★愛欲の施設 - First Wedge -

□第三夜 尋問の食事会
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それでもまだ、頭は現実を受け入れようとはしない。きっと心と体がバラバラになってしまったのだろう。
泣きながら抵抗する心と気持ちがいいと貪欲に求める体の感覚が正反対に狂っていく。幸彦の動きに合わせて軽く弾(ハズ)む優羽はもう、視界が定まっていなかった。全身の力が抜けきったように、幸彦に従順している。
前後に、上下に、左右に、回されるように動く腰から逃げ出すことなど不可能だった。


「やはり、優羽は嘘つきな子なのかな?」

「ッ…チが…ぅ…アァッ……」

「ウソではないと言うのなら、すべてにおいて素直であるべきだ。」


ニッコリと綺麗な笑みで見上げられ、優羽は潤んだ瞳で幸彦を見下ろす。受け入れがたい現実に、首を横にふるのが精一杯だった。
ふいに律動がやむ。


「ヤメテほしかったのでは、なかったかな?」


優羽は、ついに声を失った。
終わることなく繰り返される単調な動きが止まったことに、ひどく落胆している自分に驚く。
恥ずかしくてたまらないのに、うずきがおさまらない。体の芯から突き上げてほしいという卑猥な願望を認めることは死ぬよりも難しい現実だった。


「あ…ぁ…っあ」


うまく切り返せない優羽に、幸彦の笑みはさらに深さを増す。


「まぁ、このわたしが食事の最中に席をたたせることを許しはしないがね。」

「──ッア!?」


再び、グッと勢いよく引き寄せられた身体に、優羽は強く目を閉じる。が、次の瞬間には、大きく目を見開いていた。
その犯人でもある幸彦のクスクスと笑う声が真下から聞こえてくる。


「ここがイイようだね。」

「──…ッ…アァッ…──」

「今さら、逃げようとしたところで、もう遅い。」


快感で人は死ねるのかもしれない。
悲鳴が涙に変わり、涙が嬌声ににじむ。今までの行為が嘘のように、集中的に責め立ててくる幸彦の速さについていけない。
振り落とされないようにしがみつくどころか、断続的にぶつかり合う性器の音さえも聞こえてこなかった。


「───…ッ…ん…アッ──」


自分が声を出しているかもわからない。


「ああ、久しぶりだ。」


それなのに、幸彦の声ははっきりと聞こえてくる。


「ここまで満たされる心地よさを感じたのは、優羽が初めてかもしれないね。お礼にひとつ、いいことを教えてあげよう。」


酔いそうになるほど揺れる身体に、優羽は幸彦の言葉を全身にきざみこんでいく。
耳を疑うような真実が刻まれていく。


「わたしたちの食事は、獲物を切り刻んで血肉を食いあさることではない。こうして性力を引きずり出し、純粋なまでに求めあう快楽に、わたしたちは満たされる。」

「なンッ……ん…ッ…」

「優羽。わたしたちのエサになったからには、その性を提供し続けなさい。かわりに、死よりもはるかに天国に近い、永遠なる甘美を与えてあげよう。」

「アァッ…だめッ…ッ…アァッ──」


奥底から、沸き立つような快楽がはいあがってきた。
限界が近いことがわかる。
それがどれほど恐ろしい感覚なのかは、きっと目の前の捕食者にはわからない。


「わたしたちが求めれば拒絶することなく、その身体を差し出し食事をさせるのだよ。」


全身に力がこもっていた。絶頂の気配が近づいていて、幸彦の声も段々と聞こえなくなってくる。


「わかったね?」


最後に確認された質問に、優羽は一際高い声で答えてみせた。

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バンッと、勢いよく青ざめた顔で二匹の狼が姿をあらわした頃には、ちょうど幸彦の食事も終わり、ぐったりとした優羽が床におろされる所だった。


「優羽ッ!!」


気を失って眠る優羽を守るように、涼と陸が駆け寄る。


「どういうつもりだ!?」


涼は怒りを隠しもせずに、王座にふんぞりかえる幸彦に牙を向けた。それをこともあろうか、幸彦は片肘(カタヒジ)をつきながら涼に笑みを返す。


「よい娘を連れてきたね。」


瞬時に、獣のうなりごえが低く吠えたのは気のせいではない。


「いつ献上するといった。優羽は、俺のだ。」

「ちょっと涼、違うよ。僕たちのでしょ!?」


そこは譲れないと、陸の場違いな声まで響きわたっていた。


「陸、だまされてはいけませんよ。」


成り行きの一部始終を傍観していた四匹の狼のうち、戒が陸に静かに告げる。


「彼女は、人間がわたしたちをこの地から追い払おうと寄越した娘です。隙を見せれば、逆にエサになりかねませんよ。」


戒の説明に、陸は荒く上下に胸を動かす優羽を見下ろしながら、困ったように首をかしげた。
言葉を探す陸のかわりに、怒り冷めやらぬ涼が口を開く。


「優羽は、他の人間とは違う。」

「なぜそう言い切れるのかな?」

「演技かどうかくらい見分けられる!!」


幸彦の問いかけに涼は吠えた。が、食事を終えたばかりのカミの前で、その行為は無力に等しい。


「涼、その子は人間だ。」

「………。」

「情を持つことは、許さない。」


有無を言わせない声音に、涼は押し黙る。
悔しそうに細めたその瞳は、わずかに顔を歪(ユガ)めた優羽の姿をジッと見つめていた。

────To be continue.
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