▼小説

□黒の魔術師(長編)
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※恋愛要素少なめです。



私が妻のミラ姫と会ったのは、4回目の戦争を経験した時だった。此処最近エルフ一族との共戦を多くし、人間を相手に資金や土地などを求め戦っていた。しかしエルフ族は白魔術師を信用し俺ら黒魔術師は魔女の類だと思い込んでいるらしく、完全には信用していないようだ。我々が仲間という認識はあり、勿論傷の回復もしてくれるのだが白魔術師と比べたら、という感じだった。

一方エルフ族は神聖な一族でありこちらは敬意を払っているのだが、どうも昔から白魔術師とはウマが合わないので共戦時もそこまで協力はしていない。私の父も嫌っていてよく対立が起こる。

そんな状態だったがとある好機があった。



今回もまた人間のエゴで我々の森や町を崩そうと企んでいるらしく戦争に駆り出され馬に跨り黒魔術の一族と戦地へ向かった。親にはエルフ族の姫も戦うらしいのでいつもより敵の攻撃に気をつけろ、と念を押された。


戦地には既にエルフ族と人間が向かい合っており、残りは白の魔術師だけとなった。私の親は長なので一緒にエルフ族との族長に挨拶に向かうと白い馬に跨り弓矢を肩にかけた長い髪の女性が見えた。恐らく彼女が姫なのだろう、その印に彼女の周りに手厚いガードの兵が多く着いている。しかし弓矢に長けているのだろう、彼女の弓は随分傷がついていて長年愛用されているのが解る。


「ミラ、彼が黒魔術師の息子であるギャレット様だ。挨拶しなさい。」


彼女の父がそう言うと彼女は振り向いて私と目が合った。思わずその笑顔の美しさに目を奪われしばし見つめ合っていたが気を取り直しすぐさまお辞儀をする。

「ミラと申します。戦争は初めてなのですが足手まといにならないよう努力致します。」

「はい、私もミラ様をお守りします。」

「では私は余計なお世話ですが、ギャレット様が無事に生還出来ますようお祈りします。」

忠誠心を表すため膝立ちでいると姫は馬からわざわざ降りてこれがエルフ族のお祈りなのだろうか、頬に触れるだけのキスをした。馬に乗ると一つ会釈をされたのでこちらも軽くお辞儀をして自分の馬に戻った。




彼女のキスは私にとってのおまじないとして今日は中々良いペースで敵を倒していった。しかし人間もバカではない、前よりも対策を増やして来たため魔術師やエルフ族の負傷者は多かった。

ミラ姫を何度も気にかけているが彼女もただの女性ではなく無傷で敵を続々と倒していた。しかし、人間の長とみられる男が彼女の馬を刺してしまい彼女は馬と一緒に倒れてしまった。周りの護衛だった兵も次々とやられてしまい、岩肌の一角に追い込まれている。エルフ族は周りに誰もおらず、白魔術の連中は近くに居る者は負傷しているので、一番近くて動けるのは私だ。

自分の持ち場所も忘れて無我夢中で馬を走らせた。間に合わないかもしれないが、彼女を救う事だけを考え人間の前に立ちはだかった。丁度振り上げていた剣は私の腹部を貫き人間は驚いた顔で私が苦しむ面を見ていたが、刺した相手が私だと理解した瞬間直ぐにニヤリと笑った。私が前回彼の息子を半殺しにしてしまったからだろうか、彼は私と同い年くらいの男で中々強くライバル意識を持っていた。
大事な息子だったのだろう、倒れ込んだ私を見て高らかに笑い出した。


「ギャレット様…!しっかりして下さい!!」


姫の声が遠のき、腹部からは生暖かい液体が流れ出ているのが解る。しかし、これごときで死んだら父に厳しい修行を毎日つけてもらった意味がないし姫との約束が果たせない。

力を振り絞って勢いよ腰に隠しておいたナイフで人間の首を掻き切った。一瞬で人間の動きが止まって生暖かい血が髪に飛び散り、首から下を真っ赤に染めた人間は堅い岩肌へ倒れ込んだ。私は手から力が消えナイフを落とし、自分もその場に倒れ込みそうになったが姫に支えられた。



薄れゆく意識の中で姫の手をやっとの想いで握り、辺りの騒々しい声と音に囲まれて意識を手放した。






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