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□据え膳の完成を待って
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「私を貴方の眷属にして!」
「…断る」

これで何度目の懇願だろうか
まるで、その辺にある石ころを見るような目で私のことを見下ろした
でも私は諦めが悪いのだけが取り柄だから
一目惚れした貴方の一部になりたいって、本気でそう思ったから

「ならせめて貴方の食糧にして!」
「…断る」

同じ口調でバッサリ断られる

「どうしてダメなの?人間は、貴方にとっては貴重な養分じゃない。据え膳喰わずは〜って諺、知らない?」

「…その諺なら知っているが、それは食事のことではなく、性的な意味合いではなかったのか?」

「…う、うん、そうよ、そっちの意味でも言ってるの、どっちの意味も表せるなんて、この諺一石二鳥ね」

ほんとは食事の意味合いだと思っていたとは言えず、私は見栄を張った

はあと彼はため息をついて、私をまた見下ろした
今度は少し、呆れたように

「…自分を大事にしろ、男は好きな女でなくても構わない時もあるのだぞ」

「…わ、私はそれでも構わないわ!」

少しひるんだが、引っ込みがつかなくなって思わず口をついてしまった

「…そうか」

彼はそう言うと、私を抱き上げた

「…え?!」

いきなりのことに、私は焦る

「その言葉に偽りはないな」

真っ直ぐ、同じ目線の高さで目を合わせてそう問われた
怒っているのか、蔑んでいるのか、いずれにしてもいつもの険しい顔のまま
私の本気度を確かめているようだった

「…ドラマツルギーさんにしか、こんなこと、言わない…」

強く見つめられているのが恥ずかしくなった私は、目線を下げ、顔が赤くなっていくのを感じる

「…貴方の好きにして欲しい」

そして目をぎゅっとつぶって、頷いて、そう言った

彼はしばらくそのまま無言だったが、突然地面に降ろされた

「…え?」
戸惑う私に
「…震えている」
彼は少し目を細めて言った
「まだ"据え膳"には早いようだな」

え?笑っ…?
ボンッ
と自分の顔が音を立てた気がした。爆発したように、赤く、染まった、気がした

だって、彼の笑顔、初めてみた、から…

「む…顔が赤いぞ、病気か」
ええ、病気ですよ、でも、お医者さんには絶対治せない

無防備に私の顔を覗き込んでいた彼の頬に、勢いのまま、キスをした

「…?なんの真似だ」
「…すすすすすす据え膳は完成してるわ!」
吃りながら、なんとか言った。

彼はそう言った後しばらく固まってしまった私を見ていたが
頭に掌を置いて
「…そうか」
と言った

ああ、だめだなこんなんじゃ、色気が足りない…

そう落胆していた私に

「…そう遠くないうちに、いただくとしよう」

「…へ?」

空耳かと思った、それとも幻聴?

「あの…それって…」

「据え膳の覚悟はしておけ」


…!!
空耳でも、幻聴でもなく、夢でもなく

夢のような言葉を

「…はい…」

茹で上がったタコのような真っ赤な顔になってその場にへたり込む私を

彼は二度目の笑顔で気絶に追い込んだ

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