★愛欲の施設 - First Wedge -

□第二夜 許された味見
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《許された味見》

妙に下半身がダルイ。
まるで体の中心を通る大事な骨を引き抜かれたようなだるさが優羽を襲っていた。
原因は何かわからない。何か忘れてはいけない特別なことが起こったような気もするが、ふわふわと素肌に絡み付く柔らかな感触が心地よくて、優羽は眠りから覚められずにいた。


「……っん…」


うっすらと開けた瞳の中に、白い毛並みがうつる。
ふさふと時々上下にゆっくりと揺れているが、包み込んでくれる気持ちよさに意識の目覚めはやってこない。


「…あったか…い……」


すりよるようにホホを寄せれば、その白い毛並が優しくふわりと動いた。
優羽を抱きしめるように向きを変えたその"毛"は、どこからかザラついた舌を出してぺろぺろと全身を舐めあげてくる。
くすぐったい。
くすくすと力なく笑いながら優羽はその毛の感触を楽しんでいた。


「…ん…ッ…」


いたわるような優しい舌先に、体に感じる心地よさが増す。
そういえば、自分は肉食獣に食べられてしまったんだとぼんやりと思い出した。死を体験したことは今まで一度もないが、ふわふわと軽い眠りが心地いいのならこれもありかもしれない。ただ、最後に生きた一日はあまりにも衝撃的だった気がする。
なんて濃厚な一日で、刺激的な出来事だったのだろう。イヌガミと呼ばれる太古の神様と出会い、そして連れられた森の奥の洞窟でその命は消えてしまった。


「あっ…っ〜〜ん」


さすが、天国とうたわれるだけあって気持ちいい迎え入れ方だと、優羽は起きない頭の端で死んだ世界のことを考えていた。
全身をくまなく愛撫される感覚は、涼のそれに似ている。
ピクッと体が反応するのは生きているころと変わらない。
耳、まぶた、首から下にかけてどんどんおりてくるその柔らかく湿った感触に、もぞもぞと優羽の体が揺れ始めていた。


「…ッ…ン?」


少し変だと気付き始める。


「アッ…あぁッ…〜やっ」


気持ちよさが妙に現実味を帯び始めていた。
力の抜け切っていた身体が時間がたつにつれ、愛撫が深まるにつれて硬直していく。首筋をなぞるように、乳輪に沿うように上から下へと移動していく感覚に背筋が湧きたつのを感じる。重力に従うように上から降ってくる圧力に甘い吐息をこぼすころには、ふさふさの白い毛並みは消え、均整のとれた肉体美の美しい男が優羽の胸をつかんでいた。


「ッ?!」


胸の頂を舐める時間が長いような気がする。
ぴりぴりと微弱な電流が体を駆け抜け、優羽は知らずにその男の頭を抱え込む。


「あ…あぁッ…やヒャッ!?」


軽く歯をたてられたおかげで、優羽はパチッと目を開けた。
そして、声にならない驚きに息をのんで何度も強く瞬きをする。


「なっなんあななな……」


ここが天国にしては出来すぎている。
最後の記憶とまったく変化のない場所で再生した脳内の想像は、先を予想して一気に優羽を覚醒へと導いた。


「っ…アッ?!」


びくりと体が硬直する。
胸の先を口に含みながら水平に見上げてくる涼の視線が面白そうに歪んで見える。驚きすぎて、すぐに言葉が出てこなかった。たぶん間違いがなければ、顔は赤いはずだ。
大きな白銀の狼の尻尾に全裸でくるまれていた夢から涼に抱かれる現実に変わった状況。舐めあげられる舌先に感じて、声を出していた事実を受け止めきれずに、優羽は鼓動を不安定に動かしていた。
下半身の間を陣取る涼のモノに、知らずと意識が持っていかれる。


「やっと、起きたか。」


そう言いながら顔を上げて唇を奪う涼の動きに、優羽はただ黙って固まっていた。
アレが夢じゃなければ、処女は唇を奪う彼に奪われたことになる。


「……涼?」


フッと、笑う姿はやはり涼だった。


「どうし…っ…て?」


理解できないと言う風に目をまたたかせる優羽を涼は不思議そうにジッと見つめてくる。その温かな涼の腕の中で、優羽は深い息を静かに吐き出して生きていることを実感した。


「私、死んだんじゃ───」

「そんなに気持ちよかったか?」

「───え?」


どこか嬉しそうにノドを鳴らす涼の姿に、優羽はあっけにとられてジッと見つめ返す。
何を聞かれているのか、質問の意味がいまいち理解できない。


「初めてイッた感想はどうだ?」

「えっ?」


感想を問われても答えらえるはずがない。
「イク」とは何を指す言葉なのか。戸惑いを全身で表す優羽に、また涼はおかしそうにノドを鳴らす。


「男を知った感想はどうだ?」


わざとらしく言い直した涼に、質問の意図を理解した優羽は音が出るほど全身を赤く染めた。
パクパクと声が言葉になっていない。
その様子に涼が本格的に笑いだしたのだから、恥ずかしさはますます優羽を襲った。


「優羽。お前、可愛いな。」

「ッ!!?」


人間の姿で言うのは反則に近い。
その白銀の瞳に吸い込まれそうなほど至近距離で口説かれた笑みに、優羽の心は居場所をなくしたかのように混乱していた。
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