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□ベイビー☆パニック 8
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あれから、おれたちの日常は予想もつかないほど慌しくなった。




とりあえず、その後皆に報告する覚悟を得るのに数日格闘していたおれは、
何故おれよりも落ち着いてるんだよ。なんか、腹立つ……
…なヴォルフラムを引き連れて…


漸っと腹を括って揃った皆の前でぶっちゃけた。

右手を頭に掛けて一言。
つまり、



おれたちデキちゃいました宣言。




「ぎゅんーーっ!!」

「わー!!ギュンターしっかりしろー!!!」


汁出す間もなく倒れる王佐なんて久しぶり?いや初めてか…
とにかく後で倒れた分まで汁垂れ流しで汁溜りができた程、ギュンターの、反応は凄まじいものがあった。
あれはなかなかできたもんじゃない。


「何ということだ...」


そんな呟きが漏れてきて目を向けたら、グウェンにまた失くならない皺が一本、二本と増えてたし。
しまいには頭抱えたし…
あんな反応されたら産まれても抱かせてやらないぞ、なんて意地悪心がでた位だ。
グウェンなら相当こたえるに違いない。

つか、すっかり親の心境だ。元々グレタの親ではあるけどそれはそれ、これはこれ。
既に可愛い愛娘が居るからかな…
こんな短期間で子持ちの親の覚悟って決まるもんだな、なんて感じたり。
悪くないよ、寧ろ………な、なんていってみたりして。




でもって、一番気になってた名付け親といえば明かした瞬間は目を見張ってはいたけど、
すぐにいつもの顔。


「こうなると...」

「思ってたの??」


なら、予知能力バリの思考回路にびっくりなんですケド。

なんて疑ってたら、苦笑を伴ったコンラッドがおれの後ろを見通しながら目を細めて笑みを深めた。

ああ、眩しいんだね。
ここは日当たりが良いから部屋の奥まで届いた光陽がきっと彼の髪を反射して、より眩しく感じてる筈だ。
それなら分かるよ、眩しくて…

それは親愛を込めた目だ。


「…いいえ流石に其処までは。…ああ、ですが」


でもそうなればとは、思ってました。


爽やかな笑顔でサラリと恐ろしいことを言ってくれる。







こういうシーンじゃ一番に騒ぎそうなツェリ様が、珍しく静かだと思った、ら…

無言で近付いて、口許を押さえていた美しい指をおれとヴォルフラムに伸ばしてゆっくりと抱き寄せてくれた。


「まぁ、なんて幸せなことでしょう。あたくしに孫が出来てしまうなんて。
 時間の経過を考えさせられるわね……いえ、そんな事よりまるであたくしにまた子供が授かった時の様だわ。
 嗚呼陛下、あたくしも経験者。きっとお役に立てると思いますの」

「あ、はい。有難うございます」



其処まで言ってもらえるなんて…
当たってます、とか胸が苦しいですなんて言えなくなってしまった。
素直に嬉しかった。


「貴方もよ、ヴォルフラム。皆で力を貸すわ。
 でも、陛下を一番お支えできるのはやはり貴方なのだから、しっかりしなくては駄目よ」

「…ええ、ええ。解っています」


目に入れても痛くない三男息子に養子以外じゃ可能性のほぼなかった子供が授かったんだもんな…
ツェリ様の想いはひとしおだろう。


やっとおれたちをその豊満な胸………ああ、いやいや腕から解放したツェリ様は、そのままゆっくり二、三歩下がった。
うっとりする様な優しい目でおれたちに向かって形良い魅惑の唇を開く……


「陛下、ヴォルフラム。本当におめでとう」


ツェリ様だけじゃなかった。
その後ろで復活したギュンターも、
さっきと真逆に頬を緩ませたグウェンも、
そして勿論コンラッドも。


皆、みんな祝福して、微笑んでくれた。



「み、….みんな…っ、」


言葉に詰まったおれの手を、後ろにいたおれの婚約者がそっと取った。

穏やかな顔で心から喜んで居る様だ。
おれも、おれも嬉しい。
本当はまだ不安が多いけど、それでももう産むって決めたんだ。
この子の父親はお前だから。
だから、決死の想いで打ち明けて…
それを受け入れてくれたことに何よりも感謝してるんだよ。

お腹の居るであろう箇所に空いてる手を当てた。
まだまったく膨らみはないけど、判る。ここに居る。
聴こえるかい?
これがおれの仲間たちだよ。大切な大切な。
誰も欠けて欲しくない。信じ合える仲間たちなんだ。
お前もこれから守ってくれるよ。だから安心して出てくると良い。
愛してるよ、おれの赤ちゃん。


あ、こっちでは、蜂蜜ちゃんだったっけ?












