★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第9話 無駄に広い我が家
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勉強の邪魔をしてしまって大丈夫なのだろうかと、優羽が不安そうな顔をしたのは一瞬だけ。


「あっ、これでしょ。輝が戒に渡した試作品って。」


必死に隠していたものを近寄ってきた陸に取り上げられて凍りつく。
どうして隠しているのがわかったのか、無遠慮にシーツと優羽の体の間に腕を突っ込んだ陸は、誰の断りもなしにそれを高々に引っ張りあげたのだからたまったものじゃない。


「っ?!」


一瞬思考が止まったが優羽はすぐに顔を赤くして、笑顔で玩具と優羽を見比べる陸に手を伸ばした。


「ヤッ?!ダメッ!」

「おい、こら。」


奪い返そうと急いで伸ばした優羽の腕は、寸でで輝に取り押さえられる。
同時に一歩下がった陸の動きも重なって、中途半端に腰を浮かせたまま優羽はベッドの上で膝をついた。


「貴重な試作品を壊しちまったら意味ねぇだろ。」


悲しいかな男の力に抵抗むなしくねじ伏せられた優羽の瞳は、にじりあげた先で二人の男が楽しそうに光る顔をうつす。
ただからかっているだけにも見えるが、この二人のことだ。

いつ、本気になるかわからない。


「かっかえしてッ───」


真っ赤な顔のまま返却を求めた優羽に、輝と陸は顔を見合わせて口角をあげた。


「これ俺のだから。」

「───ッ?!」


言われてハッと気づいたが、時すでに遅し。
滑降の揚げ足を自分でとってしまった以上、逃げ場はどこにもない。


「これがそんなに気に入ったか?」

「───ちっちがうッ!!」

「それじゃぁ、今すぐはめてあげるよ。」

「ッ!!?」


輝と陸を交互に見ていた優羽の視線が、最後に陸の手に掲げられているものをとらえて大きくそれる。
冗談だと思いたいが、冗談じゃなさそうな雰囲気に知らずに身体が震えた。


「〜〜っ、くしゅん。」

「「………。」」


輝に腕を抑えつけられた状態でくしゃみをした優羽に二人のあきれた息がかかる。

これからと言うときに、空気が読めないやつ。なのか、そんな格好で寝てるからだろなのかはわからないが、はぁとわざとらしく吐かれたタメ息に胸が痛い。


「とりあえず、先に掃除を終わらせるか。」

「そうだね。優羽に風邪引かせるわけにはいかないしね。」


一時休戦とばかりに本来の役目を思い出した輝と陸に解放された優羽は、その安堵からか再びくしゃみに襲われる。


「まさか、もう風邪ひいちゃった?」

「ッ!?」


ん〜と、おでこを合わせてくる陸の顔が近すぎて、優羽は更に顔が赤くなるのを感じた。
熱はないはずなのに、全身が変に熱い。


「あっれぇ〜やっぱ熱あるんじゃないの?」


いたずらに笑う陸に、優羽は首を横に振って答える。
これ以上ない接近が無駄に鼓動を早くさせていた。


「熱がでたら、いつでももらってやるから心配すんな。」

「ッ?!」


それはもっと熱が出そうな気がする。
夏風邪はこじらせると後が大変だと聞いたことはあるが、別の意味で大変になりそうだと、優羽は片手でわざとらしく顔をあおぐ。

それをどこか楽しそうに横目で見た輝は、腰に手を当てて掃除の割り振りを唱え始めた。


「優羽は窓と廊下と玄関の掃除、陸は庭──」

「まだ暑いよ!?」

「──で、俺は水周り含めてその他全部ってとこだな。」


熱中症になったらどうするのかと抗議する陸を無視して役割分担を終えた輝に、ベッドから降りた優羽は手渡された雑巾を受けとる。
何はともあれ、一難さりそうなことに人知れず優羽はホッと胸を撫で下ろした。


「あ。輝、窓の上のほう届かないかも。」


気を取り直して掃除する意欲をみせた優羽は、バカでかい窓を見上げながら首をかしげる。
届かないどころか、こんなものを一枚、一枚手でふいていたら何年かかっても終わりそうにない。


「そんなあなたにこれ一台、窓拭きロボット、ピカリン。」


ドーンと突然何の前降りもなくCMじみた歌を奏でる輝に、優羽の無言の態度は何を訴えるのか。


「輝のネーミングセンスって、前から思ってたけどひどすぎない?」

「そうか?」

「そうだよ。ね、優羽。」

「えっ?!」


そこで振られても困る!!
曖昧な表情で優羽は空笑いのまま、輝からピカリンをもらい受けた。

名前はともあれ、内側と外側から窓を挟むように引っ付けてスイッチを押すだけという、なんとも便利な機械がこの世にはあるらしい。
感心しながらその機械を見つめていた優羽は、今の会話の中に聞き逃せない部分を見つけて顔をあげる。


「もしかして、これ輝が作ったの!?」

「おう。さっきのゴーゴー君2号も俺が作った。」

「ほんとに!?」


スゴいと純粋に目を輝かせる優羽に、輝はまんざらでもないのか嬉しそうな笑顔をみせた。
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