IDOLiSH7

□君さえいれば
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『楽さん! あの、今日社長から明日行われるRe:valeのチケットを頂いて…も、もし時間に都合がついて楽さんさえよろしければぜひ…行きませんか?』

紡の方から電話なんて初めてだった。
付き合って1ヵ月。
俺は収録や取材、ライブで落ち着かず、彼女も売れ始めたIDOLiSH7の営業で駆け回っていた。
それが明日奇跡的に休みだとチャットで送った直後電話がなったのだ。

彼女を好きになって1年。
IDOLiSH7というアイドルグループに出会って1年。
IDOLiSH7とTRIGGERの間には色々な事が起きた。
同じ事務所ではないのにこんなに絡みが増えるなんて思ってもいなかったし、こけら落としでも一緒に共演するとも夢にも思っていなかった。

IDOLiSH7はTRIGGERにとって初めてできた後輩的な存在だ。
みんないいやつらだし、たくさんの壁を超えてきた。
でもそいつらが口々に言うのはマネージャーのおかげ、だという。
うちのマネージャーもなかなか敏腕だと俺は思っている。
どんな仕事も初めは受けていたがだんだんとTRIGGERというファンや世の中が感じるキャラを作っていってくれたのもうちのマネージャーだし、常に俺達のことを考えてくれている人はこの人だろうと言えるほど。

だけど、IDOLiSH7のマネージャーはなぜか俺も惹かれた。
いつも彼らと走っているように見えた。
壁にぶち当たると一緒に落ち込むが誰よりも先に道標に気が付き彼らに光を当てていた気がする。

気がつくとスタジオやライブ会場、たまに頼まれる蕎麦の配達でも彼女を探し見つけると目で追っていた。

「楽…それって恋じゃないか?」

龍のこの一言で俺は自分の気持ちに気がついた。
世の中の俺のイメージは「抱かれたい男 No.1」だ。
だけどそれはあくまでも世間のTRIGGERの八乙女楽としてのイメージだ。
たしかにみんなが言う恥ずかしい台詞を俺は気がつくと言っているようだが、それで世の中の女がみんな抱かれたいと思うわけはないと俺は思う。

彼女と話す時はそんな言葉さえ出てこない。
言葉を交わすこと、目を合わすことに必死だった。
滅多に会えるわけではない。
同じ空間にいるこの時間を大切にしたかった。

そんな俺の行動を見て龍はさっきの言葉をかけてくれた。

これが…恋?
こんなに不安定でこんなにも歯がゆくて一喜一憂してそれでも会いたくて触れたくて…。
こんなにも苦しいものなのか、恋は。
俺は初めて恋をした。

そんな思いにぐるぐると悩んでいると天は、はぁ…とため息をついた。

「彼女、絶対気がついてないよ。好きならちゃんと気持ち伝えてみたら」

天の双子の弟でありIDOLiSH7のセンターでもある陸にも協力してもらい、いろんな場面で2人きりにしてもらうチャンスをもらった。

モニタリングと称して映画デート、水族館デート、レストランデート…。
その都度彼女、紡の色んな表情が見れた。
嬉しい顔、照れた顔、寂しい顔…泣いた顔。
どれもすべてが愛おしくてすべて守りたかった。
そしてようやく想いを伝えた。

「ずっと俺の隣で笑っていてほしい。隣でそっと支えてほしい。紡の事が好きだ」

誰の協力も得ずに誘えた初めてのデートでそう伝えた。
彼女は驚きのあまり固まって大きな目をぱちくりして俺を見つめていた。

「事務所が違くても俺はいいと思ってる。IDOLiSH7とTRIGGERがこれからも一緒に競っていけるいいライバルでいられたらいいとーー」
「よろしくお願いします」

紡が不安になりそうな要点を慌てて伝えようとしていたその言葉を遮り目にいっぱい涙を溜めて彼女は微笑んでいた。
へへっと微笑むと彼女の目からぽろりぽろりと涙がこぼれた。

