MoBeYa&小話

□今は、まだ
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設定としては、3rdシリーズ2話後、
『婚約を勝手に解消されたユーリがヴォルフラムの元へ駆けて、ほっぺたをペチ
コーンて叩いたら…』

という妄想から生まれた話です。















パシン…!!







一体何が起きたのか、一瞬にしてひり、としだした自分の頬に手をあててヴォルフラムは茫然とした。

目の前の自分を叩いた本人はと言えば、痛かったのか手を押さえている。

下を向いていたその黒な瞳に自分が映った時、初めてヴォルフラムはユーリに見詰められているのだと知った。



「おれは…おれにはヴォルフラムが必要なんだ」
「ユー…リ?」


何故こいつはこんなに真っ直ぐにぼくを見つめるのだろうか…


「おれの事へなちょこだって言うんならおれがへなちょこじゃなくなるまで見てろよ!…ずっと見てろ!!」
「ユーリ…」


柔らかそうな頬を赤く蒸気させる程に、何がユーリをここまで熱くさせているのだろうか…


「勝手に婚約を解消したりとかすんなよ…。それから!勝手におれの前から消えたりしないでくれ!」


あんないきなり、心臓に悪すぎてもう御免だ…


苦しまぎれに漏れる声を聞いて、
強く噛み締めている唇をぼくが解いてやりたいと思った。



だが、今のぼくにはこんな不安定で、すぐ壊れてしまいそうなユーリには、何もしてやる事はできない。

充血した唇を解かす事も、
興奮したその頬を宥める事も、
今にも溢れだしそうな潤みを持った真っ黒な美しい瞳に唇を寄せることも…




何一つ、


今のぼくには何一つしてはやれない…





思わず伸ばしてしまい引き戻しかけたぼくの手を、ユーリが慌てた様に両手で掴んだ。


下を向いたお前の顔が見えずとも、どんな表情をしているか位判る。

おまえを悲しませたい訳ではないのに………



「離してくれ」


引こうとしてもすがりつく様に握られた手は離れてはくれない。


「ユーリ、」
「嫌だ!!」
「…離すんだユーリ」
「っ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!なんで!なんでそんな事言うんだよ、なぁヴォル
フラム!」



どれだけ声を荒げようと、それはぼくにまで悲しみが広がるだけだ。


あぁ、ユーリ。
今すぐこの手を離してくれ…。
でないとぼくは…



「イヤだね!ヴォルフが城に、おれの傍に戻るって言うまでは絶対にはなしたりはしな、んン…//」





ぼくはまた、おまえに溺れるのを止められなくなってしまう……










見開かれていた瞳がゆっくりと閉じられて、ぎこちなくぼくに合わせてくれるユーリがどうしようもなく愛しい。



短くて長い時間のあと、ほんの少し離した唇からは荒い息遣いが漏れていた。

名残惜しさに阻まれて、ほんの一瞬だけもう一度ユーリに触れてから、体を離した。


同時に枷が緩くなった手も。



「ユーリ、おまえへのぼくの気持ちは変わらない。否、より一層の忠誠と愛を眞王陛下とこの剣と、そして何よりこの命に賭けて誓うと約束する」



胸に手を当ててユーリに本気である事を告げる。
これ位お手の物だ。
おまえの為になるなら何も惜しくはないのだから。







「待っていてほしい」




「いつ…まで?」
「ぼくがユーリにもう一度愛を告げるその日まで」
「今すぐには、だめなのか?」


戻って、こいよ。



首を縦に振れたらどれだけ楽だろうかと思った。もしくは左頬を差し出して、そのまま二人…そして娘と三人で嘗ての様に過ごせたら…



だがすまない、ユーリ…理解してくれ…


「そ……、か」
「必ず、戻る」


おまえを決して一人のままにはしないから…

「あの時の様に、ぼくを信じてくれ…」


あの時差し出したぼくの腕に掴みかかったユーリからの信頼。

これ以上おまえを悲しませる事はぼくにとっての更なる罪だから…

せめて言葉と気持ちだけでも先にユーリの傍に………


ユーリ、ぼくの為に流された美しい涙を決して忘れはしないぞ…




今は出来ない…
しかし必ず戻ってみせるから。
ぼくだけの太陽の日の下に…

















「ユーリ、約束する…ぼくは…」


離された温もりを一人さ迷うぼくの心を残したままで…
小さく呟いた声はまるで言霊の様に響き渡った。







『ユーリ、おまえを愛している』







この思いを直接伝えてみせるから…







だから、
それまで待っていてくれ……




end.

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