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□ベイビー★パニック 7
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会話もなく、反応もなく、
じっとその場所を見つめたヴォルフラムの眼差しを中心に、まるで時間が止まったみたいだった。











そっと手を放したけど、ヴォルフラムの手はまだ残ってて、じんわりとおれのお腹に温もりが降り注ぐ。
ようやっと口を開いても、暫く言葉が見つからないみたいに開閉を繰り返した唇はすっかり乾いてて、なんだか見てる側として痛々しい。
似合わないよな、美少年に乾燥した唇。無駄にそんな事を思った。


「……本当、なのか?」


やっと聞こえた声がそれだった。


「うん、本当。ギーゼラがさ、国を揺るがすとかいって念入りに三回確かめたんだ。だから本当だよ」



見てて思い出した事が一つ。
地球じゃ有り得ない事ってこっちじゃ普通ってのが今まで多かったから、ついその認識で来ちゃってたんだよな、おれ。
でも、あの時のギーゼラはこっちでも稀にみる珍事だって、…そう言ってたっけ。


「おれさ、他の誰も好きじゃないし、あ、嫌親愛関係は別な?グレタだけじゃなくて家族みたいだって考えたら周りの仲間も城の皆も、
 それこそ国民も、他国の友人だって大好きだよ!!?…でもそーじゃなくてさ、その、恋愛として…
 ぁ、あ愛してるのまじヴォルフラムだけで、他の誰ともライクからラブへは行かないってゆーか、
 お前だけだって決めてるし他とどーこーなる予定もつもりも全く無い訳で。
 …だから、お前はなかなか信じてくれないけどさ、おれには、……お前だけなんだよ」


うわ、やばい。おれ今の人生初めての大告白だったかも。
でも、や、やっぱり恥ずかしいのは変わり無いけど。それでも伝えられるのってこんなに清々しい気分になるもんなんだな。
本気で相手を好きになって、それをちゃんと素直に口で言える。
思った以上に実は有難いことなんだな、なんて。


「知ってるかユーリ、これは滅多に起こらない貴重な事象で、特に我国の場合は真に愛し合うもの同士の他に魔力の素質が条件なのだ。
 低い者では例えどれだけ互いの想いが山を越える勢いであっても、決してこのような事にはならない」

うん、あれ、…でも返って来たのはおれの話とちょっとずれてないか?
や、つかそんなに貴重なんだ…魔力の資質か…おれは兎も角ヴォルフ高いもんな。


「言っておくが我国一の魔術者は他の誰でも無い、ユーリなのだぞ?」

「え、おれ??」

「当たり前だ。ぼくや兄上等と比べ物にすらならない。ユーリの魔術程美しく壮大なものはない」

「それ褒めすぎ…か、仮にそうだとしてもさ?ヴォルフラムだって能力高いじゃん。おれだけじゃないだろ」

「仮にじゃないだろ。ぼく自身世間的評価を見ても自分の力を卑下するつもりは無い、…まだ全然足りないとは思っているがな。だがそれでも…信じられない」


本当、なのか?

そう呟いてそっとおれの腹を撫でてる。
そうなる気持ちがわかるなと思って少し震えてるその手を上からそっと重ねた。
おれなんて、ある日突然自分の体に新たな命!だもんな。
有り得ないなんて考えたこともなかったことだったのに。
なのに下をみたら超現在進行形で現実デスっておれの体から主張してくれてるんだからもう隠し様も逃避も出来ない。
出来ないってなったら、覚悟するしか無い。だから……


「ヴォルフラム。もっかいだけ聞いとく」



一瞬で緊張が走ったのがわかった。
ああ、でもそれはおれも同じだよ。情けないよな手の震えが止まんねーの。
怖いよ、でも確かめないと進まないから…


「おれ、この子を産みたい。そりゃ最初男が産むとかあり得ないと思ったし、や、今でもそうはおもってるけどさ…、
 それでも守りたいって思った。でも、それにはお前が必要なんだ!おれは、
 …おれはヴォルフと一緒に幸せになりたい。なぁ、ヴォルフラム…おれの事、支えてくれる?側に…居てくれる?」


