短編

□ただの相談役だったはず
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「ぺーたん!」



立ち上がり可愛い笑顔で手のひらをヒラヒラこちらに向けているこの子はあかねん

私とはすごく仲良くしてもらってる

「ごめんね、急に」

「ううん。大丈夫」

あかねんが先に来て注文しててくれてたからか、席についたらすぐに飲み物が出てきた

クルクルとカフェオレのストローを回す
あかねんの顔に思わず見とれてしまう


「...フフッなに?」

「ふふふっ。なんかあかねん可愛くなったね」


あかねんはほんとに可愛くなった

理由は私が一番わかる


だってあかねんにずっと恋の相談を受けてたのは私だから。


「それでね、今日愛佳がなんかいつもより可愛いって言ってくれたの!」


そう。
あかねんは愛佳に恋してる

私は愛佳とよく一緒に居たから
あかねんは私に相談を持ちかけたんだ

「嬉しそうだね?」

「超嬉しい!!」

「それでね、この前も.....」

恋をすると、女の子は可愛くなる

それは私も一緒なんだと思う。


「ベーリ!写真撮ろうよ!」

「えっ...うん、いいけど」


「ねぇベリ今度映画行かない?
めっちゃ気になる映画あってさぁ」

「...うん」


「りーさーちゃん!あーそぼ!」



なんでだろう

モヤモヤする

愛佳が笑って話しかけてくれる度に
ドキドキして嬉しいのに

愛佳が他の子に話しかけたり近くにいるだけで胸が苦しくなる

そんなある時メンバーが男装をするという企画があった

みんなかっこよくてすごい男の子みたい

その中でも一番歓声が大きかったのは愛佳だ

金髪でいかにもチャラそう、そんな感じ

隣にいたあかねんはずっとWカッコイイWそう呟いてた

確かにカッコイイ

愛佳は元から美形でかっこいいからね。

私もカッコイイしか出てこなかった

あかねんはすごい愛佳が好きなんだろうなぁ

目がすごかった。

キスしてしまいそうな距離だったし。

愛佳も満更でもない顔して、
きっと愛佳はあかねんが好きなんだ

よかったね、あかねん。


両想いだよ


私には入る隙間なんて到底ない

だから私はずっとダニーを選び続けた

ダニーは優しい
すごく好き

収録が終わってみんなが男装しているメンバーたちに群がる

もちろんあかねんは目をハートにさせながら
愛佳のとこにいる

私は愛佳の元へは行かずに
ダニーに声を掛けた


「ダニ〜。かっこよかったよ」

「ぺー!ずっと選び続けてくれてありがとう」

「ダニ〜は優しいそうだし、なんでもしてくれそうだったから」

「リカお嬢様の為なら何なりと致しますよ?」

「フフッ....なにそれ〜」

「リカお嬢様の執事、
織田セバスチャンでございます」

「じゃあ幸せにしてね?」

「かしこまりました、お嬢様。
一生、世界一幸せなお嬢様に致します。必ず」

「なりきりすぎだよ〜。笑」


コントみたいなやり取りをして、
私は1人で楽屋に戻った


楽屋にはみんなの荷物やケータリングの残り

飲みかけのジュースがあった

そういえば喉が乾いたなぁ、
外の空気も吸いに行きたいし。


楽屋を出て自動販売機のある屋上まできた


ガコンっと無機質な音と共に
暖かい缶が出てきた

やっぱり衣装のまま外に出たら寒い

缶を両手で挟んで暖を取りながら
目を瞑って鼻から息を吸った

冷たい空気が鼻から身体にスッと入る


私はこの匂いがW好きW

そういえば、ダニーの好きもこのW好きW

パンがW好きW

猫がW好きW


全部、このW好きW。


じゃあ、愛佳は?
愛佳へのW好きWはこの好き?

.....違う気がする。

じゃあどんなW好きWなんだろう?


キィ.....

「すいません、すぐ戻りま...っ..愛佳」

スタッフさんが呼びに来たのかと思って
すぐ振り返ったら、そこには愛佳がいた

男装をしたままの、愛佳。

「ベリ?どうしたの?
急にいなくなっちゃったからびっくりしたよ」

「...ンン.....ごめん」

「あっいいなぁ。超あったかいじゃん。
ベリの手もあったかい」

愛佳は私の側に来て私の掌を包み
缶を私の手と一緒に自分の頬に当てた


心臓の鼓動が早くなる

今まで感じたことのないような心臓の鼓動

顔が熱い


「ベリ?」

「いいの?みんな、待ってるよ?」

「みんなとはもういっぱい話したから。
けどベリとは話してないじゃん?」

「...私なんか別に....」

「ベリ、なんでずっと俺じゃなくて織田のこと選んでたの?」

「...ダニーかっこよかったから......」

「俺は?....俺じゃだめなの?
俺、かっこよくない?」


そんな顔で見つめないで

ドキドキが止まらない

そもそもなんでこんなにドキドキするわけ?

.....あぁ、わかった


私、愛佳が好きなんだ。


あかねんの相談を聞いてるうちに、
好きになったんだ

けど愛佳はあかねんが好きで
あかねんも愛佳が好き。

2人は両想いってわかってるから、
意味無いね

どうせ....叶わないんだから

振られても、意味がない


「ベリ?」

「...愛佳......」

「ベリが好きだよ」

「...えっ」

「ベリが好きだった、ずっと。
だから必要以上にベリと出かけようとしたり写真撮ろうとしてた」


なんで?
あかねんじゃないの?

てっきりあかねんが好きなんだと思ってた

私たち、両想いだったんだ。


.....だけどね、

私は、卑怯だと思う。

自分が。


だってあかねんと話してるうちに愛佳を見ることが増えて、話す回数も増えて

意識して。


気づいたら、好きになってた。

あかねんよりあとに好きになったのに
両想いだなんて......。

あかねんはあんなにも幸せそうに愛佳の事を話してた。

嬉しそうに。
楽しそうに。

その反面、愛佳が他の子と仲良くすれば
悲しみに満ち溢れてた。


そんなあかねんを、裏切れない。

「...私も」

「ほんとに?!じゃあ.....」



「...けど付き合えない」


あかねんに申し訳ない

裏切れない


私は愛佳と一緒には、なれないんだ

「...私は愛佳と一緒にいる権利....ない」



太陽はこんなに照っているのに風が冷たい

楽しい時間はすぐに過ぎる

友人の好きな人を好きになる

好きなのに、両想いなのに、
好きな人と一緒になれない


この世の中は理不尽な事が多すぎる

愛佳はどんな顔してるのかなぁ

悲しい?怒ってる?
『意味がわからない』と困ってる?

涙が止まらなくて愛佳の顔見れないから、わからないや。

それなのにどうしてこんなにも
素直に涙は流れるんだろう



ねぇあかねん。
どうして私なんかに相談したの?



こんなに苦しい思いするなら、
あかねんに相談されない方が良かった




この涙はいつまで経っても
枯れることはないんだろう



「...ふたりとも、、ごめん」




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