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□ベイビー★パニック 3
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「ほんっ………とに、おれってば何やってんだろ…」
さっきのは流石に不味かったな。
今頃激昂してんじゃないかな。……や、傷付いてるかもしれない。
こういう時ですら、おれを気遣って心傷めちゃうような位優しい奴だから…きっと。
なのに、おれってば悪く無いのにあいつの事避けて、怒鳴って追い出して…
「え、おれ家庭を省みない父親設定?」
ちなみに原因は浮気じゃアリマセン。
「おれの弟は何かお気に召さ無い事をしましたか?」
「コンラッド…」
いつのまにか部屋の扉口に見慣れた姿が立っていた。
そういえば、此処数日視察でいなかったんだよな。もう、それどころじゃなくて何日経ったのかも判らなくなってた。
「おかえりコンラッド」
「はい陛下、」
「あんたは名付け親だろ?」
「そうでした、ただいまユーリ」
いつものやりとり。
それですら気が乗らないって相当なんだなおれ。
「大丈夫ですか?」
「ぎりぎりね」
ぎりぎり大丈夫なのか、そうじゃ無いのか、そこ迄はとても言えなかった。
「聞か無いんですか?」
唐突な質問がコンラッドの
静かな口調に乗って降って来た。
何が?の部分を敢えて言わ無いんだもんな。
それっておれへの気遣い?それとも弟可愛さ故の嫌がらせ?
「どんな事があろうとおれは貴方の味方です」
あ…こ、心読まれた、かな。
「誰とは言いませんが、まー元気ではありませんね。貴方をとても心配していますよ」
誰とは言いませんがね。
「だよ、ね。はは、」
「…おれではどうですか?話を聞くことはできますよ?」
急にそんなことを言うので目を合わせてみたら、予想外に真剣な顔つきだった。
軽く困った笑いを含んで聞いてきたんだって思ってたのに…期待はずれだ。
ああ、わかってるよ。あんたにまでこんな顔をさせちゃう位、おれってば本気で周りを心配させてるって……つまりその顔はそういう事なんだよな。
「役に立てないかなユーリ」
「ぁ……」
コンラッドに打ち明ける…か。
楽になるだろうか…
誰よりも親身な名付け親。
コンラッドに話したらこの訳の判らなくなってしまってる混乱と困惑の毎日に何か変化をくれるだろうか…
もやもやして葛藤ばっかなこの気持ちがちょっとは落ち着くだろうか。
少なくとも気は紛れるだろう。
今よりはマシなはずだ。
「ユーリ、」
気が楽になるなら、こんなにほっとする事も今はないだろう。
………でも。
「…ごめん。今回は……あんたじゃ、駄目なんだ」
「そうですか」
楽になるだろう。だって一番支え合える仲。
チームワークだって、バッチリだ。
だけど、
「おれでは役不足だったかな」
「違うよ。あんたに話せる事はちゃんと話してるだろ。ただこれは、その、話すなら誰よりも先に言わなきゃいけない奴が居るって……そういう事」
大事な事だからこうやってずっと考えてる。
でもそれを打ち明けるなら、
何も知らずにいる当事者を置いて、先に話しちゃう訳にいかないだろ。
例え名付け親でも。
「そうですか。それはあいつですか?」
「…うん、そう。…ごめんな、コンラッド」
「謝る必要はありません。それが陛下の御意思なら、おれは貴方が話してくれるのをゆっくりと待つだけです」
「そっか…、サンキュ」
「いえ」
「あ!それから、今陛下つっただろ名付け親!!」
「おや、バレてしまいましたか。すみません、ユーリ」
やっといつもの感じ。
やっぱりこうでなくっちゃらしくないよな。
そうだ、いつまでも悩みまくってるなんて脳筋族のおれにはもともと不向きだったんだ。
あいつに言わなくちゃ…
いや、話すなら、やっぱり一番はあいつが良いんだ。
