繰り返す。
単なる自惚れだ…
別れても尚気があるなんて検討違いな事を思ってしまった。
なんて情けない…
しかし、口を開いたのは歯切れの悪かったおれでも、まだ視線を外そうとはしないヴォルフラムでもなかった。
「も〜ヤダ、ビーレフェルトさんたら!有利は私たちに気を遣ってくれてるのよ?自分は邪魔だからって私たちが楽しめる様に言ってくれてるの」
もう何にも話す気さえ浮かばなくていっそそれでもいいかと思ってしまう。
優姫がやたら邪魔と強調しながらそう言っているが、ヴォルフラムの視線を感じて思わずたじろいだ。
それとも…、こんなに見せつけられてまで、まだ傍にいたいとおれ自身が思っているのだろうか……?
なかなか動かないおれに優姫がトドメを刺した。
「何してるの?帰るんでしょ?こっちは大丈夫だからもう行って良いのよ!!」
そういいながらおれは思い切り突き飛ばされる。
躓くのをなんとか抑えて、重い足を動かした。
「うん。じゃぁ」
彼らに背を向けて…
ヴォルフラムの顔はもう見ないでそのまま歩いた。
見たらきっとまたおれの中であやふやな気持ちが暴れ出すと思ったから…
そうして出口に向かってゆっくり歩いていた時、突然通り過ぎたばかりの小窓が開いた。
「ユーリ!」
「ぇ…」
今さっき別れた筈のヴォルフラムだった。
「ユーリ」
「…ヴォル、フラム」
あぁ、…おれは変だ。
追いかけて来てくれたのが、こんなに嬉しいなんて……。
「ヴォルフラム…悪いけどおれ…」
「帰りたいと思ったのだろう、止めはしない」
「ぁ、うん…」
その瞬間なんとも情けなくて言いようのない羞恥心に襲われた…
…阿呆かおれは。
は、恥ずかしい…
何を期待してたんだよ…
ところが俯いていたおれの視界の端に何かが映った。
差し出されたものをよく見ると、
ラッピングされた手のひらよりは少しだけ大きめの箱が二つ。
「何か贈りたいと思って買ったんだ。どちらか選んでくれ」
「ぇ、何言って…」
嬉しそうに微笑んだヴォルフラムに促される。
なんでそんな風に笑うんだよ…
突然の事に戸惑っていると、ヴォルフラムの背後からバタバタと勢い良く走ってくる音が聞こえた。
「ふーん。プレゼント、ね」
窓の端から顔を表してじっくりとヴォルフラムの両手を覗き見た…優姫である。
お前が貰うなんて不相応だと言われているようで、おれは断ろうと思い一歩下がろうとした。
……が、
「有り難く思うのね、ビーレフェルトさんはとても優しいからこんな事して下さるのよ?あんたが私の友達だからね」
ビーレフェルトさんに感謝してよね!!
逃げられなくなった……
「ユーリ、選んで」
「早く取りなさいよ!」
態度の全く違う二人に促され、仕方なくおれは手元に視線を戻した。
二種類の小箱。
ひとつはカラフルでインテリな柄
そしてもう一つは正反対のモノクロでシンプルな柄の小箱だった。
本気で選ばないとヴォルフラムにも失礼だと思ったおれは二つのうちカラフルな方を手に取った――…
「有利―――!!」
箱を眺めながら帰路につこうとする。
が、またしてもおれの帰りを阻止してきたのは今度は優姫だった。
また慌ただしくも走って来たのだろう少し息があがっている。
「なに…」
おれは少しうんざりした気分でそう尋ねた。
「あのね、有利…私さっきの小箱。有利の方が気に入ったの」
「なっ……、!!」
そう言うや否や優姫はおれの持っていた小箱を勢い良く引ったくった。
「だからこっちと変えてよね!!」
じゃあね!!
そういってまた走り去っていく。
今日だけでもう何回目かわからないが、
おれはもう返す言葉もなきただモノクロの小箱を片手に暫く立ち呆けてしまった。
続く