MoBeYa&小話

□消えたぼくの宝物 2
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「ん、ど…して、ユー………」


答えを聞きたいのに届かない。

この思いも、
おまえへの距離も、




何一つ、
何一つ届かないなんて―――…







『消えたぼくの宝物 2』






『おい、ヴォルフラム!いい加減にしろよ一体いつまで寝てるつもりなんだよ』


ぅう、五月蝿いぞ…へな、ちょこ。


『へなちょこ言うな!!いいからほら、起きろって!』


あと、少し位いいだろう…が、
ぼくは体が今重い、んだ。


『ったく、もーいいよ。おれもう先行くからな』



なん…だと……?


『じゃ―な――、ヴォルフラム』




ま、待て!待つんだユー……………っっ!!




「…ッぁ、………」
「あ、お気が付かれましたか?」
「ギーゼラ、か?」


うっすらと映った目の先には緑色の髪のお下げが映った。
周りを見回して寝室だとわかる。
体が…重い…………。



「まぁ、閣下はこの私をお忘れですか?」
「すまない」
「いえ唯の冗談ですので」
「ぼくは…一体?」


意識が少しはっきりとして違和感を覚えた。
確かさっきコンラートが起こしきてくれたはずで…


「…っ」
「なりません、どうかこのままお休み下さい」


起き上がろうとしたぼくをギーゼラは慌てて留めた。
なんだこのだるさは、



「…お倒れになったのですよ、覚えていらっしゃいませんか?」



ぼくが、倒れた…だと……?



「お風邪を召されてからご自分で治そうとはなさらなかったでしょう?
 放って置いた疲れや風邪の症状が長引いて、体を保つ事が出来なくなったのではないかと思います。」



そんな事は知らなかった。
ぼくはユーリの事で頭がいっぱいで……



「どうか落ち着いて下さい閣……、」



閣下と呼ぼうとしたのだろう、ギーゼラの口が閉ざされた。


その先は聞きたくはない。



「ヴォルフラム、陛……「呼ぶな!!」」
「し、しかし」
「呼ぶなといっているだろう!!!」



動きを止めたギーゼラを思わず睨んでしまったが、ギーゼラに害はないことは勿論ぼくとて知っている。

だがそんな事は耐えられない。
耐えられそうにない…



「………頼む、ギーゼラ。おまえだけでいい、ぼくの気持ちを少しでも知っているのなら、」



どうかその名でぼくを呼ばないでくれ……





「…では、なんとお呼びすれば…」
「呼び捨てでもなんでも、好きに呼べばいいだろう」


やけくそ気味に吐き捨てて言えば、ギーゼラは可笑しそうに笑った。



「呼び捨てだなんて、そんな御冗談を…ヴォルフラム閣下」
「…ありがとうギーゼラ」
「それが閣下のお気持ちなら」







ユーリは、行ってしまった。
大方、ぼくを傷つけたくなかったのだろう。

あれは優しいからな…

伯父上との間でぼくが心を傷ませていた事を、あいつは知ってしまったから。



「ユーリは、今頃どうしてるのだろうか…」
「…閣下」
「こんな風に与えられた権力ならないほうがずっとましだ」
「……、」


一度は受け入れる事を決意した。
最後の戦いを勝ち抜いて、戻ってこれないと諦めユーリの王位を継ぐつもりだった。
しかしあれは、あくまでユーリが帰って来ないと思ったからで、
本当ならユーリ程魔王に相応しい者もぼくには考えられない。
あれは真の王だ、未熟なとこはあったが常に自ら努力してきた男で…そんなユーリの意志を継いでこの国を守りたいと思った。


だが、これはどうだ…!



あいつは、ぼくに次代魔王という名誉を残してあっという間に消えてしまった。



「馬鹿だ、あいつは!」
「閣下?」
「そうだろう!?優しさだかなんだか知らんが残された者の事など考えもしない。やはり未熟で、へなちょこな奴だ」



だからこそ、そんなところも含めて、
どこまでも愛おしかったのに…




「…そう、かもしれませんね。本当にお優しいお方でしたから」



おまえのいないこの国で、今度はぼくにどう生きろというんだ…



「馬鹿だ…ユーリは。せっかく戻れたのにこれではグレタが可哀想じゃないか」
「姫様も明るく振る舞って居られますが、やはり…」
「国民も、寂しい思いをするだろう」
「とても慕われていらっしゃいましたから…」
「あいつは!魔王として生きると成人の儀式で表明もしたのに……!!」
「…閣下」
「ぼくとてこんなのは堪えられない」





「本当に…愛して、いらっしゃったのですね」

「……ぇ、」





見上げたギーゼラは優しく微笑んでいた。切なそうに、だが彼女本来の優しさで…



だが、なんだこの感じは、
何かが変だ。
そう、何かが…


「…それは間違っているんだギーゼラ、」
「閣下?」
「そしてぼく自身も、間違っていた…。我ながら情けない事だ」




愛していたんじゃない…
愛おしかったんじゃない。


忘れることも叶わず、
耐えることも出来ず、
今だってこんなにおまえを想うのは……



今だっておまえを…
『ユーリを、こんなにも愛しているからだ…』



「閣、下?」



そうか、簡単な事だったのだ。
だってぼくの望みはいつだって一つだけだったのだから。





心は、決まった。









「ギーゼラ、おまえがいてくれて良かった、お陰で少し落ち着いた」
「わ、私は、…医療魔術を扱う者、閣下の体だけではなくお心が少しでも晴れたなら、光栄で御座います」


慌てた様に言葉を返される。
ユーリへの想いを口にだしてしまったから驚かせただろうか…



「有難う、もう少し休んでもいいか?」
「勿論で御座います!!ゆっくりとお休み下さい」




だが嬉しそうに布団をかけ直してくれるギーゼラに安心して、ぼくは目を閉じた。


薄れつつある意識に自分が疲れていたことが判る。
始まりの前に休息を取るというのなら悪くはない。







すべては目覚めてからだ… 









end.





















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