Love Story
□第三話
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『一人で彼の相手をするのってなんだか恥ずかしくって、ねーこの日暇でしょ?付き合ってよ』
命令その1、
『見も知らぬラブレター(ヤロー相手)の代筆』
そして、
命令その2…
それが冒頭にあたる。
またムチャブリな難題をサラッと口にしたのはウルワシの女王様だった。
『阿呆か!おれは練習があんだよ!!!』
『じゃあ13時に東都美術館の中でね――』
『行かねーって!』
言うだけいって去ろうとするあいつの背中に叫んだ…ら、聞こえたのか聞こえてないのか、あいつは笑顔で振り向いてこう返した。
『…あ、でも私たちの邪魔は許さないから―』
……聞こえてないらしい。
『だ、誰も邪魔なんかしね―――、って待て行かねーっつっただろ!おい!!聞け―――!!』
そうして女王様は優雅に去っていったのだ…
第三話
(あ―まじでどうしよう)
実をいうと練習はなかった。
や、あったんだけど雨でズルズルのグラウンドでは予定の練習試合は出来なくなったんだ。
……さ、最悪。
なんでこんな時に限って…
美術館の扉を開けたら中から冷房のよく効いた風がスーッと流れてきた。
肌にべた付く外の風に比べて心地よく気持ちがいい。
が、これはちょっと健全なる野球少年にはキツすぎるのではないだろうか…
そんな懸念に業と頭を寄せながら、待ち合わせの場所まで向かう。
階段を登って展示会場に入り少し歩いた頃。
ふと気が付いて柱越を見てみれば、少し離れた丁度真横に、目的の二人が歩いていた。
………っ、
そのうちの一人を目にした瞬間、おれの心蔵がどくんと波打った。
どうしたらいいかも解らなくて…思わず隠れてしまう。
女性の嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。
深く息を吸ってから、おれも差を付けるように壁越しにゆっくり横にならんで歩いた。
…まだ見つけて欲しくはない。
足が、鉛の様に重かった。
会いたくて、会いたくて、
声を近くで聞きたくて、
傍でぬくもりを感じたくて…、
(まだ、落ち着かないのか…)
突き当たりまで来て、最後の壁の端にそっと凭れた。
あまりにも苦しくて、右手で思わずどくどくと未だ鳴り止まない心臓部を鷲掴んだ。
やっと会えたと思えばこんな……―
「ユーリ」
「…っ、!!」
こんな、届かない位置にお前は行ってたなんて……―
見つかったという思いですぐには振り向けなかった。でも後ろからの視線を感じて、小さく息を飲んでから顔を向ける。
「ぁ、……」
それは嬉しそうに微笑んだヴォルフラムが、其処にはいた。
なんで、
何でそんな笑ってられるんだよ、お前は…
「また、会えたな」
「…あぁ」
「元気だったか?」
「そこそこな」
「そうか…」
ヴォルフラムの問いかけにもそっけなく返してしまう。
本当なら心が飛び上がる位に嬉しくて、
……そして同時に理由を追求していただろう。
何故おれの前から姿を消したのかと…
もう愛してはくれないのかと……―
でももうおれ達は終わってるんだ。
「ほら!!ビーレフェルトさん!私の勝ちだったでしょ?」
「ああ、そうだったな」
嬉しそうに駆けてきたのは今まで何処に居たのか…優姫だった。
そのまま何の躊躇いもなくヴォルフラムの腕に自分のを絡める。
見ていられなかった。
思わず視線を逸らしてしまい、不自然だったかと周りの絵を見ているかの様に体ごと動かす。
おれのそんな仕草を見ていたヴォルフラムの視線に、気づくこともなく…
そして、優姫が微笑んだのにも気付くことなく…
「有利が来るかどうかビーレフェルトさんと賭けていたの。私は来るで彼は来ない方!!」
「ぼくの負けのようだ」
「じゃあ何か奢ってね?」
上目遣いでヴォルフラムを見上げる。
やめろ、そんなものでヴォルフラムを誘惑するな……
普段ならきっと腕を振りほどいては拒否を示したろうに、……ところがヴォルフラムは、優姫に優しく微笑んで「仕方ないな」と答えただけだった…
偶に展示の絵画を飾った短い壁を間に挟みながら…おれは二人と少し横に距離を置いて歩く。
間に優姫を挟んだ状態で三人は暫く歩いた。
壁や柱が間に挟むと、どうしてもその向こう側が気になってしまう。
歩幅を僅かに小さくして、ほんの少し後ろからこっそりヴォルフラムを覗いた。
勿論何かの作品を遠目にでも眺めている風を装って…
(ちょっと背が伸びた…かな)
同じ高さ位だったのに成長はおれよりも早かったらしい。
輝く髪
長い睫
美しい瞳
整端な顔つき…
目に映る全てが愛しくて切なくなった。
(……ゎ//!!)
こちらを向きかけたヴォルフラムにハッとして慌てて反対を向く。
そのまますぐに壁が入りおれは安堵の息を吐いた。
もう心臓に悪いことは止めよう。
そう思って有利なりに見学をする。
芸術には興味が全くない事を密かに罵りながら…
(ユーリ…)
先程目を合わせようとしたら逃げられた。
正確には何度も、
だが時間を空けてこちらへ返してはくれたし、今も有利の頬は本人は無自覚だろうが真っ赤である。
ヴォルフラムは優姫にはこちら側だけを見ていて欲しいと思った。
そうして彼女がこっちの意識を取ろうと熱心にこちら側を眺める横で、ヴォルフラムは隙間隙間から見える有利を見ては満足気に頬を弛めたのだった……―
続く