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□第二話 BEE面接審査
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昨晩、無事ビフレストを渡ったリリアは今、
BEE‐HIVE、通称ハチノスの館長室へと続く
長い廊下を副館長のアリア・リンクに
連れられて歩いていた。
「失礼します。館長、受験者のリリア・
アッシュフォードをお連れいたしました。」
アリアが館長のラルゴ・ロイドに簡単に
紹介を済ませると、
『リリア・アッシュフォードです。こっちは
ディンゴのリオン。よろしくお願いします!』
リリアもロイドに頭を下げた。
「よく来てくれたね、リリア。館長の
ラルゴ・ロイドです。今日は期待してるよ。」
ロイドは自身の自己紹介を終えると、アリアに
目配せをし、アリアが話始めた。
 
『17刻にマーブルブランケット
アパートメントに行けばいいんですね?』
話を一通り聞き終わると、リリアは
確認するようにアリアに尋ねた。
「そうです。あなたの他にも受験者があと3人
いるのですが、到着がまだなので詳しい
説明はそこで行います。
また後で会いましょう。」
アリアがそう話を切り上げると、ぺこりと
2人にお辞儀をしてリリアはハチノスを
後にした。
 
アリアが説明した審査の内容はいたって
単純だった。
審査協力してくれる姉妹の手紙をラズベリー
ヒルのおばあさんの家まで届けるのだ。
今回審査を受けるのはリリアの他に
色黒で体格のよい、マッケン・ジーという
青年とリリアよりも背の低い
アルビス種のラグ・シーイングという少年だ。
あともう1人いたのだが…精神的ショックが
大きく棄権とのことだった。
「精霊琥珀と心弾銃です。」
アリアが受験者に選ぶように指示をすると
青年は大型ライフルの様な銃を手に取り、
少年は自分のがあるからと選ぶのを断った。
リリアは一通り精霊琥珀を眺め、
故郷に咲く花の色によく似た桃色の
精霊琥珀をつかみ
『私はこれにします。銃は私も愛用して
いるものがあるので遠慮させて頂きます。』
そうアリアに告げた。
自前の銃についていた翡翠色の琥珀と
今手に取った桃色の琥珀を取り換える。
その様子を見ていたラルゴが
「いい銃ときれいな琥珀だ。ずっと君を
守ってきたんだね。」
そうリリアに聞こえるのがやっとの声で
囁くと、少し寂しげにリリアは笑顔を見せた。
 
「俺は馬車を使う。お前らは?」
表にでた私たちにマッケン・ジーが
話しかけてきた。
ラグ・シーイングはお金がないので
歩くといい、私もそれに倣った。
マッケン・ジーは私たちの返答を聞くと、
笑いながら去って行った。
『あの人、鎧虫退治したことあるのかなぁ?
大丈夫かな?』
独り言のつもりで呟いた言葉にラグ・
シーイングが
「キミは退治したことあるの?」
興味深そうにくいついてきた。
目的地は一緒なので、歩く道も同じ。
私は道すがら自分の家が掃除屋を営んで
いたため鎧虫退治は慣れていること、
ヨダカの田舎から自分もでてきたことを説明した。
『ラグは何でBEEになろうと思ったの?』
自分の話に区切りがついたので、
今度はラグの番、そう思い話を振れば
5年前に自分が手紙として届けられたこと、
その時に届けてくれた“ゴーシュ・スエード”
というBEEに憧れていることを話してくれた。
きっとラグなら大丈夫だよ、そう言おうと
すれば
「うわぁぁぁぁ!!」
私たちが向かっている先から悲鳴が
聞こえてきた。
『きっと先にいったマッケン・ジーさんが
襲われているんだ!ラグ急ごう!!』
そうラグに伝え、私たちは走り出した。
 
「町長さん…かぁちゃーん!!」
現場に到着すると情けなく叫んでいる
マッケン・ジーが2匹の鎧虫に今にも
襲われそうだ。
『心弾装填…桃花!』
私と、隣で同じ行動をとっていたラグの心弾が
それぞれ鎧虫に命中する。
もっと近づかないと…リオンに跨り
走り出すよりも先に
「すいませーん!!どいてくださーい!!」
ラグはディンゴのニッチに連れられ派手な
登場をきめていた。
私とリオンも後に続きもう少し軽やかに
着地を決めれば、横で審査員だろうか…
BEEの少年が目の前の光景に驚いている。
その間にもニッチは鎧虫へと突っ込んでいた。
『鎧虫グレン・キース…しかも2匹。
ラグそっちはお願いできる!?』
ラグに近場の1匹を任せ、少し離れた
もう1匹に狙いを定めた。
『リオン、下から鎧虫を右に注意を
ひきつけて!』
そうリオンに指示を出すと、
勢いよく崖を下り、果敢にも鎧虫の前に
飛び出すリオン。
指示通りの動きで鎧虫の注意が下にそれ、
その間に崖の上を走り、反対側へと
リリアは回り込む。
『グレン・キースのスキマは頭…。
ここからなら狙える!心弾装填、咲き誇れ、
桃花!!』
リリアが心弾を打ち込むと鎧虫は
目の前でバラバラと崩れていった。
ふぅっと大きく息を吐き出すと、隣では
ラグがニッチに投げられ同じように心弾を
撃ち込む様子が目に見えた。
 
