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□ベイビー☆パニック 4
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なんとなく、気まずくて他愛のない会話を続けた。
ヴォルフラムも何か頼もうと、メイドさんに飲み物とお茶請けを受け取ってからは、何も言わずただおれの話を聞いてくれてた。

気付かれ無いようにそっとあの場所に手を当てて、これがお前のお父さんなんだよ、って伝えてみたり。


この声、この雰囲気。
これが、普段のお前の親なんだ。
ま、偶に激変するけど…
愛故に………なんだって。
恥ずかしい人だよな。



「どうした、ユーリ。急に黙り込んで…」


ほら、すぐこうしておれの変化に気付いちゃうんだ。
優しいんだよ。そしていつだって大切にしてくれる。
それがわかっちゃうから、嬉しくて…
擽ったくて…
おれは結構逃げてたんだ。


でももう、


「ユーリ」


熱を含んだその声に何かを感じて振り向くと、温かい手がおれの頬を包んだ。

優しい手、
ヴォルフは偶に自分のを穢れた手だ、なんて言うけど…
違うと思う。おれにはこれが護りの手に感じるから。国も仲間も戦いにはてんで役に立たないおれも、いつだってこの手が護ってくれた。
暖かみの在る優しい手。護る為に斬ったことの重みと苦しみを背負ってる、慈愛と労りに満ちた愛しい手。少なくともおれはそう信じてる。
雪みたいに白く透き通ってる。
華奢よりも少し男らしいその手でおれを包み込んで。…そのままゆっくり。


まるで勝負球が秒区切りで飛んでくるのが見えるのと同じ感覚みたいに。

ヴォルフラムが躊躇いがちに近づいてくる。



いいよ、キスしよう。

おれは何も言わずに目を閉じた。







唇と唇が触れる瞬間、温かくて、馴染みの浅いその柔らか過ぎる感触に、どうしようもなく心臓が跳ねる。
いつだってそうだったけど…でも今日は特別ヴォルフを感じる。

久しぶりだからかな。避けてたけど、でもやっぱり触れたかったから…
この感触が今、堪らなく気持ちいい。


最初は遠慮がちに触れていたそれが、一度僅かに離れてまた吸い付くように触れて来た。
ちょっと離れただけなのに物寂しいと思ってしまったんだからおれも相当だよな。


だってヴォルフの唇が熱いから…
離れたら逃げてしまうその熱を逃したくないって思ってしまうんだもんな。
段々深くなって行くそれに今日は出来るだけおれも合わせた。いつもだったら止めたり逃げたりなんだけど……

だからかな、いつもよりヴォルフのキスが激しい。何度も執着におれの下唇を舐め上げて、焦ったそうに攻めてくる。
あまりにも熱く求められて、堪えられずに息が零れた…ら、待ちかねた様にヴォルフの熱が唇を割って入った来た。

唇も、さし込まれた舌もおれのよりずっと熱を帯びていて、
おれのを安やすと絡めとる。
勝手に声が漏れる以外、とても話せる余裕がない。それ程に求めあって、気持ちを確かめ合うように、何度も何度も、重ね合わせて……



今まで何度もヴォルフとキスをして来たけど、こんなに気持ち良くて酔い痴れそうなのは初めてだった。キスが甘くて…ひたすらに甘くて…
離れたくない…このまま二人ともこの熱に溶けちゃえばいいのに…ただそう思った。




キスを受け入れたのはもう最後かもしれないって思ったから。

これから、打ち明ける事を聞いてヴォルフがおれの元を去ってしまったら…って考えたら、
今この一瞬だけは、二人きり、大好きな気持ちのまま二人きりで甘く過ごしたい、って柄にもなく思っちゃったんだ。









どれぐらい時間が経ったのかな、
互いに息が乱れあって、離れた時には銀色の糸が二人の間を繋いでた。
ヴォルフラムがもう一度だけ軽く音を立ててキスをしてその繋がりを納めた。
見た目は華奢なくせにそれに反したしっかりした指が、おれの口元をそっとなぞる。
心地いい感覚が離れてすぐに、

