▼小説

□ドラゴンと天使の恋話(長編)
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「お前みたいなダメな天使、もういらねえんだよ!」

「哀れだな!そのままのたれ死ねばいい!」



自慢の白い羽は赤く染まっていたし、体中も血だらけで両手は殴られたときに骨折していた。

血が気管に入り息が上手く出来ない。ああ、死ぬんだ。
私の過去は…暗い記憶ばかり。私は小さい頃に親に売られて此処の家に来たが、私はもう大人になってしまい必要価値がなくなったという。


思い返せば私を売ってしまった両親の記憶も魔法で消されてしまったし、この人達のところで毎日家事や口には言いだしたくもない辛い労働だけだった。

それでも夢はたくさんあった。海に行くこと、ドラゴンに乗って旅すること、動物を飼う事、素敵な人と幸せに暮らすこと。

しかし、記憶を消されているので家に帰ることも出来ないし、帰ったところで私の居場所はない。


「おい、クソ天使。はは、死んじまったか?」

「じゃあコイツの羽引きちぎって売ろうぜ、高くつくさ。」



でも、この人達の前で易々と死ぬなんてごめんだわ
今まで脱走は何回も考えてた。今なら行けるかも…。



私はさっき殴った時に壊れた机の破片でもう数年も使い古したサビついた鎖を破壊した。


奴らの声なんか聴く暇もなく私は大空へ舞った。
自分でも思ってたより上手く飛べて上出来だが、もう体力がほとんどない。



意識がたまに飛びながらも山にぽっかり空いている洞窟へ降りた。
此処はあの男達が言ってた事が本当なのならばドラゴンのいる山。サマランダ―様の住処。


人間は此処へ来ては財宝を盗もうと企むが帰る者はいないという。
でも自分はいつ死んでも構わない。小さい頃から絵本に出てくる
ドラゴンに憧れていたので最後に一つでも夢が叶えられて死ねるなら
それも悪くない。


洞窟の中は薄暗く寒くて私は咳き込む。
思わず呼吸が出来なくなり視界が暗転する。


「誰だ。」


一瞬気を失っていて、気づいたら座り込んでいた。
何者かの声により、此方へ戻ってきたのだがもうほとんど目が使えないので
前にいるのが人なのかもよくわからない。


「私…」

「天使とは珍しいな、お前なんでそんなに血だらけなんだ。
エルフ族は傷が自然治癒するって聞いてたが。」

「自然治癒の気管が…傷ついて出来ない…」


前に居るのは人だ。暗くてよく見えないが黒くて大きめのシルエット。
そして低くて心臓まで届きそうな声。ドラゴンはいないのだろうか。


「何があったんだか知らねえが、お前みたいに此処に来るまでに
ボロボロになってる奴は初めてだ。しかも天使とはな。」

「あの…貴方は…?此処に住まわれるドラゴン…
サマランダ―様は…」



すると彼の姿がどんどん変わっていった。
シルエットは大きくなり、それはまさにドラゴンと呼べるほどの大きさになり
広い洞窟の通路はあっという間に埋め尽くされた。



「俺が此処の財宝を守る龍、サマランダ―だ。」


鋭い爪に宝石のような瞳、そして一緒の空間にいるだけで気温が上がるくらい
炎を隠した鱗の奥は溶岩やルビーよりも美しい赤をしていた。


「なんて美しいの…」


思わず死ぬこともお構いなしにその容姿を眺めた。
今まで暗い家の中で住んでいた為こんなに綺麗なものを見た事はなかった。



「俺が美しいだと、笑わせてくれる。
天使様、アンタ何しに此処へ来た。」


「私は…夢を叶えに…
最初で最後に会えたドラゴンが貴方で良かった…」




私は意識を失い、真っ暗な闇の底へ落ちた。





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