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□ベイビー★パニック 5
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届いて欲しい想いがある。
「ユーリ、?」
信じてくれるなら、聞いて尚愛してくれたなら、ああ、それはどんなに幸せなことだろうって…
「おれに子供が出来たんだ」
未来を、一緒に刻ませて下さい。
「今、………なんと言った」
今までの笑顔等吹き飛んだように真剣な顔つきでそう聞いてきた。若干、 声も震えてる。
「…ぉ、おれに、赤ちゃんが出来たって、…そう、言ったっ」
言っちゃった。
端的にいうならそんな気分だ。ずっと伝えたかった言葉をやっと言えた。
それなのに、
「……それで?」
「え?」
おれの聞き間違いでなければ予想外の言葉だった筈なんだが…そんな訳ないよな。そんな筈、ないって。
「だから、それがどうしたと聞いて居るんだ」
凍てつくような鋭い眼差しがおれを射抜いて冷めた声でそう聞く。さっきまでとの変わりようにおれは思わず呆気に取られてなかなか返事できなかった。
…どうして。
「え、と。だから、おれ、この子を産んでお前と一緒に育てて、いきたいなっ……て」
じっとりとした冷たい汗がおれの背中に流れた。気持ちの悪い、嫌な汗だ。
何で?なんでいきなりこんなに変わっちゃったんだ?やっぱり子供が出来たのは不味かったのか!?
グレタはぼくたちの娘だといっていたけど、それは血が繋がっていなかったからなんて、そんな理由がまさかヴォルフの中にあったのだろうか……?そんな……!
「お願いします、ヴォルフラム。おれと一緒にこの子を大事にして欲しい。…産ませて、欲しいんだ」
一緒に、幸せになり……
「恐れながら、この件は受諾しかねます陛下」
それはなんの感情も感じられない冷めた返事だった。
……………え、何…
「陛下がその子供を産みたいと仰せなら、私フォンビーレフェルト・ヴォルフラムは陛下との婚約を直ちに解消し、次期当主としてビーレフェルトの地へ向かいたく存じます」
「ヴォル、フ?」
「産みたいのでしょう、陛下」
「あ、当たり前じゃないか!」
戸惑うけど、怖いけど、だっておれとヴォルフの繋がりなら…!!
乾いた笑みでそんなことを聞いてくる。同じ笑いでもこんなに冷たい表情を見たのは初めてこいつに会った時位だ。拒絶……してる様な。
でも、あの時はおれを見下した笑いだった…だけど今は……
「では、私とは婚約を解消して下さい」
「ヴォルフ!」
「フォンヴォルテール卿に申請して今夜のうちに城を発ちます。
…決して長くはない時間でしたが、陛下と過ごせた時間は私にとってかけがえの無い物でした。
お側でお守り出来無い事だけが心残りですが、どうぞこれからもこの国を平和に導かれますよう…」
「な、何言っちゃってんだよお前、変だよ。解ってる?お前言ってる事変!心残りあるのになんで出るとかいうんだよ。
つか何でいきなりそんな事いい出す訳!?何でそんな事になんだよ!?」
「…失礼します」
「ヴォルフ!!」
なんだよこれ!なんで?おれ産みたいって言っただけじゃん!?
お前と幸せになりたくて、お前との繋がりを消したくなくて産みたいって言ったのに、何でそれがダメなんだよ。
ていうか、婚約解消ってなに!?なんでそこまで話し飛ぶわけ!?
変だよ。変じゃん。理由も何も聞いてない。
ヴォルフラムは今から婚約解消宣言して今夜には領地に行くだって……?
おれの傍から、ヴォルフが居なくなる。
そんなの、そんな………
「嫌だッ!!!!!」
気付いたら、部屋中に響くほどの声で叫んでた。扉付近まで足を進めたヴォルフが、ぴたりを足を止める。こっちも見てくれない。その冷さが胸に刺さる様で…
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!」
「…甘えた事を言うな」
「っ!!なんで、なんでだよヴォルフ」
「理由なぞ、明確だろう。お前に子供が出来た。だからぼくは去る、それだけだ」
「なんで!?それって変じゃん!普通は支え合っていくもんなんだろ?お前がどうしても嫌なら…………ぉ、下ろす、事だって……」
御免、護るって言ったのに、今おれ凄く揺れてる。ヴォルフかお前かどちらを取るかで凄く心が傾いてる。
大事だよ。二人の命が合わさったんなら、おれよりずっと大事だよ。
今ならよくある戦争映画で飢えてる自分よりも子供にご飯を食べさせようとする母親の気持が分かる気がする。
って、これは戦争とかでも何でもない状況だけど。それでもいつだって子供を護りたいと想う親の気持ちって同じだと思うんだ。
……、でも。それでもおれにとってヴォルフは無くてはならない存在で。
あーいつからそう感じるようになったんだろう。こんなことになるなんて思ってなくて、出ていくなんてそこまで考えてなくて…
ああ、いつも一緒だったのに。おれって今、独りなんだって…
「そう言う問題では無いだろう!!!」
それまで冷静だった声を突然荒げて返した言葉はそれだった。なんでお前が怒るわけ?
「わかんねーよ。じゃあどんな問題だっていうんだよ。全然わかんねーよ!!!」
もう頭が限界で、いつの間にかまた叫んでた。近づいて我武者羅に掴んだヴォルフの服も本人は振りほどきもしない。
触れることも嫌になったのか…!?そんな不安の一つ一つがおれの周りを取り巻いて離れない。
おれはおれの婚約者が好きで、ギーゼラは真に愛し合った者同士なら有り得ることだって言った。
だから出来たんだろ?おれとヴォルフの赤ちゃん。喜んでくれると思いたかった。
そりゃ言うのは怖いけど、どこかで思っていたんだ。きっとヴォルフなら受け入れてくれるって。
その瞬間に変わるおれ達の関係を思うと、恥ずかしかったけど…でもそんな風に変わる関係なら悪くないって。…そう、思ってたのに。
「なぁ、じゃあ何が問題だっていうんだよ。全然わかんねーよ、なぁッ!!」
「そうだ、ユーリ。お前はこの事の大きさを一体どのように捉えているのだ。ぼくに打ち明けた位だ。それなりの覚悟はあったのだろうな」
「ぁ、当たり前じゃないか!おれが限られた頭回して考えて、おれたちの未来に大事な事だから、だからヴォルフに話さなくちゃって。お前の同意が欲しかったから…だから」
「そう考えた結果がこれか…」
「そんな風に、反対されるなんて思いたくなかったよおれは」
合わせて貰えない碧の瞳が、色を失ってそのまま伏せられた。
こっちを見てくれない。受け入れてくれない。
…本当、こんなはずじゃ、なかったのに………
つづく