IDOLiSH7
□幸せな日
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真っ青な空の中に大きな白い雲がぷっかりと浮くうだるような暑さを感じる真夏の昼。
俺はそんな暑さを気にも止めず鼻歌まじりに浮き足立った気持ちで車のエンジンをかけた。
「遅い。5分前行動は基本でしょ」
待ち合わせの駅に向かうと帽子とサングラスで変装したそいつは腕を組んでふてくされて待っていた。
「悪い。今日こそ俺が先に着く予定だったんだけどな、天」
そう、俺の恋人である九条天がそこに立っていた。
「こっちはわざわざ貴重な休みをこの暑い中外に出てるんだけど?…楽が今日は楽しいとこ連れて行ってくれるっていうから」
焼けちゃうんだけど、などと小言を言いながらスタスタと車に向かって歩き始めた天を本音漏れてるとフッと笑いながら追いかける。
「ああ、今日は楽しい1日にするぜ。世界で1番幸せなやつにしてやるよ、天」
−1日買い物したり、予約していた夜景の綺麗なレストランへ行ったりと久々のデートを楽しんだ。
レストランを後にして車へ向かう。
…ここからが本番だ。
あのレストラン美味しかったし夜景が綺麗だったと話すいつもより楽しそうな天と話しながら車へ向かう。
車までたどり着きドアを開ける。
「…え?」
天の驚く想像通りの表情。
「…なにこれ?」
助手席には100本のバラの花束とリボンがくくりつけられている小さな箱。
それを見て天は目を大きく見開いて今の状況を必死に整理している。
「1年記念日、おめでとうだろ?今日。天、愛してるぜ」
普段はクールであまり表情も言葉の温度も変わらない天のこの実は嬉しいっていう時の顔が見たかった。
そう、今日は1年記念日。
事務所にも同じグループの龍にでさえ内緒にしているこの付き合いも今日で1年を迎えた。
「抱かれたい男 No.1」
そんな事を書かれたイメージというか元々人が恥ずかしくて言えないような台詞を俺は言えてしまう。
大胆で強引。
今まで出会ってきた女には言えていた。 思ったことを素直に。
でも…天だけには言えなかった。
天にだけは恥ずかしくて真面目には言えたことがなかった。
付き合う時も必死に言葉を並べたはいいがだからどう解決していいのか分からずにいたがために、天に付き合うの?付き合わないの?と聞かれてから始まった。
「…こんなこと…こんなこと聞いてない。」
必死に考えていた天が零した言葉。
「言うわけないだろ。ていうかもっと出てくる言葉あんだろ」
「…とりあえず車乗ってもいいかな」
表情が固まったままの天はそう言って助手席の花束と箱を抱き抱えるようにして今度は自分が助手席に座った。
閉めるぞ、と言ってドアを閉めてからいろいろ考えてしまった。
…忘れられてた?
そんな考えが頭によぎるもとりあえず自分も運転席側へ座る。
「…」
乗ったところで天は何も発することなく花束と箱を見つめている。
…沈黙の車内。
やっぱまだ早かったか?
嬉しくなかったか…?
天にこんな事よく出来るね、と言われる事を想像していた俺はあまりにも予想外過ぎてどうしていいのかわからなくなった。
「天…?」
「…こういう時なんて気持ちを伝えるべきか困ってるんだけど…楽…ありがとう。僕は幸せ者だと今すごく思ってる」
顔を赤らめながら今まで見た事のないような笑顔を向けられて俺は唖然としてしまった。
「…プレゼント開けてもいいよね」
目を逸らし、顔を赤らめながらお礼をいいながらプレゼントを指さしていた。
「え?…あ、ああ。プレゼント気に入ってくれたら嬉しい。」
いつもの天らしくない言動に驚きながらも頷くと、天がプレゼントにかけられているリボンを丁寧にほどいていく。
「これって…!」
中に入っているのは2つの指輪。
指輪にはGとTのイニシャルが彫られているシンプルなデザイン。
お互いがつけていてもペアとバレないようにデザインは少し違う仕様になっている。
「ずっと一緒にいような、っていう証だ」
そう笑いかけながらプロポーズ紛いなセリフをいいながら天の顔を覗こうとした瞬間ー
フワリと天の匂いが鼻先をくすぐった。
唇には柔らかい感触。
初めて天からの口付けだった。
「これは今の僕の全力の返事」
ちゅっ…と小さな音を立てて唇が離れれば耳まで真っ赤にした天がいた。
「…っこの」
ふふっと笑う愛しい恋人を俺は強く強く抱きしめた。