MoBeYa&小話

□消えたぼくの宝物
1ページ/2ページ






……好きだ。

好きだよ、



「おれは、ヴォルフラムが好きだ―……」



だから…


「ユー…、リ?」




視界が遮られる。
ぼくとユーリの間では、大粒の雨が振っていた。






『さよなら、ヴォルフラム』



雨で滑って、ぼくは愛しいその手を掴みきることも叶わなかったんだ…






「ッユーリ―――!!」









消えたぼくの宝物












嘘だと思って目を開けた。
夢に違いない、そんなはずはない…

だが、いつものように抱き寄せようと、
伸ばした腕には何の手応えもなく…

白く冷たい布の波があるだけだった。



どうしてだ…ユーリ……!?






控えめにドアを叩く音が聞こえる。
は、として飛び起きた。
そうだ!間違いない。遅く起きた自分を起こしに、呆れた顔をしてやってくるんだ。
いつもなら、いつものユーリなら…!
そう……いつ、も…だったなら?





「…ヴォルフラム」
「…………コンラー、ト」


ぼくの考えもお見通しなんだろう、
ゆっくりとやってきてベッドの縁に腰掛けた。いつもの様な笑顔は…見られない。

「よく眠れたか?」
「すまない、もうこんな日が登っているとは思わなかった」
「いや、もう少し寝ていても構わないんだぞ?疲れているだろうし…「平気だ。すぐに着替える」」


ふう、と肩をすくめたコンラートが溜め息を漏らした。

いつもとは違う…
ユーリのいない毎日。



扉が閉まる音がして、ぼくはまた一人になった。
あいつだって名付け親なんだ辛くないはずがないだろうに。


だが今のぼくには兄の様に、他の者にまで気を遣える余裕などはなかった。





ユーリはいない。
そう、あれは夢ではなかった。
激しい雨の中でユーリからの告白は、
心が躍るほどに嬉しくて…
そして、凍てつくほどに冷たかった―……












『好きだ…』
『ユー……リ?』

その言葉がどれ程暖かいか、力を持ったものなのか、おまえはどれ程までに知っているというのだろうか。

ぐっしょりと濡れた漆黒の髪には水分を含みいつも以上に潤って、毛先からはポタポタと水が滴っていた。




俯いて呟く様に言われた言葉が偽りかそれとも誠なのか、
ぼくは思わずユーリの頬に手を差し入れ顔を持ち上げた。

そして耳に届いた言葉は、誠だった…





『好きだよ、ヴォルフラム』
『おれは、ヴォルフラムが好きだ』

『ユーリ…』



ユーリが頬に当てていたぼくの手に指を絡ませてきた。
そのまま頬に押し付ける様に、強く…弱く

本当に嬉しかった、だってぼくはユーリとのこの時を待っていたのだから。


だが、なぜなんだこの違和感は……


俯いたせいでユーリの目がまた見えなくなった。
両手で絡めたぼくの手の平に今度は音を立てながら唇を寄せて、そのまま握りこんだ。


ぼくの手が震えている…否、これ、は……



『ユーリ?』
『だからさ、』




…さよなら、ヴォルフラム。




…なんだ、と?


『ッ、何処に行くんだ、ユー…ッ!!?』



気付くのがもっと早ければ、何か変わったのかも知れない。
ぼくの手を放して一歩づつ後ろに下がるユーリ。
そのすぐ側には雨のせいで大きめの水溜まりが出来ていた。
それが何を示すのか、わからないぼくではない。


『何をするつもりだ!待てユーリ!!』


伸ばした手がユーリの手を掴んだ、だが引っ張った瞬間、
雨に濡れたお互いの指は止まる事を知らず…





『行くな!ユーリ―――!!』




激しさが増した雨がこんなに鬱陶しく感じた事はない。


水溜まりは、ぼくの幸せを、ユーリを一瞬にして掻き消した。



『ユーリ!すぐにぼくも…っ』

僅かな可能性だって今のぼくには棄てきる事など出来ない。
すぐに膝を付いて消えたその中心に手を突っ込むが堅い土に押し返される、

何度押しても、返される…




ユーリ…ユーリ――――!!!


何故なんだ、今ぼくの目の前で気持ちを明かしたとこだっただろうが…!



く、くそ…

『くそ―――っツ!!!』


円を描く水溜まりは目の前のぼくしか映さない。



『…どうしてなんだ、ユー、ッ―――……』







最後に見せた顔に滴ったそれは雨の雫石なのか?それとも異なるのか…?

そんな事ももう今のぼくにはわからない―…











ユーリ、













ユー、リ――…







雨の地を打つ音だけが、ぼくの存在を掻き消した…






end.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