小説

□内緒のポッキーゲーム
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「1番と3番かぁ……えっと、じゃあ、3番が1番を肩車して部屋を一周する!」
「ゲッ! 3番ってオレっすか?」
「ハハハ! 頑張れよ!」

賑やかな笑い声がこだまする、とある街の居酒屋。
その日はガジル率いる評議院の強行検束部隊によって大部屋が貸し切られ、飲み会が行われていた。
先日大きな案件が片付いたので、そのお疲れさま会というわけだ。

宴もたけなわとなり、先ほどから酔っぱらった隊員たち数人が王様ゲームを始めて盛り上がっている。
レビィはデザートのプリンを食べながらそれを何となしに眺め、ガジルは隣でガジガジと鉄を貪り、リリーは一人冷酒を傾けていた。

「隊長! 隊長も参加してくださいよ、王様ゲーム」
「あァ? 誰がするか、んなもん。嫌な記憶があるんだよ」
「1回、1回だけでいいですから!」
「……ったく」
「レビィさんもぜひ!」
「えぇ? 私も? しょうがないなぁ……」

変な命令は無しだからね、と念を押してからガジルの次にくじを引いたレビィだが、王様を引いた隊員の命令にぎょっとした。

「命令! 1番は、2番とポッキーゲームをする!」
「えっ!?」

レビィの手には1番のくじがある。
隣で固まったガジルの手元を見てみれば、2番のくじがあった。

「ポッキーゲーム……」

頬を染めたレビィの前に、酒のおつまみとして出されていたポッキーが差し出された。

「はい、レビィさん! 王様の命令は絶対ですよ?」
「……うう」

隊員たちが楽しそうに見守る手前、恥ずかしいから嫌だとも言えず、レビィは仕方なくポッキーを手に取って口にくわえた。
早く終わらせたいとばかりにガジルを見上げたものの、ガジルはレビィの行動に不思議そうな表情を浮かべる。

「ポッキーゲームって、何だそりゃ?」
「えっと、それはですね。二人が向かい合ってポッキーをくわえて、両方から食べていくんです。で、先に口を離した方が負けってわけです」
「……ハッ。くだらねえ」

フンとばかりに鼻を鳴らしたガジルは、レビィがくわえたポッキーをバリボリと食べ進み、唇に到達する直前でパッと離れたのだった。
真っ赤になったレビィの口元には、1cmほど残ったポッキーの残りが残された。

「これでいいか? オレの負けだよな?」
「……あああ……」

何かを期待していたらしい隊員たちの表情が一斉に落胆に曇る。
レビィは火照った頬を手のひらで押さえながら、ポッキーの残りを平らげたのだった。

「ったく。何を狙ってたんだか知らねえが、もういいだろ。そろそろ終わりにするぞ。解散! 寝ろ!」
「ええーー」

ぶーぶー文句を言う隊員たちをさっさと外に追い出し、ガジルは手早く会計を済ませた。
リリーは先に宿屋に向かったらしく、姿は見えない。
居酒屋の数十メートル先にある宿屋に帰ろうとガジルが外に出ると、街灯にもたれてレビィが待っていた。評議員のコートの裾を軽やかに翻し、柔らかな笑顔で駆け寄ってくる。

「ガジル、お疲れさま!」
「……オウ」
「最後、びっくりしちゃったね」

並んでゆっくりと歩き始める。
時刻は既に深夜近く、しんと静まり返った道に二人の足音が響いた。

「てかあいつら、狙ってやってただろ。オレとおまえの番号、わかってやってやがった」
「そうだね。魔法か、それとも何か細工でもしてたのかな。全然気づかなかったよ」

隊員たちの期待に満ち満ちた表情を思い出して、レビィは照れ笑いをした。

「ねぇ。みんな、私たちにキスさせて、くっつけようとしてたよね?」
「……くだらねえ」
「なんかちょっと申し訳ない気持ち。……私たち、ほんとはもう付き合ってるのに」

みんなの応援したい気持ちはありがたいんだけど、と呟くレビィの腕を掴んで、ガジルは薄暗い路地にレビィを引っ張り込んだ。
細い体を壁に押しつけて閉じ込めて、ブラウンの瞳を覗き込む。

「だから、あいつらにはちゃんと言えって前から言ってんだろうが?」
「駄目だよ。それじゃ、上に立つ者としてけじめがつかないもの」
「……チッ」

まっすぐな強いまなざしに諭されてガジルは舌打ちする。
だが、すぐに気を取り直してレビィに顔を近づけた。

「じゃ、これも駄目か?」

屈み込んで小さな唇を奪う。
レビィは夜目にもわかるほどに赤く頬を染めて、潤んだ瞳でガジルを見上げてきた。

「何よ、いきなり……」
「さっきはできなかったからな。嫌か?」
「……いいよ」

しなやかな腕がガジルの背中に回り、ぎゅっと抱き締められる。
レビィはガジルと視線を絡めて、悪戯っぽく微笑んだ。

「みんなには内緒、ね」




《終》



2018/11/12



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