MoBeYa&小話
□もし知らなかったなら…
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「ヴォルフ」
最近の気に入りの一冊だった。
ぼくは執務に励むユーリの傍の腰掛に背を預け、最近気に入りの本を熟読していた。
作者は知らないが、それは巷で流行っている日記の話だった。
主人公は魔王陛下の側近という設定らしい。日々陛下への想いを綴っているというもので。
その作者がユーリを本当にそんな目で見ているとしたらぼくは決して許しはしないが、この者の描く当代魔王陛下はあながち間違ってはいないと思った。
「ヴォルフ〜…。ヴォルフラムさーん」
闇より深い真っ黒な瞳、
艶やかな漆黒の御髪…
その美しさを見事に備えているにもかかわらず、実際本人は自分の美に関してまったくの無自覚、まったくの無意識なのだからぼくがいくら語っても全否定を繰り返す。
「おーい、戻ってこーーーい。 ぁ、コンラッド!どうしようヴォルフったらギュンターのサブサブ日記読んでるんですけど…。 しかもなんかニヤケテルンデスケド…」
「困りましたね、ヴォルフラムまでギュンターの妄想に嵌まり込むとは…」
しかし、この者はぼくと同意見をこうして記しているから深い共感を得てしまうのだ。
いつかギュンターと陛下について語り合ってみるのも悪くないと思った。
…………ん?今なんと言った?
「おいヴォルフラム!!」
「……ユーリ」
「やっと返事したな。ったく妄想なんだからのめりこまないでくれよ、…ってかいっそ読むの止めろ」
「ユーリ、」
「ん?なんだよ」
「おまえ今、これが誰の日記だと言った」
「なんだよ今更。ギュンターの日記に決まってんじゃん」
………。
…、
…………なんだって!?
カチャ
「ヘーカァーーーーー!貴方様のお側にこの有能なる私フォンクライスト・ギュンターが参りましたァよーーー!!」
「ゎわっ!!ギュンター!!!」
「あぁ、陛下。本日もその麗しの漆黒の瞳と艶やかなる御髪をこの目に拝見することが叶い私は幸せな限りです」
ばたん!!!
「…おや、ヴォルフラム居たのですか?そのような閉じ方をしては本が傷みやすくなりますよ。それから、何よりも私と陛下の大切な時間の妨げになります。お止めなさ「…るな、」」
ぼくはさっき何だって?
誰とユーリについて語り合うだと…?
こんな、こんな……
「ヴォ、ヴォルフラム?」
「陛下、危ないからこっちへ」
「は?」
ふつふつと怒りが立ち上ってくる。
こんな10割すべて妄想だけの小説だったなんて…。
『ユーリを本当にそんな目で見ているとしたらぼくは……』
ぼくは…。
「すみません、ヴォルフラム今なん…」
「ふざけるなよギュンターー!!覚悟ーーーーーーー!」
「ええぇぇぇーーーーー!!?」
ユーリはぼくのユーリだ。
他人の妄想など、ましてやギュンターなどと、
言語道断!!!!
「放っておいていいのかな…」
「いいんじゃないですか?仲良きことは美しきかな、ですよ」
「そっか」
「赦さんぞギュンター!!」
「私が、わたくしが何をしたという…ギュ、ギュンーーーー!!」
オワレ。