ヴォルフラムは首を縦に振る事も、横にすら動かす事もなかった。
ただ静かにおれの震えた手をそっと取ってそのまま慣れた様な流れる動作でゆっくりと片膝を付いた。

おれの情けない手を握ったヴォルフのそれも震えてて、他は一切非現実的におれの目に映るのに、それだけは妙に本当なんだって表されてるみたいで…

何時もだったらきっと暴れて茶化すのに、今回だけは、おれはただ為されるままにその行為を眺めてた。
いや、見て居たかった。


そっと、手の甲によく知った唇の感触が降って来る。
柔らかくて繊細な其れは、ヴォルフラムのくれるキス。


「愛しています」


開かれたその唇が囁く様に、でも意思堅くおれに愛を告げる。
さっきまでの破局を彷徨ってたおれにとってそれは、なんだか何も敵わない強い魔力の様で…
じんわりと嫌われたんじゃ無いかっていうおれの恐怖を、溶かすみたいに。
その声と響きが、身体中を熱く駆け巡る。
おれを見上げて…なんてこいつは綺麗笑うんだろう。
あまり人には見せない慈愛に満ちたその笑みに囚われてとても目が反らせられない。



「ユーリが愛しくて堪らない。
知っているか?ぼくをこんなに悩ませるのも、怒らせたり心配させたりするのも、
 …何にも変えられぬ程強い歓びを与えてくれる事すらも、全てユーリだけなんだ。
 ユーリを愛して愛して、ユーリが、ぼくを好きになってくれて、それがこんな風に互いの想いで実を結んだというのならば……」

「だっ、た…ら?」


揺らぐおれの瞳を、おれが世界一綺麗だって思ってる碧色の輝石で真っ直ぐに見つめて射抜いてくる。


「愛の証が此処に在るのなら、こんなに幸せで、光栄な事は無い」








泣いているのか、ユーリ。


「っぅッさいな!!な…ってなんかッ」


途端に力が抜けて座り込んだら、何時の間にか懐かしい腕でそっと抱き締められてた。
簡単には解けそうにないその腕の温もりがあまりにも優しくて、あったかくて、目頭に思わず力が入った。


「もうこれ以上我慢するな。泣いて良いぞ」


言うなよ馬鹿。おれ今すっごい戦ってんのに、泣いて良いとか無責任な事。


「お前が望むなら歌を歌ってやっても良いぞ?ぼくは自分の歌に酔いしれて他は何も耳に入らないからな。だからもう独りで耐えようとしなくても大丈夫だ」

「はは、あはは何それ。なんだよそれ。自分に酔いしれちゃうとか、どんだけナルシスト、なっ、っ…」


ぽんぽん、とあやす様に叩かれて…
むかつく、子供扱いすんなよって睨みたかったのに。
見上げてた視界が見る間にぼやけてヴォルフラムが消えた。

ダメだった。我慢出来なかった。




「なる、シ?なんだ新たな男か?」

「違っ、ナルシ、トは…人名じゃ、な………っ」


おれの頬に撫でてたヴォルフラムがやや呑気目にまたそんな事を聞く。



そんな軽口いいながら、今度は背中を叩くそのリズムに安心感を得ちゃって堪える事が出来なくなった。だからって止まん無くなんだろバカヴォルフっ!


「こんなにお前を不安にさせていたんだな、ぼくは」

楽な体制になるようにゆっくりと支えてくれたヴォルフラムが抱く力を強めた。

「ユーリが何かに悩んで居たのは知っていた。だが思っても見なかったんだ、こんなにユーリが思いつめて居ただなんて…。独りで辛かっただろう、すまなかった、ユーリ」

「べ、別に…」

「もう一人じゃ無いぞ、ユーリもう大丈夫だから。お前の悩みはぼくの憂いだ。だから一緒に立ち向かって行こう」




そう囁いて、おれの黒の髪にそっとキスを落とした。

















つづく。

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