Love Story

□Love Story 1
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好きだからこそ離れようと思ったんだ…









俺には昔好きな人がいた。
その人も俺を愛してくれて…

流れる時間は幸せだった。



けど俺たちは別れた。
そういう話をしたというわけではない。

あいつは俺に何も告げずに、
ある日を境に姿を消した。





人伝に留学したと聞いた。
俺たちの繋がりが、あっさりと切れてしまったんだ…




Love Letter
〜再びという名のはじまり〜 





何処からかの視線を感じておれは顔を上げた。
信号越に向かい合っている一人の姿が目に入る。



…自分の目が信じられなかった。



太陽の光を受けて眩しい程に輝く髪。

湖底を思わせる深いエメラルドの瞳。

こちらを真っ直ぐに見詰める強い、強いその眼差し。


おれは思わず息を呑んだ。




 「渋谷、信号変わったよ?ほら行かなきゃ」
「…何で」
「ぇ、そりゃ信号だからだよ何寝ぼけたこと言ってんのシブ、……渋谷?」


村田が隣で喋っているようだがその声もまるで遠くから話されているかの様に聞こえが悪い。

村田だけじゃない車の音も、人々の声も…

視覚も聴覚ももうソコに釘付けで他を受け付けられない。
目を反らせなかった。


(今になって何で…)



近づいてくる姿だけがやけにゆっくりと目に映える。
そうしておれが立ち惚けている間にあいつは目の前までやって来た。


「…久しぶりだな、ユーリ」
「ヴォル、フラム……」


何年か振りに目の前に現れた。
それはおれがこれまでの人生で…

唯一愛した人だった。



「…ヴォルフラム」
「渋谷、…渋谷ってば!!」
「ぇ…ぁ、」


煩いクラクションの音、
バタバタと走る人々…
そしておれを呼ぶ村田の声。

もう一度その名を口にして初めて、おれに止まった感覚が一斉に戻ってきた。


そして気付いた…


「シブヤ君じゃな―い!どうしたのこんな所に突っ立って。跳ねられちゃうよ?」
「冗談言うなよ、渋谷は君ほど危なっかしくはない」
「失礼ね健ちゃんは、ねービーレフェルトさんもそう思うでしょ?」
「ぇ、いやぼくは別に…」




確かにそれは本人だった。
おれが会いたくて会いたくて、たまらなかったヴォルフラムに違いはなかった…


なかった、けど…


「そうだ二人にちゃんと紹介したことないよね?こちら婚約者のビーレフェルトさん。こっちは私の幼なじみ渋谷 有利君と…ムラタよ」
「なんで僕のは名字呼び捨てなんだよ…」
「え〜、だって忘れた」
「やだなぁ今さっき健ちゃんて呼んだだろ?」


にっこり笑顔の冷めた会話が交わされている。それを背景に見てしまった。

彼女が自分の腕をヴォルフラムのそれに深く絡めたのを…



(なんで離さないんだ…?)


彼が自分の認める者以外に己を許す人物ではないことを知っていた。

そして見知った中でもこんな事が出来るのは、例えばおれの様な…

「婚、約者…?」
「そうなの〜!それもね、ちゃんとしたデートって今日が初めてで…、そうですよね?」
「…あぁ」
「そう、…なんだ」




言葉を理解するには時間がかかった。
なんだって?
二人が、コンヤク?
恋人、なのか??


「どうしたのさっきからボーっとして?彼に見惚れた?」
「…馬鹿いうな、なんでもねーよ」
「そう?」



おれの目の前で手をプラプラと振って顔を覗き込んでくる。
その障害物が煩わしくておれは視線をようやく外した。

「ああそーだ、」

何が可笑しいのかフフ、と可愛らしく笑った彼女はすっとおれの耳元に顔を寄せ、小さな唇で言葉を落とす。

「お礼をいわないとね。ユーリのお陰で彼、漸くデートしてくれる気になったんだもの」
「……何を言って…、っ!」


驚いたのは彼女が両手の親指と人差し指を合わせて長方形の形を作ったこと。

それが何を指すのかおれにはわかってしまったんだ…


「あー密会中悪いけど、信号も青に変わったことだし僕たちはこれで失礼するよ」


動けなくなったおれの手を引いてそう言葉を告げたのは村田。


行こうか渋谷。


誰の返事も聞くことなく…
今度の信号は逃さないとばかりに足を踏み出した村田はおれの腕を掴んだまま、混雑する歩道を渡り始めた。



後ろから「また学校でね〜」とのはしゃいだ明るい声が聞こえる。


その声の元をもう一度だけと、
俺は引っ張られてはいない方の体を捻って振り返った。


人混みで見えにくい中、

大きく手を振る彼女と
それはおれがよく知っていたはずの…


昔の恋人の後ろ姿だった。




「渋谷行こう」
「……うん、」
「渋谷!」
「…わかってるよ」



嘘だ。
理由がわからない、
気持ちもわからない。


あんな目を向けられて、何を信じたら良いのか全くわからない…



今まで何処に…

一体どうして今まで一言も…


なんで…


何で俺の前から姿を消したんだ、ヴォルフラム……

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