★愛欲の施設 - First Wedge -
□第二夜 許された味見
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抵抗は無意味。
感じるままに受け入れてこそ、捕食者の満足を得ることができる。
声も蜜も出せるままに本能で叫ぶことが、彼らの求める獲物側に与えられる行為。
「妬けるな。」
ぼそりと涼がつぶやいた。
「ひッ?!」
陸の腰が鋭利に動いたことで、優羽の視界が再び涼から陸に戻る。
「いま、優羽を食べてるのは誰?」
強制的に植え付けられる支配者の名前。
「そうだよね。今は僕に食べられているんだよ。」
「ッ?!」
キモチイイ
五感のすべてが、その一言で片付けることが出来た。
向かい合うように重なる陸を受け入れていた体は反転して四つん這いに転がる。
「ァアアァアァッァ」
そのまま高く突き上げられたお尻を叩くように打ち付けられる律動に、優羽の声はまるで獣のように洞窟内に響いていた。
「ッア…〜〜〜っ…ぁ」
もう思考はうまく働かない。
体を支えることも出来ずに、床にはいつくばる優羽をみおろしながら、陸はその目を背後の涼へと流していく。
「ねぇ、涼?」
可愛い顔だと誰がそんな風に思うのだろうか。
「なんだ?」
勝ち誇ったように舌なめずる陸の黒い笑みが、呆れたように息を吐き出す涼の視線と交わった。
「優羽を僕にちょうだい?」
甲高くなく優羽の声の隙間から、陸の声が涼に宣戦布告を告げる。
「いいでしょ?」
にこりと笑う表情に比べて、その声に含まれる感情は突き刺すものが感じられた。
その証拠に、優羽がまたひとつ身体を大きくのけぞらせる。
「死ぬか?」
涼の声が静かに響いた。
微動だにせずつむがれる言葉に、思わず耳を疑う。
「優羽は、俺のものだ。誰にも渡さない。」
「あっ?!」
──イケナイ
本気にしてはイケナイ
それでも脳が錯覚を起こしたがる現象に戸惑う優羽をチラリと見た後で、陸は再び涼のほうへその顔を振り向かせる。
「でも、僕のでこんなに可愛くなってるんだよ?」
「見ればわかる。」
「じゃあ、もらってもいいよね?」
「ッ!?」
ふいに快楽がやんだ。
「〜〜ぁ…っ…ぅ」
意識がまどろんでいく。
感じたことのない疲労感が急激に優羽に襲い掛かり、先ほどまで必死にあえいでいた優羽の体は、突然やんだ揺れについていけずに床に崩れ落ちていた。
「はぁ…っ…はぁはぁ」
そこでわかる。
もう、とっくに限界は過ぎ去っていたのだと。
今度こそ死ぬかもしれないと、薄れいく意識の端で、優羽は白銀の毛並みがなびくのを知った。
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「待って!!」
陸が真上で牙をむき出しにする涼に、両手を突き出した。
噛み殺さんばかりに、眉間にシワをよせた涼がわずかに思いとどまる。
「しばらく僕たちの優羽ってことでどう?」
「言い残すことは、それだけか?」
お腹いっぱい食べた若者相手に年長者の飢えは拍車をかけて凄みを増す。
この状況で何を言っているのかと、ぶち切れた涼の牙が陸の喉元を切り裂こうとしていた。
それなのに勇敢にも陸は両手を突き出したまま、涼にニコリと天使の笑顔を見せる。
「だって、涼だけじゃ優羽の面倒は見切れないよ?」
ほらっと、陸は涼の視線を誘導するようにある場所を指さした。
「ねっ。優羽をあのまま放置しとくつもり?」
陸に示されるがままに視線を動かした涼が忌々しそうに顔をしかめる。
そうしてしばらく考え込んでいたが、やがて陸と優羽を見比べた後で涼はその牙を口の中にしまった。
「人間なんだから、そのまま放置すると風邪引いちゃうよ?」
「言われなくてもわかっている。」
「えー。嘘だぁ。」
忘れていたくせにと、からかう陸の声にいちいち反応にしていては日が暮れてしまう。
怒りに我を失いかけたが、陸の言葉を聞き終わらない内に、涼は優羽をその毛並みでくるむことにした。
フワフワと心地よい感触に気づいた優羽が、眠りながらもわずかに身体をすりよせてくる。
ふっと、涼の顔も柔らかく変わった。
「僕もここで寝よっと。」
「部屋に帰れ。」
「ヤダッ。優羽と一緒にいたい!」
「しつこい。」
バシッと音をたてて、涼の尻尾で凪ぎ払われた陸が飛んでいった。が、軽々と宙で反転し、何事もなかったかのように着地した陸は、涼に抱かれながら寝息をたてる優羽をジッと見つめている。
「優羽は、仲良く一緒にって言ってたじゃん。」
どの口がそれを言うのだろうか。
優羽を抱き寄せながら涼は冷めた視線で陸の弁舌を聞いていた。
「僕だって、独り占めしたい気持ちはわかるよ。だって優羽、あり得ないくらいすっごくおいしいんだもん。こんなに満足したのって、生まれて初めてだよ。本当にどこで見つけてきたの?」
それに応える義理はないとでも言いたげに、涼は瞳を閉じて陸の言葉を受け流す。