★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第6話 愛の行方
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「私、私は……っ。」


もっと自分がしっかりしていれば、こんな風に誰も傷つけなかったかもしれない。迷惑もかけなかったかもしれない。
許してくれる甘い世界に溺れて見えなくなっていた。

これは罪。

愛も恋も知らないくせに、求めるだけ求めて、受け入れてもらえることだけを望んでいる。
これから先もきっと、誰か一人なんて選べない。


「私……っ。」


それ以上言葉にできず、苦しそうな優羽の姿に、義兄弟たちはそろって顔を見合わせる。
そうしてフワッと優羽に笑いかけた。


「優羽、俺たちはこうなることをわかってたんだよ。」

「え?」

「誰かを選ばないといけないなんて、思わなくてもいいんですよ。」

「でもッ!」

「その代わり、一生逃がさねぇから覚悟しろよ。」

「輝。それじゃ脅迫になっちゃうじゃん。」

「うるせぇ、陸に言われたくねぇよ。」


段々と、いつもの調子に戻っていく彼らに優羽は複雑な思いを巡らせる。

選ばなくてもいい?

本気で、そう言っているのだろうか?

疑いの眼差しをむける優羽とは逆に、彼らはどこか安らいだ顔をしていた。


「あのっ────」

「優羽、とりあえず今はゆっくり休んで。」

「─────え?」


疲れてるだろうから話の続きはあとにしようと、晶は優羽の言葉を遮った。

誤魔化されたのだろうか?

優羽の疑惑の目から逃げるように病室を出ていった彼らと入れ違いに看護師がそっと入ってくる。


「熱と脈拍をはからせてもらうだけなので、そのままで。」


ニコリとほほえむ看護師に体をあずけながら、優羽は大きく息を吐き出した。


「はぁ。」


一体どういうことだろう。

時々わからなくなる。

幸彦も晶も輝も戒も陸も大好きだと思う気持ちに迷いはないはずなのに、それが異性としての感情だと認識しているはずなのに、今一つ自信がもてない。

快楽は凶器だと思う。

溺れてしまっても構わないと思う自分が怖い。
何も考えなくていい。いや、考えられなくなるほどの快楽に支配されたいと願っている自分がいた。

鳴いて、求めて、誰でもいいわけではないのに、そう思われても仕方がないと思う。


「違うのにな。」


けれど、望んだのは自分自身。
拒むこともできるのに、拒めない自分にあきれてため息が出る。
制御出来ずに、男をむさぼる自分の体に彼らは欲しいだけ与えてくれるが、その行為に甘えていいのかと優羽の良心が痛んだ。


「はぁ。」

「何か悩みごとですか?」

「えっ?」


ため息を吐いた優羽の体温を測り終えた彼女がクスクスと笑う。
無意識のため息だっただけに、なんだか急に恥ずかしさが込み上げてきた。


「恋の悩み?」

「え!?」

「だけど、あんなに素敵な人たちが身近にいるんじゃ、なかなか上手くいかなさそうね。」


次に脈をはかろうと、腕に帯を巻き付けてくる看護師の言葉にそうだと気付く。
毎日一緒にいるから忘れがちだが、晶も輝も戒も陸も素敵どころではないほど素敵すぎる。
彼女の一人や二人いたっておかしくない。

むしろ、いないほうが変だ。


「やっぱり、からかわれてるのかな?」

「あら、あの中の誰かなんですか?」


楽しそうに瞳を輝かせる看護師に、まさか"全員です"とは答えられず優羽は小さくうなった。


「それとも、実はもっと年上が好みとか?」

「えっ?」

「年の差カップルでも珍しいことじゃないですよ。」


驚いた声をあげる優羽に彼女がまた笑う。


「年の差カップル?」


その言葉に、幸彦の顔が浮かんだ。
優羽の体に最初の男を刻んだ人。


「その顔は、図星!?それとも別の彼がいるのかしら?」

「ちっ違いますっ!そんな人いません。」

「怪しいわね。まぁ近くにいる人の気持ちなんてよくわからなくて当然よ。」

「え?」


脈をはかり終えたのか、彼女は体の向きをかえて優羽を真上から見下ろしてくる。
顔を赤くしながら早くなった脈を整えるようにその看護師を見上げた優羽は、その目をみてゾクリと悪寒を走らせた。


「あ、の────」

「人の本性なんて、案外わからないもの。」

「────っ。」


クスクスと笑う看護師の顔がぼやけていく。
何がそんなにおかしいのだろうかと尋ねる前に、優羽は深い眠りに誘われた。
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