▼小説

□独りの少女の大きな旅立ち(長編)
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戦地に着くまでは2日以上かかるそうで何度か休憩を挟みながらも野宿するポイントまでたどり着き、しばらくしてから魔術師一族と合流した。広い草原で魔術師とエルフ族を交えたグループに別れてテントを張り、作戦会議をしてから此処を出発するようだ。私は初めての戦争なのでグループなどわからないのでたまたま近くに居たなんだか偉そうな魔術師に話かけることにした。声を出来るだけ低くして男っぽく話しかけるが女なのがバレないか、私の心臓はバクバクだ。



「すみません!僕初めて参加するんですがグループは何処にいけばよろしいでしょうか!」


「見かけない顔だな、君の能力は何だ。」


「エルフ一族の者で弓矢の使い手です!回復員にもなれます!」



マスクのした男の人はすごく強そうで目つきが悪くて、本当に怖いのだけれど両親を黙って待っているのではなく、私も二人を守れるようになりたいのでこんな事で怯むわけにはいかないのだ。


「回復か、なら私の息子の隊に入ってもらおう。あそこにあるテントにいる筈だ。
アイツは女が苦手だから男の回復員がいてくれて助かったよ。」


「は、はい!せ、精一杯頑張らせて頂きます!」


「良い心意気だな。」


「ギャレット様、作戦会議のお時間ですよ。」


「あ…!」



ギャレットという人は思っていたよりも悪い人ではなくとても優しい人だったが、その人に話かけた女の人を見た瞬間凍りついた。母の友人のミラ様だ。彼女はエルフ一族の姫様で、私の母の幼馴染のような存在でもある。小さい頃から何度も会っているしバレるかもしれないという緊張感で心臓が止まりそうなので速やかにその場を去った。


逃げている内に大きめで人が結構入れそうなテントの目の前に着いた。噂に聞いていたミラ様の旦那さんはあの人だったのか、という事は魔術師の長であってその息子は必然的に強いという事に。しかし見た目によらず優しい人だったのできっと息子さんも親に似て優しい人なのだろうと勝手に予想してテントへ入った。


すると私以外は本当に男の人だらけでどの人も強そうで、私には気にもかけず武器の手入れなどをしている。すると奥にいるギャレットさんに髪色の似た人を見つけたので話しかけようと近づいたら私が声をかける前に振り向いたため驚いて普通に自分の女みたいな声が出てしまった。



「なんだお前、女なのに男の恰好しやがって。」


「ん!?いやいや!僕は男ですよ!
今日からこの隊に加わる事になった、正真正銘のお、と、こ!の!回復員です!」


「嘘吐くのが下手な奴だな、まあいい。女と言えど回復員が足りてねえんだ。
何でそんな恰好してるか知らねえけど死なないように精々頑張るんだな」



まだこの人と話したばかりなのだが、絶対この人と気合わないと直感で感じた。別に私の完璧な変装を一瞬で見破ったからではなく、このバカにした言い方といい、人を見下す言い方といい、気に入らない!


近くにあった椅子にドカッと腰かけるとテントの端で座って武器を研いでいた男が隣に座ってきた。その男は髪が金髪であの嫌な奴と同じ黒いマントをつけているからにして魔術師なのだろう。物珍しそうな顔をして私を見ているが腹が立っているので無視するとようやく口を開いた。



「本当だ、近くでみると女の子だ。」


「違う!!わた…僕は男だ!!」


「近くで見ると普通に女の子の顔だぞ。
まあとにかくよろしく。俺はカイって言ってお前の事馬鹿にしてたあいつの従兄弟だ。」


「演技の才能ないのかな…。
私はエラ。回復員と弓矢の使い手。

ところで貴方のいやぁな従兄弟さんは何ていうの?」


「あいつはヴォルフって言ってギャレットさんの息子だから未来の長だな。

此処だけの話、過去に一族に追い出されたっていう白魔術師の女がこの隊に居たんだけど
そいつすっごい美人な女でさ、ヴォルフの奴惚れちゃってから散々尽くしてやってたんだよ。それなのにそいつスパイだったらしく、裏切られた上に寝込みを殺されかけてから女不信なんだよ。まあ普段はいい奴なんだよ、許してやって。」


「…酷い話、私も好きな人にそんな事されちゃったら不信になっちゃいそう。
まあ私にはやらなきゃいけない事があるからその為なら何言われたって耐える!

あ!そういえば、ドラゴンとか見てない?」


「ドラゴンって、ホワイトさんの事だよな?
あの人達はいつも現地で来るから此処にはいないけれど、何でだ?」


「ううん?…ちょっと噂に聞いてたから見てみたいなーって!」


「あの人のお陰で死者の数も減ってきたそうなんだけど、最近は人間もそれが厄介な様でホワイトさんを狙ってきてるから俺らが援護しないといけないな。

前回も結構な怪我してたし。確か腕の骨にヒビ入ったらしくて奥さんに治してもらってたが、あれより大きな怪我するとエルフでも治せないらしいからな。」


「そうなの…。じゃあ私たちが守らなきゃね…。」




いつも強くて怪我なんてしない父さんが本当は大けがをしていたなんて、信じられなかった。戦争が怖くなってきたけれど、この先何年続くかもわからない戦争なのだしいずれかは私も参加する事になっているのだしそれの期間が早まるだけなのだ。私はカイとしばらく戦争の話などを聞いた。


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