「あ、あれ…やだ、あたし。なんで泣いてるんでしょう。あ、楽さん誤解しないでくださいね! 嬉しいんです!幸せなんです!だからだから…んっ!」

一生懸命溢れる涙を吹きながら弁解してくる彼女を力強く引き寄せ唇を奪った。最初は固まっていたが徐々に力を抜き細い腕で俺をぎゅっと抱きしめ返してくれた。

そこから1ヶ月。
チャットや仕事の合間や寝る前の電話でしか個人的な会話はできず、現場であっても俺は演者で彼女はマネージャーであるわけでゆっくり話すこともできるわけもなく。
それからのこのライブのお誘いは夢のようだ。

「ライブか。しかもRe:valeのって最高だな!行こうぜ!」

『ほ、本当ですか! 最近楽さんとゆっくりお会いすることできなくて…ライブなら仕事って理由にして会えるかと…へへ…不純ですね』

俺の彼女はまじ天使か…。

「…紡」

『はい?』

「会いたい」

『…』

困らせたか…?
お互い社会人でましてや芸能界では暗黙の了解であるアイドルとマネージャーの熱愛。
これを漏らさないように周りにも黙っている彼女にこれ以上迷惑はかけたくなかった。
ごめん。ーそう言おうとした時。

『ご迷惑だとは思ったんですが…今楽さんのお家に向かって…ます』

「は?! 今何時だと思って…! 迎えいく!安全な…コンビニにでも入ってろ!」

現在深夜2時。
数秒前の不安など吹き飛び彼女の今いる場所を聞くとすぐ様車に飛び乗った。
都内といえど駅や繁華街から離れればかなり人も減る。

「どこだ…あ、いた!」

コンビニにいると言われたため店内を覗くと真剣に雑誌に目をやる彼女の姿が見えた。
ほっ…と一安心し、中へ入る。

「紡…!!お前何やって…?!」

こんな時間に女1人で歩くなんて危ないと怒ろうとしたがその気持ちはなくなってしまった。
…TRIGGERの俺の雑誌を手にへへっと笑う彼女がいたから。

「雑誌の中の楽さんも目の前にいる楽さんも私は見れちゃうんだなーと思ったら幸せで」

そんな呑気なことを言う彼女には一生かけても勝てる気がしない。

「…心臓もたないかも」

ヘナヘナと彼女の肩に頭をのせると大丈夫ですか?!と心配そうに慌てている。
帰りの運転もずっと心臓大丈夫ですか?!過労ですか?!と言う彼女にはははっなんでもねーよ、と笑うしかなかった。

家につきようやくソファでくつろげる時間になり風呂上りの彼女が髪の毛を乾かしながら出てきた。
…これはなかなかやばい。
お風呂広くてのんびりしちゃいました、と話しながら隣に腰掛けてくるとシャンプーの匂いがほんのりしてくる。
…同じ匂い。

「まだ濡れてるぞ。拭いてやる…こっちこい」

まだ水気を含む髪をくしゃくしゃと乾かしている彼女のタオルを受け取り俺の膝に座らせれば優しく吹き始める。

「人に拭いてもらうのって久々です…なんだか、恥ずかしいですが気持ちいいですねー」

なんて呑気なことを言いながら頭をこちらに任せている。
いつしかこんな日が当たり前になる時がくるのだろうか。
アイドルとマネージャーという立ちはだかる壁が多そうなこの恋に彼女は付き合ってくれるのだろうか。
そんなことを考えていたら体は勝手に彼女の華奢な体を後ろから強く抱きしめていた。

「楽さん…?」

「紡…会いに来てくれてありがとな。本当に愛してる」

「っ…あ、あたしも愛してます…」


耳まで真っ赤にする彼女とふふっと優しく微笑みながらもう一度抱きしめあい、一緒に優しい夜を過ごした。

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