▼小説

□黒の魔術師(長編)
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あれから半年、人間界では長とその息子がやられてしまったせいか全く動く気配はなく、此方側の人間は安全に暮らしていた。私が20歳になるという事で親から魔術師の頭を受け継ぐ儀式、兼力試しの為の稽古や試験がいくつもあったため、黒魔術一族はエルフ一族と白魔術族との交流が少なかった。その為姫がどんな状況なのかも全く知らずに半年間試練をやり遂げてきた。この試験は力や魔術だけでなく知恵やチームワーク、リーダーシップ、生きるためで必要な能力など隅々まで試されるので代々これに合格できるのは30代以降、または親の死で受け継ぐのが一般だそうで、20歳になると必ずこの試験を受けなければならないのだが落ちるのが当たり前なそうだ。私は人間の頭とその息子を倒した事が大きかったが、やはり父に比べたら力がまだ足りておらず弱いので落ちてしまった。

まだ20歳で何百人もいる黒魔術一族の長になる自信もないので少し胸を撫で下ろしたが、父はもういい歳で早く受け継げるように、と背中を押された。



長い試験も終わり、ようやく白魔術とエルフ族とで行われる会議に参加でき、戦況などを知れる時が来た。その場所はかなり遠い地で行われるため親が世話しているドラゴンでその場所へ向かった。我々黒魔術師はこの世のモノではないような邪悪な死者の世界で生きる者を契約すれば召喚でき、パートナーとしても行動する事が出来る。親がドラゴンを手なずけている事だけでも驚きなのだが、世の中にはドラゴンになれる人間もいるそうなので驚きである。



1時間ほど空の旅を楽しんだ後、目的地に着くと今回は姫が会議に初めて参加していた。様子を見ると何故だか浮かない顔をしていて目を合わせてはくれず、会議が終わった後もずっと俯いていた。

その理由は白魔術の長からの言葉で理解が出来た。


「実を言いますと、私の息子とミラ姫が婚約を致しました。」


誇らしげに語る彼の言葉に皆が拍手をし、祝いの言葉やこれから新密度が上がりその上のメリットなどを語りだす者もいたが、姫に加え彼女の父も何故か浮かない顔をしていた。私の隣に座っていた父は耳打ちで残念だったが白魔術の方が地位が高いから仕方ないな、と言われた。きっと白魔術師は強い上に数も多く、信頼も得ているので数が減少しつつあるエルフ族には手を組むのが最適なのだろう。

私が姫に恋をしたって結局のところ地位が全てであって、人間の長を倒したって、20歳になって魔術師の長になれる歳になったって、関係なく私達より上の者が全てを制するのだ。生まれて初めて抱いたこの感情は最初から叶うとも思ってはいなかったもののいざ現実を予想していないときに突きつけられると胸が苦しくなるのだな。

その後私は姫に話かけることもかけられることもなく出口へ向かった。父は長だけの話し合いがこの後あるので私はいつも黒魔術師で秘書と戦争時の隊長の方と先に帰宅するのだが何もする気がおこらず一人になりたかったので、会場の近くにある街へ何となく足を進めた。


其処はどうやら白魔術師の拠点の場がある街なようで、何処もかしこも白魔術師のシンボルマークが描かれている旗がかかっていた。黒魔術師と違い規模がかなり大きい一族なので街の人のほとんどが白い装束を身にまとっているが、そうでない他の一族の民間人はとても貧しい恰好をしている。少し違和感を覚えながらも路地を歩いていると広場に出て、一通りも少ないので中央にある噴水に座った。噴水はやはり白魔術師のシンボルで、あまり一通りのない寂しい場所だ。



この街の長の息子と結婚するのか、と思うも私は白魔術師の長に息子が居る事を知らなかった。普通長の娘なら姫の様に強くない限り戦争に出向くことはないだろうが、息子となれば私みたいに指導され戦場に出される事がほとんどだろう。しかしこないだ姫に初めて会ったのだが、その息子には今まで一度も会ったことがない。異様な雰囲気の街に見た事のない息子、色々な疑問を残しながらも街を後にした。




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