「何を笑っているんだユーリ」


そうそっと尋ねられてやっと自分の頬の筋肉が緩んでるのに気付いた。


まだ、一人だけ告げていない彼女を思っていたんだ、と。

そう返したら納得顏の婚約者。
同じ事を考えたんだろうな。だって言った途端のお前の顔の崩し方ときたら。
なぁ、人の事ゼンゼン笑えないぞ。


きっと…
そうだよな、きっと。
皆も祝福してくれたし、あの子もきっと喜んでくれる。

ずっと兄弟が欲しいと言っていた、その願いが叶ったんだから…


「早く教えてやりたいよ」

「確か、明日には王都へ到着する予定ではなかったか…?」


おれたちの可愛い娘、グレタには、まだ大切な話があるとしか告げてなくて、
留学先のカヴァルケードからとりあえず一旦眞魔国へ戻ってきてもらう手筈にだけはなっている。

その連絡を送ったのが一週間程前。

速攻出発してそれが馬ならそろそろ着いてる頃なんだろうけど、
グレタは馬車だから明日とはいうけどもしかしたらあと数日見た方が良いかもしれない。


「おれ、ちょっと外行って近くにいるコッヒーに聞いてみるよ」


諜報担当のコッヒーが運良く馬車付近で日向ぼっこに勤しんでるかもだし。

どうでもいいけどコッヒー達の日常の過ごし方はその外見に目さえ慣れればなかなか可愛らしい行動をとってる事が多い。

例えばそう、この前見たのでいうならば、肥沃のありそうで太陽光の吸収された暖かな土に体を半分だけ埋めてうっとりする…
…半骨浴、だったり。


あれは昼にするからまだ抵抗がないだけであって…
夜にされようものなら、きっとホラーに見えるに違いない…
後に、墓石なんかあったら最凶だ。墓場から出て来た墓の主にしか見えないだろう。まさに蘇り風景。



やっぱりコッヒーを見るなら明るいうちに限るよなー、
なんてどーでもいい事を頭に掠めながらちょうど良い具合に開いた扉の隙間から体を滑り込ませようして……


…思わず足を止めた。



「どうした、ユーリ?」


後からついてこようとしたヴォルフラムも足を止めて不思議そうに覗き込んでくる。


「骨飛族の元へ行くのではないのか?」


うん、そうなんだけどね。そうなんですけどね。
……なんか、変なんだよ。だって…


「なんで此処、開いてるの?」


別に普段なら気にしないけど、今日はおれが閉めたんだ。


それはとりあえず、今いるメンバーに現状を伝えておこうとヴォルフラムと話し合った結果である訳で…

というのも全てグレタが帰って来た時に城の誰かに先に聞かれちゃうのが二人とも嫌だったからだ。



何れ城どころか国中の大事になるだろうしな、なんてあまり嬉しくない予想ならヴォルフラムに聞いた。

だったら、余程気をつけないとグレタにすぐばれてしまうのも時間の問題だ。
それは二人とも嫌だったから…
だから、話し合った結果トップシークレットなんて大袈裟な狙いの元皆を一箇所に…
というかこの部屋に集めたのに…


