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□ベイビー☆パニック 6
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だってそうだろ?


いつだってヴォルフはおれと一緒に居ることを望んでくれた。
船酔いしようが、命の危険を伴おうが、それがおれから離れる理由になんて一度たりともならなかった。
いつだって全身全霊。
おれを後ろから追っかけてきて、おれの隣では小言や我が儘も言うし、おれを愛してるって恥ずかしい囁きも漏らしていく。
おれよりもずっと賢いし、平凡一筋のおれとは比較対象にすらなら無い位、天使と見紛う程の美貌付き。
経験も技術もへなちょこなおれよりずっとずっとずっーと、上だ。

…それでも、ヴォルフラムはおれが良いって言ってくれた。
魔王は、婚約者はおれが良いって…





その言葉を、…信じてたのに。











「おれの事、嫌いになった?」


納得出来ない。理由も何もまだ聞いていない。
聞いてもないのに、ハイソーデスカ、なんて言える訳がない。


「ヴォ、ヴォルフに…どんな風に思われたって…いいよ。だっておれは好きだから。
 でも納得いく答えを貰わないと婚約破棄なんてしない」

「今まで散々婚約を吠えていたのはお前だろうが」

「話別じゃん!こんな理不尽な破棄はヤダっていってんの!!」


縋り付いてるだけ、って言われても仕方ないよな。
でも認めたくない。
理解出来る理由が欲しい。
それもないのにヴォルフラムと別れるなんて絶対に嫌だ。
おれのお腹に宿る子を大事だって思うのと同じ位に、ヴォルフラムは誰にも変えられない存在なんだ。


「…ユーリ、お前が先程言った言葉が真実だとぼくには解ってる」



しつこい、と怒鳴るんじゃないかって身構えたおれに、降りかかったのは予想外の声だった。


「なに…?」

「ぼくを『好きだ』と言ってくれた。その言葉に偽りがないとちゃんと解っている」

「どうして…」

「ユーリは嘘を吐かない。例え吐くとしてもそれを見分ける位ぼくには出来る。嘘じゃない、だがこれは、それで済む問題じゃない」



こっちを見てくれない、ただそれだけなのにこんなに不安で…
何を考えてるのか分からない。
ヴォルフはいつだっておれを尊重してくれる。
魔王としてだとか、婚約者だとか、そんな肩書き上の融通じゃない。
いつだっておれ自身を見た上で向かい合ってくれる。
それなのに今回だけはこの返事だ。
何を考えてる?またおれを考えて、そういうのか?
だったらおれがするべき答えって何だ??分からない事が多すぎる。


「…それで済む問題ではない。それではぼくは耐えられない」

「……どう、いう事?」


おれは溜まらなくて目の前の力なく漂った手を掴んで引いた。

さっきまでとは全然違う。
覇気のなくなった素のヴォルフは見たことがない位不安そうで驚いた。


「なんで…そんな顔……」


なんで、どうして……
一体おれの何がお前をそんな顔にさせたんだ……


「耐えられる筈がない。ぼくは…欲張りなんだ。
 ユーリがぼくだけを見てくれないと嫉妬でどうにかなっても可笑しくはない位、溺れてる」

「な、何言って…」

「だが傍に居たいと思う一方で、お前の隣にぼく以外の誰かが居たり、
 お前がその相手に笑顔を振りまいていたりするのを楽に受け入れられる程、…ぼくは強くもない」


ヴォルフラムが本気なのが解るからその一言一言にドキドキしてる。
ん―でもえーっと。なんだろう、なんか…、なんか……


「ましてや、ユーリがぼくと居ることを選んでくれたとしても、その子を愛する自信がぼくには持てない。
 優しいお前なのだからその相手を放って置くことも出来ないだろう」


誰かって、誰…


「ぼくと子の親の狭間でお前を苦しめる位なら…、ぼくがお前の元を去る」

「ヴォルフ?」


空気の読めてない疑問符にヴォルフがちょっと眉を顰めた。や、もっともだと思うけどね、……あれ、もしかして?そんな疑問が段々鮮明になった所で確実なんじゃないかって思った。

たぶん。多分だけど…ヴォルフラムさ。


「お前さ、…多分誤解してない?」

「誤解なぞしていないぞ!!」


まだよくわかんないけど、
そうであって欲しいって思いが強い。
違ったら?なんて考えたら今度こそ怖いけど、でもそれでも確かめないと。


「手、貸して」

「何故だ」

「どっちでもいいからさ、出して」


半ば奪い取る勢いで取ったのはヴォルフラムの利き手。
それを両手で包むみたいに掴んですぐ側まで引き寄せる。
震えてる。あ、おれの方かな、わかんないや。
触れたらまた気持ちが溢れてくる様で、おれはなんだか溜まらなくて見た目は華奢な指先にキスをした。
おれの名を焦って呼び止める声が掛かる。


「ユーリ、今はそんな状況じゃ…」

「じっとしてろよ。放していいなんて言ってないだろ」


誤解でありますように、誤解なら解けますように。
これはそういうおまじないなの。だから邪魔すんな。


手の甲を包んで下へ下ろした。
当てたのはおれのお腹の上。
勿論不可解な行動だよな。困惑したヴォルフの声が聞こえる。



あぁ、どうか。おれの思い通りであります様に。
このままだと、恐ろしい結末を迎えそうで……それは嫌だから。

どうか、誤解であります様に。







伝われ…ヴォルフに、伝われ…


届け。





「此処だよ。子供、此処に居るんだよ」



















つづく。

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