★愛欲の施設 - First Wedge -

□第四夜 非情な世話係
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わかっていたはずだ。
わかっていた。
それなのに、絶頂に近づいていく世界があまりにも苦しくて切ない。


「ぁ…きら…晶…ッ…ヤッ…いくっ」


優羽は、喘ぎ声の隙間から晶を求める。
押さえつけられた腕、逃げられない腰の変わりに、最大限の甘美な鳴き声で、優羽は晶に快楽の限界を伝えていた。


「ッ…アァッ───…や…アアァァァッア」


弓なりにしなった身体の奥深くに晶の欲望がドクドクと解き放たれていくのを感じながら、床に縫い付けられた蝶のように、優羽は晶の腕の中で快楽の波に飲まれてイク。
視界の端に見えるその美麗で非情な狼に、優羽は意識を手放すように全身をゆだねていた。


「ぁ…き…ら」


視界がかすんでいく。
解放された体に安堵の息を吐きながら、優羽は浮世離れした晶の美しさの中に悲しい瞳を見たような気がした。

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意識を手放した優羽から、晶は自身を引き抜く。卑猥な音をたてて解き放たれた優羽の秘部は、ドロリと濃厚な液体を吐き出した。


「はぁ。」


満足そうな息をこぼしたあとで、自嘲気味に晶はクスリと笑みをこぼす。


「また、綺麗にしてあげないといけないね。」


苦笑の息は何に対してなのか。自分で汚した少女から離れた晶は、水に浸っていた柔らかな布をしぼりながら、またため息を吐いた。
食べるつもりはなかった。
気づいたら、食べざるを得なかった。


「どうして、こんなことになったんだろうね。」


今まで体験したことのない自分の行動に、どうも調子が狂うと晶は首をかしげる。綺麗に整えるのは今までも変わらずに与えられてきた晶の仕事であって、今までも変わらずにこなしてきた晶の仕事でもあった。
別にエサは、優羽が初めてではない。
それなのに、自分で綺麗にしたばかりのエサを汚すような真似をしたのは初めてだった。


「面倒なことは避ける性格のはずなんだけどな。」


そう言いながらも、晶はしぼった布を片手に優羽の傍まで歩み寄る。


「でも、たしかに満たされる。」


それは、紛れもない事実だった。なぜか優羽を抱いた後は温かな気持ちになっている。
穏やかな性格が勝(マサ)る感覚など、いつ以来だろうか。


「これは気を付けないといけないね。」


持っていた布で優羽の身体を丁寧に拭き直しながら、晶はまたいつもの笑みを張り付けた。
唇を寄せなかったのが唯一の証拠だと言い聞かせるように、不規則な寝息をたてる優羽の顔を一度眺めたあとで、晶は淡々と優羽の身体をなぞっていく。首筋も、胸も、お腹も、腰も、背中も、両手足も、例外なく磨くように拭いていった。敏感な部分をこするたびに、眠っているはずの優羽がわずかにみじろぐと、また晶の口から苦笑の息がもれた。


「教えること、ほとんどないんじゃないのかな?」


綺麗になった優羽の身体に、晶は床に落ちていたのとは異なる新しい布をかけてやった。
何の夢を見ているのか、優羽のホホに一筋の涙が伝っていたが、晶はジッとそれを眺めただけで、やがて何もせずにその部屋を出ていった。


「で?」


水の入った器と布を持って部屋を出るなり、入り口付近の壁にもたれ掛かっていた輝に話しかけられた。


「特に変わりないよ。」

「へぇ。」


晶は、輝の視線をかわすように目の前を通りすぎる。だが、通りきる前に輝に顔を向けた。


「俺がいない間に、殺さないようにね。」

「補償はできねぇな。」


鋭利な瞳を入り口に走らせ、優羽の姿をとらえた輝の口角があがる。これもいつもの光景だとでもいうように、晶は意識を前に戻した。
優羽を特に意識しているわけではないと言い聞かせるように、仕事だと割りきって足を踏み出す。そうして足を前に踏み出すと同時に、少女の悲鳴がこだまするはずだった。


「え?」


予想に反した展開に、晶は驚いたように足をとめる。振り返ってみると、聞こえるはずの悲鳴は聞こえず、いつもその元凶となる男はさっきと変わらない位置で立ったままなんとも言えない表情を浮かべていた。


「なんだよ?」


不可解な表情で見つめてくる晶に気づいた輝も不思議そうに晶を見つめ返す。
その瞬間、なんとも言えない空気が二人の間に漂った。


「珍しいね。」

「お互い様だろーが。」


しばらく無言で、お互いの言いたいことを飲み込んでから、ふたりは照らし合わせたように離れていく。
どちらの顔も複雑に眉をよせ、戸惑いに唇をむすんでいた。

──────To be continue.
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