熱が…離れて行くのを感じた。


「ユーリ…」

「……ヴォ、ルフ…お前、激しすぎ」

「悪かった。久しぶりだったから求めたくなった」

「うん…」

「何か、ぼくに言う事があるのだろう?」

「………うん、そうなんだ」





それきり、 会話が無くなった。
なにから話せばいいのか、まだ良くわかってなくて…
話さないとってわかってるんだけど…

やっぱりまだ怖い。


と、頭に重みがのしかかってそのままわさわさと撫でられる。


「なに、」

「いや、いい。焦らなくていい。話しにくいのならユーリが話したくなった時でいい。それまで待てるから」

「ヴォルフ」

「ゆっくり考えて話したいと思った時に話してくれればいいから」



そういって、暫くおれの頭を優しく撫でて立ち上がった。

行くつもりなんだろう…
こうやってまたおれはこいつに心配をかけるんだ。



「ヴォルフラム!」

「なんだ突然大きな声を出し……ユーリ?」

「座ってくれよ、話、終ってないだろ」

「しかし、」

「用事ないんなら付き合えるだろ?」

「…わかった」



それ以上の文句を言わず、ヴォルフラムがさっきと同じ様におれの隣に腰掛けて此方を向いた。


すごい、不安で…

恐る恐る差し出した手をヴォルフラムがそっと握ってくれたからおれもその柔らかな熱に力を込めた。


「その、……何があっても、最後まで聞いて欲しいんだ。おれも何から話したら良いかまだ解ってなくて、きっとうまく言えないからさ…だから」

「ああ、解った。大丈夫だからユーリ」

「うん、」



この温もりから、離れたくないな…

この距離を今以上に失いたくない…


大事だから…
ずっとこいつの傍にいたい…
だって、おれはもうずっとずっとヴォルフのこと…


「…好きなんだ」

「ユー、リ?」

「忘れないで欲しいんだ。おれがヴォルフラムのことちゃんと好きだって」





なんにも返さず黙って聞いてる。
おれは沈黙が居た堪れなくて混乱しそうな頭を抱えてありのままを言うしかなかった。
だけど、伝えたいから。




「む、向こうに行ったらお前のことばっか考えちゃうし、ちょっとでも会えなきゃ凄く心配になる。…お前が夜に部屋にいなかったら、
…もそうだけどあの特有の鼾を聞いてないともう落ち着かなくてね、眠れなくなる」

「…それはお前こそだろう」

「おれは鼾なんてかかないぞ!?」

「そこではない、そこでは」

「あ、そうか…そこはどーてもよくて……。ずっと一緒に居れたら良いって思ってる」

「ああ、そうだな…」



最悪の出会いからいろんな旅や事件を通して培ってきたもの。
ゆっくり、本当にゆっくり、動いたこの気持ちを……




「す、好きだよ…おれ、」

「ああ」

「お前のことばっか頭にない位、可笑しいよな、ずーっと男同士なのにって突っ込んでたのおれなのに」

「それでも、お前はぼくを見てくれて居た。いつだって真っ直ぐな目でぼくを見、受け入れてくれたのはユーリ自身だ」

「それは、おまえがいつも側に居てくれたからじゃん」

「婚約者だからな」

「………それだけ?」



解ってるけど、こんな時だから聞きたくなる。少しでも安心したいなんてなんかおれ女々しいよな。



「ユーリ、お前はぼくにどんな答えを望んで居る」

「……そうじゃない、って……言って欲しい」



意地悪だって見上げたら、優しく回った腕によって包まれるみたいにそっと抱き寄せられた。

顔は下に向いてるから見えない…のを良い事に一気に頬に熱が集まる。み、見んなよ?


「愚問だ。ユーリがユーリだからに決まって居る。婚約者という肩書きもお前という存在が在ってこそだ。
お前を何時だって想っているから側に居たいと思うし、この目の届く内に閉じ込めまいたいとすら思える時がある」


だが何よりも、ユーリを想うと幸せで心が優しくなれる。
お前はぼくの支えであり、ぼくにとっての唯一の存在だ。



ああきっと、この先これ以上の恋なんてないんだろうな。
や、この先誰かに恋愛感情抱くかなんて不明な訳だし、正直目の前で手一杯になっちゃうこの婚約者以外にもうそうなるつもりもないんだけど。

目の前の温もりが何より大事で、おれにとってなくてはならない存在なんだってそりゃ何度も思ってきたけど、その中でも一際強く、今そう感じたんだ。




「………き、……だ」

「ん、なんだユーリ。よく聞こえなかった」

「…きたんだ。出来ちゃったんだ…おれ、」








ああどうか。おれの無二の幸せがこのままどうか、続きますように…






「おれ、子供が出来たんだ」







つづく

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