「誰かいるの?」


おれは、すぐに開きかけの扉を全開にして部屋の外へ飛び出した。
が、駆け出し始めたおれの足は、目の前の急な存在の所為で勢いを無くした。


「おい、待てユー……………ギーゼラ?」

「陛下、閣下……」


扉の側に居たのはギーゼラただ一人だった。
少なくともヴォルフラムにはそう思ったのだろう。
訝しんだ空気はあっても緊張が解けたのがわかる。

ギーゼラはそれこそヴォルフラムに告げるよりも前におれの体調の変化を知ってた人物で…

更にいうなら事が明らかになった…その張本人でもあるからだ。

口外される心配がないと判断したんだろう。
そう思うのは当然だ。
でもそれは、おれより後にでて来たヴォルフラムの場合は、だ。


「…ギーゼラ、」

「も、申し訳ありません、陛下」


そう言って深く頭を下げて詫びるギーゼラ。

彼女がワザとじゃ無いのは勿論分かってる。
…分かってるんだけど、衝撃に圧迫されたこの行き場のない感情はすぐには消しきれなかった。


「ユーリ?ギーゼラ、お前も何を謝っている」


そらお前はわかんないだろうさ、ごめん。構ってられる余裕が…


「…いいんだギーゼラ。態とじゃないだろ」

「でっ、ですが陛下!」

「まだだと思ってた分もあるしタイミングは仕方ないよ。でもそれよりも、なんであんな反応…」


衝撃が大きかったのは何も存在に左右されただけじゃない。
寧ろそれはギーゼラの所為でも何でもないし、予想より早かった。
無理やり纏めればそれで終わる話だった。

でも、あの子は……


「おいユーリ!いい加減にしろ!!ギーゼラお前もだ!勝手に二人で思案にくれるな不愉快だ!!」


機嫌が一気に下がったヴォルフがそう怒鳴る。勢いのままに手を引っ張られて振り向かされた。
でもそれも、おれの顔を見た瞬間に怒りが逸れたらしく、心配そうにまた名前を繰り返す。


「ユーリ、お前が話してくれなければ解らない」

「ぁ…」


切なげな目で訴えられてやっとヴォルフラムの言いたい事が分かった。

そうだ、そうだった。
おれが彼に打ち明けたあの時、



『お前の悩みはぼくの憂いだ。だから一緒に立ち向かって行こう』



そう言ってくれたのは、他の誰でもないヴォルフラムだった。


「ご、ごめんヴォルフ。ちょっとおれ、混乱して…」

「…いや、ユーリが落ち着いたのなら構わない。ぼくこそ怒鳴って悪かった」


胎児に影響が……と思ってくれたのか、小声で詫びてそっと引かれた手が放された。

おれのが悪かったんだけどな、なんて思ったけどきっとキリが無くなるから、それは心の中で呟く事にして。



そうだよな。

もうおれだけの問題じゃ無いんだったよな。


「ヴォルフ…」

「ユーリ?なにか見たのか?…誰を見たんだ」


誰を…

そう、見えた。
後ろ姿を。
それに、ほんの少しの更に一瞬。
曲り角で此方を向いたその顔の一部が苦痛と哀しみに歪んだような、
そんな痛ましい物だった。


「……あの子が、居たんだ。きっと、聞かれた」

「あの子だと?………ユーリそれはいった……なんだと?ユー、リ。今、『子』と言ったか?…あの子とは、お前…まさか」


追いかける事ができなかったのは、今その姿をちゃんと見るのがきっと恐かったからだ。
いつもなら、すぐ抱き寄せてあの子の不安を取り除くのに…

足が重いんだ。


「あぁ、ヴォルフラム…まさかだ」


おれたちの視線よりずっと低い背丈。
何より印象的な褐色の肌色に、

おれの好きな短髪の茶色の巻髪。



おれの養女。



「…グレタが、居たんだ」






大事なおれたちの娘が。








つづく








*************

久しぶりに此処に書きます…か。エピローグがエピローグでなくなりました。残念ながら、続きます。すみません;;


…最後の最後、シリアスシーンのはずなのに…

軍曹様が超空気で自分で笑えましたorz
次いで言うと、隠しもせず既に馬鹿親ぶり&ユーリにメロメロ(古)さ全開な旦那閣下にも笑えました。←オマエがかいたんだyo!
きっと勝手に甘い?夫婦雰囲気出されて乙女軍曹は目を逸らしたでしょうよ。
もしくは気利かせて扉の中から出てこようとするでば亀衆を(←酷い)そっと部屋へ押し戻したでしょうよ。
空気になっても空気の読める女軍曹・ギーゼラ。

わたくし彼女が好きです。w

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