今大事なのはきっとこれだけだから。
こうして少し話すだけでも気持ちの切り替えは出来るもんだなって、そう思った。
自分のしなくちゃいけない事はとりあえず解ったから。
いつまでも隠す訳にいかないよな。
「ちゃんと……話聴いてくれるかな…」
「大丈夫ですよ。ユーリとあいつなら何時だって最後には丸く収まってきたでしょう」
「浮気者だの、尻軽だの。それまでの過程が大抵の場合最っ悪だけどな」
「おれは二人はお似合いだといつも言ってる筈です」
「そ、そだっけっ」
「そうですよ。国内一のおしどり夫婦でしょう?」
「そんな大それたもんじゃないよ」
「おれは二人が羨ましい」
…そう、かな。
あんたがそんな顔していうと、妙に考えちゃうから困るんだ。
照れるじゃん。だってこんなの、おしどりだとか、お似合いとか…
そうなれたら…って思うけど、実際言われちゃうとさ…照れるじゃん。
「決めた。おれ、頑張って話してみるよ」
「ええ、貴方ならきっと出来ます」
「うん、ありがとなコンラッド。あの、さ。それで…なんだけどっ、」
「わかってます」
おれが言おうとした事を軽く制してコンラッドは頷いた。
「少しでも役に立てるならおれも来た甲斐があったよユーリ……」
流石名付け親。あんた、お爺ちゃんになるんだよ?
きっと言ったらびっくりするんだろうな。
そう思うとなんだか可笑しかった。
また誰もいなくなって、
おれは自慢のふかふかのソファーに座った。
ゆっくり腹の真ん中に手を当てて目を閉じる。
まだ膨らみもなんにも無いけど、なんとなく判る。解るんだ。ここに居るって。
聞こえてるかい?おれの赤ちゃん。
お前にはさ、お姉さんがいるんだよ?
おれの、…お父さんの自慢の娘で名前はグレタ。
魔族の子では無いけど、愛しくってやまない大事な娘なんだ。
きっと、お前が産まれたらあの子はお前を可愛がってくれるよ。
妹か、弟が、ずっと欲しいと言っていたから。
良くしてくれる仲間達が沢山いるよ。
皆個性的で、一緒にいると楽しくて…
でもいつだっておれを大事にしてくれる。
まだまだ先だけど。
おれが大好きな皆に、お前もはやく会わせてやりたいよ。
それから、…それから。
一番に伝えたいのはお前のお父さんだよ?
おれの事を誰よりも想ってくれて、
どんな時でも大事にしてくれて、
そしていつも傍にいてくれて。
大好きなんだ。
これだけは誓える。
会えない時は思い出して、
その声を聞いたらドキドキが止まらなくて…
本当は、いつだって触れていたい。
心配で怖くて、まだお前の事は話せていないけど。
でも、お前がお父さんなんだよ、って。伝えなくちゃ駄目だから。
例えどんな答えがきたって、おれがお前を守ってやるから。
だから言うよ。お前のもう一人のお父さんに。
「ユーリ居るのか?入るぞ」
大丈夫だよ。
それから、大丈夫だよ、おれ。
ずっと瞑ったままだった目をそっと開けて目線を向ければ、
今一番会いたいあいつの姿が目に飛び込んだ。
お前に誰よりもはやく会わせてやりたいんだ。
「ユーリ、コンラートに今会って…ユーリがぼくを呼んでいるからいけって…」
「うん、来てくれたんだ」
「べ、別に暇だったからな。用事があるなら聞いてやろうかと…思って……もう、いいのか?」
「うん、もういいんだ。ごめんな、迷惑かけて。お前に会いたいと思ってたんだ」
「そうか」
おれの太陽がゆっくりとこちらに近づいてくる。
一瞬困ったように見えたからおれの隣を勧めたら躊躇いがちにソファーに座った。
そりゃそうだよな。避けまくってたから。
でももう、いいんだよ。
一人だった空間が、二人になってそれはおれに明らかな影響を与える。
眩しくて…それだけお前がおれにとって偉大なんだって、判るよ。
「ユーリ…」
「うん、ヴォルフラムあのさ…」
話したい事が沢山あるんだ。
お前に最初に聞いて欲しい。
さて、何から話そうか。
続く。