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私が天才と初めて出会ったのは13歳、中学一年生のときである。

当時13歳の私は中学校に通いながらも日々忍田さん相手に孤月を振るっていた。
幼い頃からの師匠であった彼にも10本中2本はとれるようになり、唯一無二の親友である桐絵には勝ち越し、悔しがる桐絵をからかって遊んでいたりした。
そんな中ついに”彼ら”はやってきた。
後に第一次近界民侵攻と呼ばれる初の近界民との戦いである。
その戦いは決して勝利とは言えなかったが、私たちがもたらした結果は大きく、ボーダーは一躍英雄となった。
そして現ボーダーが設立し、志願兵は着実に増えていった。目まぐるしく変わるボーダーに初めは戸惑うばかりであったが次第に慣れ新しくできた仲間を嬉しく思っていた。

そんな中あの男は現れた。
すっかり幹部となり、私との相手も前に比べ少なくなってしまった忍田さんが連れてきたのは猫背でヨレヨレの学ランを着た、もじゃもじゃ頭の長身の男だった。
「えー…っと、どうも、新入りの太刀川慶です…。よろしくおねが…って、ちっちゃ!!え、何忍田さん、このガキが俺の先輩なの?」
「ああ、そうだ。何が問題があるか?」
堂々と言い切る忍田さんを前に、私はぽかんと口を開けたままだった。
その中でもサイドエフェクトのおかげで脳内では思考が巡る。

まず、第一印象はだらしのない人だった。
私の中での大人の男の人というのは(当時13歳だった私にとって高校生でも180近くある男は大人に見えたのだ)忍田さんや城戸さんのような、身だしなみをキチッとしてハキハキと喋る仕事のできる人だった。もちろんそれは彼らの一面に過ぎず、一緒に笑ったり、戦いに熱くなったりすることだってあるがそれとは話が別だ。
だから身だしなみがだらしなく、初対面でガキ呼ばわりした男を私が良く思わなかったのは自然の流れだった。
だが最も気に入らなかったのはその目だ。一見やる気の無さそうな死んだ魚の目をしていたと思ったら、突然私を探るような目つきになり、すぐ落胆したような、私を蔑むような目付きに変わったのだ。
気に入らない人が嫌いな人に変わった。

「忍田さん、この人何ですか」
出会って10秒で嫌いな人認定をした男に直接話す気はないので、感づいてはいるがあえて忍田さんに尋ねる。
「紹介が遅れてしまってすまない。こいつは私が新しくとった弟子だよ。お前の後輩にあたる。まだボーダーに入隊してから2週間経ってないし、全然指導も充分じゃないんだ。どうだ、一度こいつを指導してやってくれないか」
どうやら最近忍田さんが稽古をつけてくれなかったのはこの男のせいらしい。私が素直に頷けるわけがなかった。

「…私は忍田さんと稽古がしたいです」
拗ねた顔を隠すよう下を向いた。あぁいやだ、わがままなんて本当は言いたくないのに。
「律」
顔を見なくても分かる。忍田さんは困ったような笑顔のまま私を見つめている。
怒られたことは数あれど、忍田さんは私に何かを強要したことなどない。今も忍田さんと自分の稽古の時間を目の前のいけ好かない男に奪われたことが分かり拗ねているのだと分かった上で宥めようとしているのだろう。
意地を張って何も喋らない私に忍田さんが何かを言いかけたとき、空気を読んでかもじゃ頭がため息を吐いた。
「あー…忍田さん、俺今日は疲れちゃったんで、いいです。この子俺のこと嫌いらしいし。この子に稽古つけてあげたらいいんじゃないですか」
よく言う、そっちこそはじめからやる気なんてなかったくせに。
「そもそもこんな細っちくて小さい弱そうな子、俺相手にしたくないですし」
そして一度チラッと私を見て、
「それにしてもガッカリだな。忍田さんの一番弟子って聞いたからどんなすごい奴かと思ったら。ただの甘えたれのガキか」
ーーザッ
「おいっ、律!!」
私は孤月を抜き距離を一気に詰め、もじゃ頭の喉元に孤月を突きつけていた。
「…図星か?」
その一瞬の出来事に臆することなく挑発を続けるとは初心者にしては中々度胸がある。

「そうだよ?甘えたれだよ?だけど、忍田さんに甘えることができなかったら、私は誰に甘えればいいの?お父さん?お母さん?いないよそんなの。お父さんはとっくに死んだし、お母さんはどこにいるかも知らないよ。兄弟?いるのかもしれないけど私はあったことないね」
言いたくもない本音がザラザラと溢れる。正直自分に自分で驚いた。太刀川は先程までの挑戦的な目付きに変わり少し傷ついたような顔をした。だが私は止められない。
「そんな中でずっと一人暮らしして、こんな体のせいで小学校なんて行けなくて毎日会えるのは忍田さんと友達の桐絵だけ。忍田さんは私の親のようなものだよ。親が何日も知らない奴に取られてなんで拗ねちゃいけないの。普通怒るよね?だって私忍田さん大好きだもん」
「律、もういい」
太刀川に詰め寄る私を引っぺがし、忍田さんは私を優しく抱きしめる。自暴自棄になっている私を止めようとしたんだろう。私は忍田さんを傷つけてしまったんだろうか。
「ごめんね忍田さん。孤月もこんな脅しみたいな使い方してごめんなさい。だけどもうちょっとだけ」
忍田さんから離れゆっくりと顔を上げ太刀川を見据える。先程までの挑発的な表情はどこへやら。完全に気圧されている。
「それにあんたがなんて思おうと、私は忍田さんの一番弟子だよ。さらに言わせてもらうなら私はあんたが忍田さんの2番弟子が務まるとは思えないの。あんたが忍田さんと私の稽古時間を奪ってまで指導する価値があるとは思えない。だからさ

模擬戦しよう?」

「ーいいね。それを待ってた。全力で来いよ」
太刀川の目に光が戻った。
「全力で、か。分かった。忍田さん、いいよね?」
「お前そっちを使う気か?無理だけはするなよ」
苦い顔をする忍田さん。このトリガーを使うときはいつもこんな顔をする。
「もちろん。1対1でしか戦わないよ。だから心配しないで」
そう言いながら私は訓練用トリガーを解除し忍田さんに渡し、

ーー父の黒トリガーを取り出した。

「トリガーオン」
体が光に包まれる。
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