「手紙泥だらけになっちゃったよぉ…。」
『大丈夫だって!中まで染みている
わけじゃないし、ちゃんとわかって
くれるって!』
鎧虫を倒した後、泥だらけの手紙を見て
落ち込むラグを元気づけながら
配達したのだが…
「どーいうことだい!?大事な手紙を
泥だらけにして!!」
私たちの目の前にはカンカンに怒った
モリス夫人が立っていた。
必死に謝るラグに対してモリス夫人は
先に到着したマッケン・ジーさんは…と
言っている。
マッケン・ジー…あの青年は鎧虫に怯え
座り込んでいたはずだが…。
そう思っていたリリアの目の前に
風呂上りだろうか、体から湯気をたたせた
マッケン・ジーが登場した。
わけがわからない…ラグも同じような表情で
その場に立っていたら
「まあまぁモリスさん。こちらがお礼のリンと
切手セットです。」
後ろから声が聞こえてきて振り向くと、
先ほどの審査員らしき少年はモリス夫人に
お礼を手渡し、反対にマッケン・ジーが届けた
汚れ一つない手紙を受け取った。
BEEの少年は手紙を受け取るとくるっと
私たちの方をむき直し、
「さぁてと、俺今回のBEE審査員でザジって
言うんだ。」
そう簡単に自己紹介をすると先ほどの手紙を
ラグに差し出し心弾銃で撃ってみろと促す。
言われるがままにラグが手紙を撃つと、
手紙から「こころ」が映し出された。
そこには姉妹の書いた泥だらけの手紙を
あざ笑い、きれいな手紙セットに書き写す、
マッケン・ジーの姿が映し出されていた。
手紙の「こころ」を見せられ必死に釈明する
マッケン・ジーに銃を突きつけ、
「はい、審査終了。心を鍛えて
でなおしてきな!」ザジが言い放った。
 
「てか、おまえらやるなぁ!」
審査を終え、私はラグと審査員のザジと
帰路を共にしていた。
ザジの話でいくと、ザジで一週間、
ジギー・ペッパーという人でも
グレン・キースをひっこませるのに2日
かかったとのことだった。
「記録保持者のゴーシュ・スエードも
もうBEEじゃないし実質おまえらがトップ。」
あれ…今ゴーシュ・スエードって言った?
ゴーシュ・スエードって確か…。
そう思いながらゆっくりとラグの方を
振り返ると
「え、ゴーシュがもうBEEじゃない…?」
今聞いた話が信じられないという表情だ。
ラグがザジに詰め寄りザジが面倒臭そうに
ゴーシュについて事実と皮肉を織り交ぜて
説明する。
『ちょっとザジ…言い過ぎなんじゃ…』
ラグの手がわなわなと震えこれ以上はまずい、
ザジを制止しようとした瞬間、
ラグがザジに掴みかかった。
理由を知らないザジはラグの突然の行動に
苛つき、離せという命令を聞き入れないラグを
突き飛ばし、ラグはその場で泣き崩れた―。
 
ザジの同僚、コナー・クルフが迎えに
来てくれた馬車の中、重苦しい空気が
漂っていた。
「ついたよ、ラグ。」
コナーの合図で馬車が止まった。
私たちを乗せた馬車が向かったのはゴーシュ・スエードの妹、シルベット・
スエードの住む家の近くだった。
シルベットの家の場所をコナーが説明し
終えると、ラグは無言で立ち去った。
「返事もしやがらねぇ。なにあいつ。」
ラグの態度に怒りを表すザジ。
理由を知らない人なら当然抱く感情だ、
けれど理由を知ってしまったら―。
1人理由を知らないザジにコナーがラグの
憧れがゴーシュで、ラグはゴーシュを目標に
BEEになったことを説明し、自分は
どうしても言い出せなかったと俯き
涙を流した。
話を聞き終えるとザジはコナーに急に
弁当の余りを投げつけ、
馬車を降り先に帰館するという。
あとで一緒に帰ろうというコナーに
顔を隠しながら、
「なんか…ちょっと悪かったって
言っといて。」
そう言い残すとディンゴのヴァシュカと一緒に
歩き始めた。
 
『わ、わたしも先に行くね!』
何となくザジが気になりコナーに別れを
告げるとザジの後を追う。
『ザジ…待って!!』
「お前、なんでついてきてんだよ!?」
私も審査終了報告が、などと適当な
理由をいい、ザジと肩を並べる。
数分の沈黙のあと、先に話始めたのは
ザジだった。
「お前、ラグのことしってたのか?」
ザジに問われ、審査途中に聞いていたから、
と返答をした。
「あいつに悪いことしちまったな…。」
『ザジは知らなかったんでしょ!?
それなら仕方ないよ。誰も悪くない。』
自分を責めるザジに言葉をかける。
「お前って意外と気ぃ遣えるんだな。
グレン・キースと戦ってる時のおてんば娘と
全然違うぜ。」
先ほどよりも少しおどけた様子で
話しかけてくるザジに怒った素振りを
見せながら二人揃って歩みを進めた。
 
ラルゴに審査終了報告を終え、結果が出るまで
どこで待とうか思案していた時、
ポンと少し大きめの手が頭を優しく叩いた。
「さっきはサンキューな。もう大丈夫だ。
審査受かってるといいな。」
そうザジは言い残し、まだ事務処理が
あるからとハチノスの奥へと消えていった。
 
 
第二話
 BEE面接審査
 
「あ、あとお前リオン乗って飛び降りる時
パンツ丸見えだったぞ。」
『…えっち!!』
 

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