小説
□予感
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見覚えのある赤い眼鏡が置いてあることに、最初に気づいたのはガジルだった。
ギルドの酒場、壁際のテーブル。
その隅っこにぽつんと置かれた赤い眼鏡は、確か。
「あいつの、忘れもんか?」
ガジルの怪訝そうな呟きに、隣でキウィジュースを飲んでいたリリーはその視線をたどり、あぁ、と声を上げた。
確かにあのテーブルは彼女がいつも座っている席だ。そのことをガジルが把握しているとは思ってもいなかったが。
「レビィなら、つい先ほど出ていったようだぞ」
「……チッ」
ガジルは小さく舌打ちをしながら腰を上げた。
テーブルに歩み寄り、その赤い眼鏡を手に取ると足早に出口に向かって歩き出す。どうやら忘れ物を届けてやるつもりらしい。
粗暴で孤独を好む男かと思いきや、意外や意外。そんな親切なところもあるのだ。
リリーは興味を覚え、ガジルの後ろからこっそりとことことついていくことにした。
ギルドを出て辺りを見回すとレビィはすぐに見つかった。
オレンジ色のワンピース、ふわふわした空色の髪。
赤いショルダーバッグを斜め掛けにして、大通りの端を急ぎ足で歩いている。
「おい、チビ」
あっという間に追いついてガジルが後ろから声をかけると、レビィはびくっと軽く飛び上がってから慌てたように振り返った。
よほど驚いたのだろう、ぱっちりしたブラウンの瞳が大きく見開かれている。
「わ、私のこと?」
「他に誰がいんだよ」
「……私、チビじゃないもん」
「小せぇのをチビって言って何が悪ィんだよ?」
「何よ、いじめっこー!」
「んじゃ、……レビィ」
名前を呼ぶ前に一瞬奇妙な間があった。言葉にするのをためらったかのような。
それに気付いたかどうかはわからないが、いきなり名前を呼ばれたせいか、レビィは真っ赤になって口をぱくぱくさせている。
なかなか珍しい光景かもしれない。
「フン。満足したかよ」
「……別に、そんなんじゃないけど……で、何なの? どうかしたの?」
「これ、おまえの忘れもんじゃねぇのか」
ガジルの大きな手のひらに載せられて差し出されたのは、華奢な赤い眼鏡。