★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第2話 家族のルール
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なんとか幸彦のつけた赤い印が隠れる服を選び着替えをすませると、無駄に広い屋敷の階段を1階までかけおりて、リビングへとたどり着く。


「あっ……おはようございます。」


すでにダイニングテーブルには、朝から完ぺきな様相を整えた兄弟たちが座席していた。
あきらかに優羽が来るのを待っていたらしい彼らの視線を一身に浴びながら、優羽はおずおずと自分の席にぎこちなく向かう。


「遅い!」

「すっ…すみません。」


輝の第一声に体を大きく揺らして優羽は立ち止まった。
それをクスクスと優しい笑い声が援助する。


「優羽、おはよう。輝の暴言は気にしなくていいから座って。」

「てめっ、暴言って、もっと他に言い方があんだろ。」

「優羽を怖がらせる言い方は、なんだって暴言だよ。」

「は?俺がいつ優羽を怖がらせたって?」

「さぁ、それは俺より輝の方がよく知ってるはずだけどね。」


口さえ開かなければ上機嫌にも見える晶の笑みは深みをまして輝に向けられていた。
火花は見えないが、どことなく険悪なムードに優羽は、立ち止まったまま心配そうに両者の顔を見比べる。


「優羽が困ってますよ。」

「そうだよ。輝も晶も優羽の前でやめなよ。」

「「陸にだけは言われたくない。」」


救いの手を出してくれた戒にならって、義兄をしかった陸は、見事にハモる声に目を瞬かせた。


「ひどーい!」

「あはは……あ。」


全然見た目も性格も違うのに、妙に噛み合ったやりとりが面白い。
おかしくてついつい笑ってしまった。


「ご、ごめんなさい。」


自分を見つめる四つの視線にあわてて頭を下げると、優羽はその空気を払拭するように、与えられた自席に腰をおろす。
ごほんと、場をとりなすように輝の咳払いが聞こえた。


「いいか、魅壷家では食事は全員でとる。ルールは3つあるが、そのうちの1つだ。だから時間にはちゃんと顔出せ。」

「はっ…はぃ…。」

「おしっ。わかりゃいいぜ?」


素直にうなずいた優羽に、輝もニコッと笑い返す。
笑い返されると思っていなかった優羽は、ホッとして抜きかけた肩の力を反対にこわばらせた。
どうしてこうも、ここの人たちはムダに心をときめかせてくるのだろう。その答えは誰も教えてくれない。


「あれ?」

「どうかしましたか?」

「えっ?……ゆっ…お父さんの姿が見えないなって……。」


幸彦がいないことに気づいた優羽の視線に、戒は疑問を投げ掛ける。キョロキョロと、幸彦を探すように視線を泳がせる優羽の頭には昨夜の情事がちらついていた。


「一緒に食べたかった?」

「え?いや。その……」


急に顔をのぞき込んできた晶に、優羽はあわてて首を横にふる。そして、想像していたイヤらしい過去を振り払うかのように、早口で言い訳を並べた。


「全員で食事をとるのがルールなら、どうしていないのかなって……そう思っただけ……です。」


最後の方は、随分小さくなっていて自分でもちゃんと声になっていたかわからない。
なぜ一家の大黒柱がこの場にいないのだろうか?
いない方が個人的には有難いのだが、いないのはいないので、何故だか寂しかった。

複雑な心境に、声が曇る。

兄弟に昨夜のことは知られたくない。知られたくないから、複雑なこの心境を伝えられなくて苦しかった。


「父さんは出張だって。」

「……えっ?」


難しい顔のまま幸彦の席を見つめる優羽に、陸がその答えを教えてくれる。


「なんか明け方に出ていったらしいから、緊急みたい。」

「そ……そうですか。」


もしかして自分と関係を持ってしまったために、いたたまれなくなって出ていってしまったのだろうか。


「仕事だし、しょうがないよ。」

「だな。」

「よくあることです。」


その心配は必要なかったらしい。
自分と関係をもった後ろめたさの逃避ではなく、幸彦は本当に仕事で出張へと明け方に旅立って行ったようだった。


「仕事?」


そういえば、何の仕事をしているのか知らない。
けれど、首をかしげた優羽の声は、お腹をすかせた彼らによってかき消される。


「あー腹減った。さっさと食おうぜ。」

「そうですね。自分も学校に行かなくては、いけませんから。」

「うわっ!? もうこんな時間なの!?」

「じゃあ、食べようか。」


どうやら疑問には答えてくれないらしい。手を合わせて各々に食事を始めた彼らにならって、優羽も手を合わせて食事をとることにした。


「い…いただきます。」


昨夜同様、豪華な食事は変わらない。
そこでまたひとつ、違う疑問が生まれた。
昨日、今日で屋敷のシステムはわからないが、お手伝いさんがいそうな雰囲気はどこにもない。


「これは誰が作ってるんですか?」

「今日は、輝だよ。」

「あっ?口にあわねぇか?」

「いっいえ、とても美味しいです。」


今度は答えてくれた晶と、食事担当だったらしい輝が顔をあげて優羽をみる。
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