★愛欲の施設 - Love Shelter -
□第15話 休息の愛撫
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《休息の愛撫》
ふわふわと柔らかな心地と落ち着く匂い。
ずっと昔から知ってるような懐かしさが全身を包んでいるみたいで、とても幸せな気持ちになれる。
だけど同時に、とても悲しくて辛くなる。
ごめんなさい。
どうか私を許して。
訴えた相手は誰なのかわからない。
どうしてこんなにも心が引き裂かれそうになるのかわからない。
苦しくて、胸が押しつぶされそうなほど心細くて、気づけば涙がほほを伝っていた。
「優羽」
遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえる。
前にも夢の中で、何度かその声を聴いた気がした。
「優羽」
もっと名前を呼んでほしい。
もっと、もっと私を包んで離さないでほしい。
与えられるほど貪欲になる自分が怖くて、溺れるほど苦しくなる心が痛い。
引き返す道すら見失っているのに、それでも未来への歩みを止めることもできない。
誰も選べないのに、すべてが欲しいだなんてきっとどうかしている。
だから、罰が与えられたのだろう。
永遠に逃れられない、快楽と愛欲という名の地獄に───
「優羽、起きろ。」
───ハッと眠りから覚めてみると、見慣れないシーツが目に入った。
少しごわついていて、しっかりと糊付けされた高級ホテルのシーツは、昨日の惨劇を思い出させるようにシワクチャに乱れたまま優羽の体にまとわりついている。
「ったく、無茶しすぎなんだよ。」
「輝?」
間違いない。
どこか不機嫌そうに舌打ちをしながらベッド脇に腰かけているのは、自称天才発明家。
この人が試作品だのなんだのと発明してくれたおかげで、昨日は散々な目にあったことを忘れてはいない。
「おはよう。」
ベッドに腰掛けたまま半身をひねった状態で、くしゃくしゃと頭がシーツに埋まりそうなほど撫でてくれる大きな手の心地よさに、すべてを許してしまいそうになる。
だけど、それではいけないと優羽はうつぶせの姿勢を反転させて、輝の方を向こうとした。
「っ?!」
全身が、なぜかミシッと嫌な音をたてた。
この感覚は身に覚えがある。久しく体感したことはなかったが、こんなにもすぐに反映されるほど昨日は特にひどかったのだろう。
「どうした?」
頭を撫でていた輝が、寝返りをうとうとして顔をしかめた優羽に気づく。
「体が痛い。」
「は?」
一瞬、言葉が理解できなかったのか、輝の間抜けな声が聞こえた。
「体が痛い?」
「たぶん、筋肉痛だと思う。」
節々の筋肉が動かすたびに悲鳴をあげる感覚は、これ以外に知らない。
股関節の違和感と全身を襲う倦怠感は、筋肉痛ではないが、引き起こされた原因はきっと同じだろう。
彼らの嫉妬は恐ろしい。
行き過ぎた愛情が憎悪に変わることを身をもって教えられえた優羽は、困ったように息を吐いた輝を見上げてそっと顔だけを動かした。
「いけるか?」
心配そうに手を差し伸べてくれる輝が珍しく優しい。
今はその優しさに甘えることにした優羽は、輝に転がされるようにして仰向けの姿勢になった。
天井がやっぱり違う。
「ここ、どこ?」
息を吐きだすように小さな声で尋ねた優羽に、輝はシーツをかけながら、やれやれといった口調で答えてくれた。
「俺らが所有してるホテルの一室。」
「ホテル?」
どうりで見たことのない天井だと思った。相変わらず品質の良さそうな調度品で飾られてはいるが、どこかよそ行きの空気には馴染みがない。
現在、体を包んでいるシーツも家の匂いではないどこか違う独特の匂いがしていた。
「覚えてねぇのか?」
「っ。」
昨日、自分の身に何が起こったのか。
その質問には赤面で答えるしかない。
「覚えてんじゃねぇか。」
くっくっとノドの奥で笑う輝に、優羽はますます顔を赤くして押し黙る。
こんなことなら仰向けにしてもらうんじゃなかったと、かけられたシーツで顔を隠すように、それを引き上げた。
「隠すなって。」
「やだっ。」
輝にはぎとられたシーツを奪い返して優羽はまた隠れる。
何度か繰り返されるかと思ったが、筋肉痛を気遣ってくれたのか、輝はそれ以上何もしてこなかった。
そのかわり、くすくすと何故かお腹を抱えて笑っている。
「やべぇ。」
「なっなにが?」
何か変なところでも発見されたのだろうかと優羽は焦る。
輝に弱みは極力握られたくないだけに、わたわたと慌てた様子で優羽は視線を泳がせた。
「お前、まじで可愛いな。」
「ッ!?」
本当にどうしたんだろうか。
輝の笑う顔なんて滅多に見ないだけに、心がドキッと音を立てる。